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日本人特有の白血病発症メカニズムの解明へ
-バイオバンク・ジャパンデータベースの活用による成果-

日本人特有の白血病発症メカニズムの解明へ
-バイオバンク・ジャパンデータベースの活用による成果-

Chromosomal alterations among age-related hematopoietic clones in Japan. 
 Nature  DOI: 10.1038/s41586-020-2426-2
Terao C, Suzuki A, Momozawa Y, Akiyama M, Ishigaki K, Yamamoto K, Matsuda K, Murakami Y, McCarroll SA, Kubo M, Loh PR, Kamatani Y.

理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、鎌谷洋一郎客員主管研究員(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)らの国際共同研究グループは、血中で後天的なDNA変異を持つ白血球がクローン性に増殖する[1]ことで、生まれながらのDNA配列と変異した配列が混ざって見える現象(体細胞モザイク[2])を解析し、加齢に伴うDNA変異と体細胞モザイク出現はほぼ不可避であること、体細胞モザイクが白血病をはじめとするがん化メカニズムに影響を与えることを明らかにしました。さらに、体細胞モザイクは全死亡率の10%の上昇と関連することも分かりました。

今回、国際共同研究グループは、日本最大級のDNAデータベースであるバイオバンク・ジャパン(BBJ)[3]の登録者約18万人のDNAマイクロアレイ[4]のデータを解析し、従来、生まれつきの変異の同定にのみ使われてきたデータの中から後天的DNA変異の存在を表す体細胞モザイクを検出しました。そして、体細胞モザイク出現に関連する遺伝的多型[5]を同定し、その分子機構を明らかにしました。また、血液悪性腫瘍では、がん化を反映する変化が発症前の段階から起きていることを見いだしました。さらに、日本人に多い白血病発症に関連する変異を同定し、イギリス人に多い白血病発症に関連する変異が日本人にはあまり見られないことも明らかにしました。

今後、これらの知見に加えて、新たに全ゲノムシーケンス解析[6]を行い情報を集約させることにより、日本人に特有の機構を含め、老化やがん化メカニズムのさらなる詳細な解明や、生命予後の予測を可能とする臨床医学の発展につながると期待できます。 本研究は、科学雑誌『Nature』の掲載に先立ち、オンライン版(6月24日付:日本時間6月25日)に掲載されました。
日本人特異的体細胞モザイク(左)と加齢に伴う体細胞モザイク保有割合の上昇(右)

[1] クローン性に増殖する
ある細胞が何回も増殖すること。自分のクローンを作るように増殖することから、このように表現されることが多い。
 
[2] 体細胞モザイク
体細胞(生殖細胞以外の細胞一般)において、後天的な変異が生じることによって、変異が無い体細胞と変異がある体細胞が混ざった状態(モザイク)となること。今回は特に後天的な変異が一塩基レベルではなく、染色体レベルあるいはその一部(数Mb)に及ぶものを体細胞モザイクと表現している
 
[3] バイオバンク・ジャパン(BBJ)
日本人集団27万人を対象とした生体試料のバイオバンクで、東京大学医科学研究所内に設置されている。理化学研究所が実験を行って取得した約20万人のゲノムデータを保有する。オーダーメイド医療の実現プログラムを通じて実施され、ゲノムDNAや血清サンプルを臨床情報とともに収集し、研究者へのデータ提供や分譲を行っている。
詳細はhttps://biobankjp.org/を参照。
 
[4] DNAマイクロアレイ
基板の上に、遺伝的多型(主にSNP)に相補的なprobeを搭載したビーズを高密度に配置し、数十万~数百万の遺伝的多型を検出するための分析器具。
 
[5] 遺伝的多型
遺伝的多型とは、ある集団において、一つの遺伝的座位に、二つかそれ以上の頻度の高い異なるアレルが存在する状態をいう。
 
[6] 全ゲノムシーケンス解析
次世代シーケンサーを使って、個人(約30億塩基)やがんの全ゲノム情報を解読し、配列の違いや変化を同定すること。データが大量になるため、スーパーコンピュータを使って情報解析を行うのが一般的である。タンパク質をコードする1~2%の範囲のエクソンだけでなく、遺伝子の発現を制御するゲノム領域の変異やさまざまな構造異常(大きなゲノム配列異常)も検出可能である。

プレスリリース