スペイン風邪をサルで再現させて、謎だったウイルスの病原性を解析
スペイン風邪をサルで再現させて、謎だったウイルスの病原性を解析
Nature 445, 319-323, 2007.
スペイン風邪は、1918年(大正7年)から翌年にかけて世界的に流行したH1N1型のA型インフルエンザウイルス感染症です。20世紀に人類が経験した新型インフルエンザウイルスのうち、スペイン風邪では、最大の被害者数、つまり全世界で2000万~4000万人の死者が出たといわれています。ところが、当時、インフルエンザウイルスを分離する技術は確立しておらず、流行当時のウイルスは現存していません。そのため、なぜその様な強い病原性があったのかは全く不明なままでした。
私たちは、1918年のスペイン風邪ウイルスの遺伝子を、公表された遺伝子配列から再構築し、リバースジェネティクス法により1918年のウイルスを人工合成しました。このスペイン風邪ウイルスはマカカ属のサルに強い致死性の肺炎を引き起こさせました。また、感染したサルは、ウイルスに対する自然免疫反応の調節に異常を起こしていることがわかりました。
インフルエンザウイルスが、感染した人や動物の免疫反応の調節に異常を起こす現象は、H5N1鳥インフルエンザウイルスの感染でも確認されています。
したがって、この研究成果は、H5N1鳥インフルエンザウイルスを含む、強毒なインフルエンザウイルスの病原性を決定する、共通の特徴を捉えており、治療方法の確立や感染防御を考える上でも重要な発見です。