コヒーシン遺伝子変異による白血病発症の機序を解明
ー染色体の3次元構造の異常が発がんにー
コヒーシン遺伝子変異による白血病発症の機序を解明
―染色体の3次元構造の異常が発がんに―
Cancer Discovery(2020年4月6日) URL: https://doi.org/10.1158/2159-8290.CD-19-0982
急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群は血液のがんで、現在でも根治の難しい難治性の病気です。正常な血液細胞が遺伝子変異を獲得することで白血病を発症しますが、近年、本研究グループより新規コヒーシン遺伝子(注1)変異が10-20%の白血病に認められることを報告しました。しかし、コヒーシン変異がどのように白血病を引き起こすかは、十分に分かっていません。さらに、がん細胞にしばしば複数の遺伝子変異が蓄積していることも分かってきましたが、複数の変異が発がんに関わる機序についても、不明な点が多く残されています。
今回、京都大学大学院医学研究科・腫瘍生物学講座 小川誠司 教授、越智陽太郎 同特定助教、マサチューセッツ工科大学・コーク癌総合研究所 鈴木洋 客員研究員、東京大学定量生命科学研究所・ゲノム情報解析研究分野 白髭克彦 教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 宮野悟 教授らを中心とする研究チームは、3,000症例以上の白血病の大規模なゲノム解析、ノックアウトマウスの解析、更に次世代シーケンサーを活用した統合的エピジェネティック解析(注2)を実施しました。その結果、以下の3点を解明しました。
(1) コヒーシンの一つであるSTAG2遺伝子変異が、RUNX1遺伝子変異と高頻度に共存すること
(2) これらの遺伝子の両方に異常が生じることで、骨髄異形成症候群を発症すること
(3) コヒーシン変異が染色体の3次元構造の変化などのエピジェネティックな異常を引き起こし、
更にRUNX1変異が加わることでその異常が加速し、発がんに至ること
今回の研究結果は、コヒーシン変異や新規エピジェネティック異常を標的とした治療・予防法の開発に重要な手がかりを与える知見で、今後これらを標的とした新規治療薬の開発が期待されます。本研究成果は、2020年4月6日に米国癌学会の学会誌である「Cancer Discovery」に掲載されました。
<用語解説>
(注1)コヒーシン遺伝子:SMC1, SMC3, RAD21, STAG1/2の4つのタンパク質で構成される複合体で、リング状の構造をとり、細胞分裂やDNA損傷の修復、更には遺伝子発現の調節など、多彩な機能をもつことが知られています。コヒーシン遺伝子は、これら4つのタンパク質のいずれかをコードする遺伝子を指します。
(注2)エピジェネティック解析:エピジェネティクスとは、細胞の遺伝情報(DNA)の塩基配列の変化を伴わない情報記憶と遺伝子発現調節のメカニズムです。エピジェネティクスを担う機構として、DNAメチル化やヒストン修飾、染色体の3次元構造などがあります。本研究のエピジェネティック解析では、次世代シーケンサーを駆使し、このエピジェネティクスの状態を網羅的に評価しました。