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骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果の実証

解説

東京大学医科学研究所附属病院の小沼貴晶助教、日本造血細胞移植データセンターの熱田由子センター長らを含む日本造血細胞移植学会の成人骨髄異形成症候群ワーキンググループは、同種造血細胞移植における骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果について明らかにしました。

造血器腫瘍に対する同種造血細胞移植は、最も有効ながん免疫療法の一つとされており、その理由は同種免疫反応に伴う移植片対腫瘍効果によると考えられています。移植片対腫瘍効果は、移植片対宿主病(GVHD)(注4)の発症に伴う造血器腫瘍の再発抑制効果として評価されていますが、その効果は造血器疾患の種類や病期により異なると考えられています。

骨髄異形成症候群は、難治性の血球減少と血球の形態異常を特徴とする骨髄不全症候群の一つであり、同種造血細胞移植のみが唯一の根治的治療法と考えられています。これまで、骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果に関しては、急性骨髄性白血病とともに評価されていることが多く、骨髄異形成症候群のみに対する移植片対腫瘍(Graft-versus-MDS)効果の存在や有効な集団は明らかとされていませんでした。

今回、研究グループは、日本造血細胞移植学会・日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラムによる登録データを用いて、初回同種造血細胞移植を受けた骨髄異形成症候群3119例を対象として、移植片対宿主病の発症が再発率や生存率に影響を与えるかどうか後方視的解析(注5)を実施しました。

その結果、腫瘍量の多い高リスク群では、生存率の改善に寄与する移植片対腫瘍効果を認めました。今回の研究では、骨髄異形成症候群に対する同種造血細胞移植の移植片対腫瘍効果を実証した大規模な臨床研究であり、さらなる治療成績の改善やがん免疫療法の発展に役立つと考えています。

本研究成果は2020年9月7日、国際学術誌「Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research」(オンライン版)に掲載されました。


(注1)骨髄異形成症候群(MDS): 難治性の血球減少と血球の形態異常を特徴とする骨髄不全症候群の一つ。
(注2)同種造血細胞移植:造血器疾患の治療法の一つ。大量の抗がん剤や全身放射線照射の後に、ドナーの骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血などの造血細胞を投与する。
(注3)移植片対腫瘍(GVT)効果:移植されたドナーの免疫細胞が、残存している可能性のある腫瘍細胞を攻撃することで生じる免疫療法としての効果。
(注4)移植片対宿主病:移植されたドナーの免疫細胞が、移植を受けた宿主に対して免疫学的反応を引き起こすことで生じる合併症。
(注5)後方視的解析:既存の診療情報を用いて、データ解析する方法。
 

プレスリリース

論文:Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research 別ウィンドウで開く

論文情報

"Effects of acute and chronic graft-versus-myelodysplastic syndrome on long-term outcomes following allogeneic hematopoietic cell transplantation"

Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research オンライン版 2020年9月7日 doi:10.1158/1078-0432.CCR-20-1104

Takaaki Konuma*, Ken Ishiyama, Aiko Igarashi, Naoyuki Uchida, Yukiyasu Ozawa, Takahiro Fukuda, Yasunori Ueda, Ken-ichi Matsuoka, Takehiko Mori, Yuta Katayama, Makoto Onizuka, Tatsuo Ichinohe, and Yoshiko Atsuta; for the Adult Myelodysplastic Syndrome Working Group of the Japan Society for
Hematopoietic Cell Transplantation.