加齢に伴う運動機能低下に対する新たな治療概念の実証
-神経筋接合部の形成増強による老齢マウスの運動機能と筋力の増強-
加齢に伴う運動機能低下に対する新たな治療概念の実証
― 神経筋接合部の形成増強による老齢マウスの運動機能と筋力の増強 ―
iScience(2020年8月5日オンライン) DOI :10.1016/j.isci.2020.101385
私たちの運動機能には、運動神経を介した骨格筋収縮の緻密な制御が必要です。神経筋接合部(NMJ、注1)は運動神経と骨格筋を結ぶ唯一の「絆」(神経筋シナプス)であり、その喪失は呼吸を含めた運動機能の喪失を意味します。
東京大学医科学研究所の山梨裕司教授らの研究グループは、これまでにNMJの形成に必須のタンパク質としてDok-7を、また、そのヒト遺伝子(DOK7)の遺伝病としてDOK7型筋無力症(注2)を発見しています。さらに、マウスを用いた実験から、DOK7発現ベクター(注3)の投与によりNMJ形成を後天的に増強できることを発見し、そのような「NMJ形成増強治療」がDOK7型筋無力症だけでなく、ある種の筋ジストロフィー(注4)や、筋萎縮性側索硬化症(注5)を発症したマウスの運動機能を改善し、生存期間を延長することを実証していました。
今回、研究グループは、運動神経と骨格筋を結ぶNMJから運動神経が離れてしまう「神経脱離」が老化と共に進行することに着目し、NMJ形成増強治療による老齢マウスの運動機能に対する増強効果の研究を実施しました。
その結果、NMJでの運動神経脱離が進行し、運動機能が低下した老齢マウスにDOK7発現ベクターを投与することにより、1)NMJにおける運動神経結合の増強、2)運動神経刺激に対する骨格筋応答の増強、3)個体の運動機能と筋力の増強、を実証しました。
この成果は、本学で開発したNMJ形成増強治療が、多様な要因により引き起こされる加齢性の運動機能低下に有効である可能性を提示するもので、高齢化社会における生活の質の向上に資する全く新しい医療技術としての発展が期待されます。
本研究成果は2020年8月5日(米国東部夏時間)、米国科学雑誌「iScience」に掲載されました。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金などの助成を受け、国立長寿医療研究センターの小木曽昇博士、花王株式会社生物科学研究所の太田宣康博士らとの共同研究として実施されました。
東京大学医科学研究所の山梨裕司教授らの研究グループは、これまでにNMJの形成に必須のタンパク質としてDok-7を、また、そのヒト遺伝子(DOK7)の遺伝病としてDOK7型筋無力症(注2)を発見しています。さらに、マウスを用いた実験から、DOK7発現ベクター(注3)の投与によりNMJ形成を後天的に増強できることを発見し、そのような「NMJ形成増強治療」がDOK7型筋無力症だけでなく、ある種の筋ジストロフィー(注4)や、筋萎縮性側索硬化症(注5)を発症したマウスの運動機能を改善し、生存期間を延長することを実証していました。
今回、研究グループは、運動神経と骨格筋を結ぶNMJから運動神経が離れてしまう「神経脱離」が老化と共に進行することに着目し、NMJ形成増強治療による老齢マウスの運動機能に対する増強効果の研究を実施しました。
その結果、NMJでの運動神経脱離が進行し、運動機能が低下した老齢マウスにDOK7発現ベクターを投与することにより、1)NMJにおける運動神経結合の増強、2)運動神経刺激に対する骨格筋応答の増強、3)個体の運動機能と筋力の増強、を実証しました。
この成果は、本学で開発したNMJ形成増強治療が、多様な要因により引き起こされる加齢性の運動機能低下に有効である可能性を提示するもので、高齢化社会における生活の質の向上に資する全く新しい医療技術としての発展が期待されます。
本研究成果は2020年8月5日(米国東部夏時間)、米国科学雑誌「iScience」に掲載されました。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金などの助成を受け、国立長寿医療研究センターの小木曽昇博士、花王株式会社生物科学研究所の太田宣康博士らとの共同研究として実施されました。
(注1)神経筋接合部:運動神経からの制御シグナルを骨格筋(筋線維)に伝える唯一の化学シナプスであり、NMJ(neuromuscular junction)とも呼ばれます。ヒトを含む哺乳動物では原則として各筋線維の中央部にひとつだけ形成され、運動神経の軸索末端(前シナプス)から放出されるアセチルコリンが筋線維の後シナプス部位に凝集しているアセチルコリン受容体を刺激することで骨格筋の収縮が誘導されます(模式図:下段、左側の図を参照)。
(注2)DOK7型筋無力症:筋無力症は神経筋接合部の異常が直接の原因となって発症する神経筋疾患の総称で、易疲労性の筋力低下を特徴とし、重篤例では呼吸不全により死に至ります。研究グループが発見したDOK7型筋無力症は先天性筋無力症候群に分類される潜性(劣性)遺伝病であり、神経筋接合部の大きさが健常者の半分程度に小さくなる神経筋接合部の形成不全による疾患です。
(注3)ベクター:遺伝子を用いた治療法においては、標的とする細胞・組織に特定の遺伝子を発現させるもの(運搬体)を意味します。本研究ではアデノ随伴ウイルスがDOK7遺伝子を発現させるための運搬体として使われており、それ故、ベクターとして扱われます。
(注4)筋ジストロフィー:骨格筋の変性・壊死による運動機能低下が特徴の遺伝性疾患です。骨格筋に発現する遺伝子の変異・発現調節異常により筋細胞の機能が障害されて惹起されると考えられており、50以上の原因遺伝子が解明されています。
(注5)筋萎縮性側索硬化症(ALS;Amyotrophic Lateral Sclerosis):様々な要因によって発症する、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンに選択的な神経変性疾患(運動神経変性疾患)であり、運動機能の低下と筋萎縮を特徴とし、約半数は発症後数年で主に呼吸筋麻痺により死亡する重篤な疾患です。

研究グループが開発したヒトDOK7遺伝子の発現ベクター(AAV-D7)は、老齢マウスへの投与により神経筋接合部(NMJ)の形成増強を誘導すると共に、NMJにおける運動神経結合を増強し、老齢マウスの運動機能と筋力を強化する。
プレスリリース
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