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疾患発症に関わる日本人の遺伝的特徴の解明
-日本人21万人のゲノム解析により遺伝的変異を検索-

疾患発症に関わる日本人の遺伝的特徴の解明
-日本人21万人のゲノム解析により遺伝的変異を検索-

Large scale genome-wide association study in a Japanese population identifies novel susceptibility loci across different diseases 
 Nature Genetics(2020年6月8日)  DOI: 10.1038/s41588-020-0640-3
Kazuyoshi Ishigaki, Masato Akiyama, Masahiro Kanai, Atsushi Takahashi, Eiryo Kawakami, Hiroki Sugishita, Saori Sakaue, Nana Matoba, Siew-Kee Low, Yukinori Okada, Chikashi Terao, Tiffany Amariuta, Steven Gazal, Yuta Kochi, Momoko Horikoshi, Ken Suzuki, Kaoru Ito, Satoshi Koyama, Kouichi Ozaki, Shumpei Niida, Yasushi Sakata, Yasuhiko Sakata, Takashi Kohno, Kouya Shiraishi, Yukihide Momozawa, Makoto Hirata, Koichi Matsuda, Masashi Ikeda, Nakao Iwata, Shiro Ikegawa, Ikuyo Kou, Toshihiro Tanaka, Hidewaki Nakagawa, Akari Suzuki, Tomomitsu Hirota, Mayumi Tamari, Kazuaki Chayama, Daiki Miki, Masaki Mori, Satoshi Nagayama, Yataro Daigo, Yoshio Miki, Toyomasa Katagiri, Osamu Ogawa, Wataru Obara, Hidemi Ito, Teruhiko Yoshida, Issei Imoto, Takashi Takahashi, Chizu Tanikawa, Takao Suzuki, Nobuaki Sinozaki, Shiro Minami, Hiroki Yamaguchi, Satoshi Asai, Yasuo Takahashi, Ken Yamaji, Kazuhisa Takahashi, Tomoaki Fujioka, Ryo Takata, Hideki Yanai, Akihide Masumoto, Yukihiro Koretsune, Hiromu Kutsumi, Masahiko Higashiyama, Shigeo Murayama, Naoko Minegishi, Kichiya Suzuki, Kozo Tanno, Atsushi Shimizu, Taiki Yamaji, Motoki Iwasaki, Norie Sawada, Hirokazu Uemura, Keitaro Tanaka, Mariko Naito, Makoto Sasaki, Kenji Wakai, Shoichiro Tsugane, Masayuki Yamamoto, Kazuhiko Yamamoto, Yoshinori Murakami, Yusuke Nakamura, Soumya Raychaudhuri, Johji Inazawa, Toshimasa Yamauchi, Takashi Kadowaki, Michiaki Kubo and Yoichiro Kamatani

国理化学研究所(理研)生命医科学研究センター統計解析研究チーム(研究当時)の鎌谷洋一郎チームリーダー、石垣和慶特別研究員、久保充明副センター長(研究当時)、東京大学の門脇孝名誉教授、山内敏正教授、東京医科歯科大学の稲澤譲治教授らの国際共同研究グループは、バイオバンク・ジャパン[1]のゲノムデータを用いて、東北メディカル・メガバンク計画[2]、JPHC研究[3]、J-MICC研究[4]と共同で日本人約21万人のゲノム解析を行い、27疾患に関わる320の遺伝的変異を同定し、そのうち重要な遺伝的バリアント[5]について、国立がん研究センターバイオバンク[6]、国立長寿医療研究センターバイオバンク[7]ならびにOACIS研究[8]の協力で再現性を確認しました。本研究成果は、疾患の病態の理解、疾患発症リスクの民族差の理解、個々人の遺伝子情報に基づく個別化医療の発展に貢献すると期待できます。

今回、共同研究グループは、42疾患を対象とした東アジアにおける最大規模のゲノムワイド関連解析(GWAS)[9]を実施し、320の遺伝的変異を同定しました。そのうち25変異は、欧米での研究では検出されなかった新しい変異であり、虚血性心疾患に関連するATG16L2、肺がんに関連するPOT1、ケロイドに関連するPHLDA3などの遺伝子のタンパク質のアミノ酸配列を変える変異が含まれていました。また、このGWASの解析結果と転写因子[10]の結合部位を統合する解析を実施し、疾患発症に関与する転写因子と疾患の378の組み合わせを同定しました。
本研究は、科学雑誌『Nature Genetics』オンライン版(6月8日付:日本時間6月9日)に掲載されました。


本研究で同定された疾患感受性遺伝子の一覧(新規領域は赤字で表示)

[1] バイオバンク・ジャパン(BBJ)
アジア最大規模の疾患バイオバンクで、東京大学医科学研究所内に設置されている。オーダーメイド医療の実現プログラムの基盤であり、日本人20万人から収集したDNAや血清サンプルを臨床情報とともに厳重に保管し、研究者への試料やデータの提供を行っている。
詳細はhttps://biobankjp.org/を参照。

[2] 東北メディカル・メガバンク計画
東日本大震災の被災地を含む地域で長期健康調査を行い、被災地の健康状態の改善および遺伝要因・環境要因を考慮した次世代型医療・予防の確立を目標とした計画。日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構が連携して事業を実施している。
詳細は https://www.megabank.tohoku.ac.jp/
http://iwate-megabank.org/
を参照。

[3] JPHC研究(JPHC Study、多目的コホート研究)
「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究 (主任研究者 津金昌一郎 国立がん研究センター社会と健康研究センター長)」において、全国11保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究として行われている。
詳細は http://epi.ncc.go.jp/jphc/ 参照。

[4] J-MICC研究(日本多施設共同コーホート研究)
がんなどの生活習慣病に対し、生活習慣に加え、遺伝的体質も考慮した予防対策に必要な基礎データを築くことを目的として、13の大学・がんセンターが共同して実施している大規模追跡調査(中央事務局:名古屋大学)。研究は2005年(一部2004年)に開始され、千葉から沖縄におよぶ地域で約103,000名が参加、現在も追跡調査を継続している。
詳細はhttp://www.jmicc.com/を参照。

[5] 遺伝的バリアント
個人間でゲノムDNA配列が違う場所を指す。遺伝的バリアントのうち、代表的なものが一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)である。
参考:https://bsd.neuroinf.jp/wiki/遺伝子多型

[6] 国立がん研究センター(NCC)バイオバンク
国立がん研究センターでは、中央病院(東京都中央区)・東病院(千葉県柏市)を受診された患者を対象に、検査に使用した血液や組織、手術などで摘出された組織の診療後の残りと、それらに付随する診療情報、診療後の経過の情報の提供・研究への利用をお願いし、これらの試料と情報を整理して保管し、がんなどの医学研究に使用している。本研究においては、肺がん患者の血液検体をゲノム解析に使用した。
詳細はhttps://www.ncc.go.jp/jp/biobank/index.htmlhttps://www.ncc.go.jp/jp/biobank/index.htmlを参照。

[7] 国立長寿医療研究センター(NCGG)バイオバンク
国立長寿医療研究センターのメディカルゲノムセンターの所掌事業として運営されているバイオバンク。NCGGバイオバンクは、高齢期に発症する認知症や骨関節疾患などを中心に、サンプルを収集・保管している。
詳細はhttps://www.ncgg.go.jp/mgc/biobank/index.htmlを参照。

[8] OACIS研究(大阪急性冠症候群研究)
阪神地区の25施設で収集された急性心筋梗塞患者を登録した、大阪大学を中心とするプロジェクト。Osaka Acute Coronary Insufficiency Studyの略。

[9] ゲノムワイド関連解析(GWAS)
疾患や身長・体重などの量的な形質に影響があるゲノム上のマーカー(遺伝的変異)を、網羅的に検索する手法。2002年に、理研が世界に先駆けて報告を行っており、以降、さまざまな疾患や量的形質に関連するゲノムマーカー同定に貢献している。GWASはGenome-Wide Association Studyの略。

[10] 転写因子
DNA上の特定の配列を認識して結合し、RNAの転写の開始に関わる因子。結合部位の遺伝的バリアントは転写因子の結合のしやすさに影響する。
プレスリリース