膵臓がんが発生する新たなメカニズムを解明 遺伝子変異とは異なるがんの原因
膵臓がんが発生する新たなメカニズムを解明 遺伝子変異とは異なるがんの原因
柴田博史 特別研究学生(元 京都大学CiRA, 岐阜大学大学院医学系研究科)および山田泰広 教授(元 京都大学CiRA、現 東京大学医科学研究所、AMED-CREST)らの研究グループは、膵臓がんが発生するメカニズムとして、遺伝子変異以外のメカニズムを解明しました。
体細胞からiPS細胞へと変化する初期化の過程では、遺伝子の変化を伴わないエピジェネティックな変化によって細胞の性質が大きく変化します。まず元の細胞で働いていた遺伝子の働きが弱くなる脱分化が起こり、更に初期化が進むと多能性を持つ細胞(iPS細胞)へと変化します。がん細胞が発生する際にも、脱分化に似た状態が生じていることが知られています。山田教授らのグループは、がんの原因となる代表的な遺伝子であるKrasやp53の変異によって誘導される膵臓がんを対象として、膵臓の細胞を部分的に初期化することで脱分化を起こし、がん発生に与える影響を検証しました。膵臓の細胞を脱分化すると、膵臓の細胞を特徴づける遺伝子の働きが一時的に抑制されました。これは膵臓がんの危険因子の一つとされる膵炎で見られる現象に似ていました。Kras遺伝子に変異を持つマウス、あるいはKrasとp53遺伝子に変異をもつマウスでは、がんの代表的な細胞内シグナル伝達注3に関わるタンパク質であるERKが十分に活性化されておらず、膵臓がんにまでは至りませんでしたが、Kras変異マウスに一時的に初期化因子を働かせて膵臓細胞を脱分化させると、ERKが活性化され、膵臓がんを形成しました。こうした結果から、脱分化に伴うエピジェネティックな変化が膵臓がんの発生に重要な役割を果たしていると考えられます。
この研究成果は2018年5月25日18:00 (日本時間)に「Nature Communications」で公開されました。
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