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生体内の遺伝子組み換えを光で操作するマウス系統の開発

解説

遺伝子の機能を調べる代表的なツールとして、DNA組み換え酵素であるCreリコンビナーゼ(注1)が知られていますが、生体内で用いるためにはCreが働くタイミングを簡単かつ精密にコントロールする必要があります。

東京大学医科学研究所先進動物ゲノム研究分野の吉見一人講師、真下知士教授らは、東京大学大学院総合文化研究科の佐藤守俊教授との共同研究により、光によって活性を制御できるCre(PA-Cre)(注2)を安定して発現するマウス(PA-Creノックインマウス)を作製、系統化しました。

この新しいPA-Creノックインマウスは、通常飼育ではCreはほとんど働かない一方で、青色LED光を全身に1時間照射するだけで、様々な臓器で効率よく遺伝子組み換えを起こせることがわかりました。またスポットライトを用いて部分的に光照射をすることで、臓器特異的に組み換えを起こすことに成功しました。さらにワイヤレスLEDを用いて長時間青色光を当てる方法を開発し、これまで組み換え効率の低かった脳でも高効率に組み換えを誘導することに成功しました。

このPA-Creノックインマウスは、狙った遺伝子を時期および組織特異的にノックアウト(コンディショナルノックアウト)できる新しいマウス系統になります。また非侵襲的かつ効率的にCreの働きを操作できることから、様々な遺伝子の生体機能を解明するための有用なモデルリソースになることが期待されます。

本研究成果は、国際医科学ジャーナル「Laboratory Investigation」(9月5日オンライン版)に掲載されました。

(注1)Creリコンビナーゼ
loxPと呼ばれる34塩基のDNA配列に対して働くDNA組み換え酵素。狙った遺伝子配列の前後にloxP 配列を設計することで、Creの働きによって挟んだ DNA 配列をゲノム上から取り除くことができる。

(注2)PA-Cre
光照射でDNA組換え反応をコントロールできる光活性化型Cre。二分割して一時的に活性を失わせたCreにMagnetと呼ばれるアカパンカビ由来の光スイッチタンパク質を連結したもので、光照射によってMagnetが結合するとともに分割されたCreも結合し、再び活性化される。

プレスリリース

論文情報

"生体内の遺伝子組み換えを光で操作するマウス系統の開発"

Laboratory Investigation オンライン版 2020年9月5日 doi:10.1038/s41374-020-00482-5

Kazuto Yoshimi, Yuko Yamauchi, Takao Tanaka, Toshio Shimada, Moritoshi Sato, Tomoji Mashimo