デクチン-2はα-マンナンの特異的受容体であり、IL-17産生T細胞の分化を誘導することによりカンジダ感染防御に重要な役割を果たす
デクチン-2はα-マンナンの特異的受容体であり、IL-17産生T細胞の分化を誘導することによりカンジダ感染防御に重要な役割を果たす
真菌類には食用キノコや酵母、カビなどが含まれ、細胞壁はマンナン、βグルカン、キチンなどの多糖類で構成されていることが知られています。キノコや酵母などは食用に供され、その構成成分中には免疫系を活性化すると言われているものも存在しています。一方で、カビは常在菌として環境中に存在し、人に病原性を示すものもあります。しかしながら、これまでこのような真菌類の免疫系に対する作用や、感染防御機構はよくわかっておらず、明確な実験的証拠が示されておりませんでした。
Candia albicans (C. albicans)は人に感染性を示す代表的なカビの一種で、皮膚や粘膜に常在しています。健常人には通常病原性を示しませんが、エイズや末期がん患者など免疫能が低下した人に対しては、命に関わる重篤な病態を引き起こすことがあります。私たちはこの菌が宿主の免疫系に対して与える影響と感染防御機構を知るために、これまで細胞壁のマンナンと結合することが知られていたデクチン(Dectin)-2に着目し、この遺伝子の欠損マウスを作製してその機能を解析しました。デクチン-2はC型レクチンと呼ばれる糖鎖認識受容体の一種で、私達は先に同じC型レクチンの仲間のデクチン-1がβグルカンの受容体であり、カリニ肺炎の病因となるカビの一種Pneumocystis cariniiの感染防御に重要な役割を果たしていることを明らかにしております。デクチン-2は真菌の細胞壁を構成する糖鎖のうちマンナンと結合することが知られていましたが、本研究ではデクチン-2がα-マンナンを認識すると、Fc受容体γ鎖、CARD9を介してNF-κBを活性化し、強力にサイトカイン産生を誘導することを明らかにしました(図1参照)。デクチン-2欠損マウス由来の骨髄由来樹状細胞は試験管の中でα-マンナンによるサイトカイン産生能を失っているばかりではなく、これらの欠損マウスはC. albicansに対する感染防御能が顕著に低下し、野生型マウスと比較し、有意に生存率が低下しておりました(図2参照)。
また、試験管内でC. albicansと樹状細胞を培養した時の上清をナイーブT細胞の培養液に添加すると、Th17とよばれる感染防御や炎症反応で重要な役割を果たすT細胞が効率的に分化してくるのに対し,デクチン-2欠損マウスの樹状細胞由来の培養液はTh17細胞を分化させる能力が低下している事が分かりました。これらの結果から、デクチン-2は真菌表面に存在するαマンナンに結合するだけでなく,特異的なシグナルを細胞内に伝える活性化受容体である事,デクチン-2を介したシグナルはサイトカイン産生を誘導してこれらのサイトカインがT細胞を優先的にTh17細胞に分化させること、その結果Th17細胞が産生するIL-17がカンジダの感染防御に非常に重要な役割を果たしている事が分かりました。これらの知見は、新たな抗真菌薬開発や機能性食品の開発に役立つ可能性があります。この研究はCREST、生研センター、文科省の補助を受けて行ったものです。
図1.デクチン-1とデクチン-2によるサイトカイン分泌機構模式図
図2.デクチン-2を欠損するとカンジダ菌に対する抵抗力が低下する