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ドナー細胞のキメリズムを異種キメラ体内にて飛躍的に上昇させることに成功

解説

東京大学医科学研究所 東京大学特任教授部門 幹細胞治療部門の中内啓光特任教授(スタンフォード大学教授兼任)、東京大学医科学研究所 附属幹細胞治療研究センターの西村俊哉日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、多能性幹細胞(ドナー細胞、注1)を着床前胚(ホスト胚、注2)に移植することで作製したキメラ胚(注3)において、ホスト胚の成長因子受容体を欠損させることでドナー細胞のキメリズムを飛躍的に上昇させる手法(細胞競合ニッチ法)を開発し、本手法を用いて、ほとんどドナー細胞で構成された臓器を作製することに成功しました。

これまでは異種間のキメラ作出において、高いドナーキメリズムは初期胚発生の段階で異種キメラ胚の胎生致死を誘導することから、高いドナーキメリズムを持つキメラを得ることができませんでした。本研究により開発した手法は、胚発生後期からドナーキメリズムを上昇させることから、胎生致死を誘導することなく異種キメラ体内にてドナー細胞のキメリズムを上昇させることを可能にしました。今回の成果により、これまで問題とされていたドナー細胞の異種組織への低寄与率を改善できる可能性が示され、中内特任教授らのグループが目指す胚盤胞補完法(注4)を利用した臓器再生における問題が解決できるのではないかと考えられます。
本研究成果は12月28日付の米科学雑誌「Cell Stem Cell」オンライン版に掲載されました。 

(注1)多能性幹細胞(ドナー細胞)
胎盤などの組織(胚体外組織)を除く体中の様々な組織に分化する能力を持つ細胞。多能性幹細胞には2種類あり、受精卵に含まれる細胞を培養した細胞は「胚性幹細胞(ES細胞)」、体細胞に遺伝子を導入して人工的に樹立した細胞を「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」という。

(注2)着床前胚(ホスト胚)
母体子宮に着床する前の発生段階にある受精卵の総称。

(注3)キメラ胚
2つ以上の遺伝的背景の異なる細胞によって構成された胚。1つの受精卵から異なる遺伝形質をもった細胞が出現するモザイク胚や、異なる遺伝形質を持つ動物同士の交配でできるハイブリッド胚とは異なる。キメラ胚は胚と胚の融合、胚への多能性幹細胞の注入により作製できる。

(注4)胚盤胞補完法
遺伝的に臓器が欠損する動物の受精卵(胚盤胞)に正常な多能性幹細胞を注入しキメラ動物を形成することで、欠損していた臓器を注入した多能性幹細胞が補完し、臓器欠損動物の体内に完全に多能性幹細胞由来の臓器を再生させる方法。 

プレスリリース

論文情報

"Generation of Functional Organs Using a Cell Competitive Niche in Intra-and Inter-species Rodent Chimeras "

Cell Stem Cell オンライン版 2020年12月28日(米国東部時間) doi:10.1016/j.stem.2020.11.019

Toshiya Nishimura, Fabian P. Suchy, Joydeep Bhadury, Kyomi J. Igarashi, 
Carsten T. Charlesworth, Hiromitsu Nakauchi*(*corresponding author)

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