研究成果のポイント |
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※本研究は、『Scientific Reports』に掲載されました。(英国時間6月24日10時付:日本時間6月24日18時付オンライン)
※本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」の一環として行われました。
研究の背景
再生医療に用いるヒトiPS細胞から分化誘導した機能細胞(臓器細胞)は、全ての細胞を完全に分化させることが困難であるため、未分化なiPS細胞がわずかに混入する可能性があります。未分化なiPS細胞が体内へ移植された場合、奇形腫を形成する可能性があるため、機能細胞を患者さんに移植する前に、未分化なiPS細胞の混入の可能性を評価する必要があります。現在、本研究グループは2013年に確立したミニ肝臓*1の作製技術(Nature 499(7459): 481-4, 2013 )の再生医療への応用を目指していますが、肝臓の再生医療に向けては、大量の細胞を移植する必要があるため、製造工程で実施できる迅速かつ高感度な未分化iPS 細胞の混入検出手法が必要となります。これまでにいくつかの未分化iPS細胞の混入評価法が報告されているため、これらの評価法で用いられるマーカー遺伝子の使用を試みましたが、これらのマーカー遺伝子は、肝臓では正常の発生過程においても発現が見られました。したがって、ヒトiPS細胞から分化誘導した際にも、正常な肝臓細胞として発現するのか、あるいは未分化iPS細胞が混入しているのか区別が付かず、評価手法としては不適切であることが明らかとなりました。
そこで本研究では、これまでに実施したヒトiPS細胞由来ミニ肝臓を対象とした1細胞レベルの全遺伝子発現情報(Nature 546(7659):533-538, 2017)をもとに、このミニ肝臓の品質評価に適した評価手法の開発に取り組みました。
研究の内容
まず、これまでに実施したヒトiPS細胞由来ミニ肝臓を対象とした1細胞レベルの全遺伝子発現情報の再解析を行い、分化細胞に混入する未分化iPS細胞を検出可能なマーカーとして、未分化iPS細胞での発現が特異的に高く、分化細胞で発現が減少する12遺伝子を抽出しました。これら12遺伝子について詳細な遺伝子発現解析や、実際に分化細胞の中に未分化iPS細胞を混入させて、混入した未分化iPS細胞を検出する試験などを実施し、特にESRG、CNMD、SFRP2の3遺伝子がヒトiPS細胞由来肝細胞に未分化iPS細胞が混入した場合にも、高感度に検出可能であり、再生医療用細胞の品質評価に有効であることが明らかとなりました。ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓は肝細胞の他、ヒトiPS細胞由来血管内皮細胞、ヒトiPS細胞由来間葉系細胞を用いることから、これらの細胞でも、未分化iPS細胞の混入評価に有効か否か検討を行いました。その結果、ヒトiPS細胞由来血管内皮細胞、ヒトiPS細胞由来間葉系細胞においても、混入した未分化iPS細胞を高感度に検出する上で有効であることが明らかとなりました。脊椎動物は発生初期に、内胚葉、中胚葉、外胚葉という3種類の胚葉(三胚葉)を形成し、これらの胚葉からそれぞれ内胚葉は肝臓や肺、腸、膵臓など、中胚葉は血管や間葉系細胞、心筋細胞など、外胚葉からは神経や皮膚などが作られます。本研究で同定したマーカー遺伝子が内胚葉由来細胞(肝臓、膵臓)、中胚葉由来細胞(血管内皮細胞、間葉系細胞)において有効であったことから、外胚葉由来細胞である神経細胞においても有効であるか検討しました。すると、ヒトiPS細胞由来神経細胞においても混入した未分化iPS細胞を高感度に検出する上で有効であることが明らかとなりました。これらの結果から、本研究で同定したマーカー遺伝子はヒトiPS細胞を用いた再生医療を実現する上で、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓だけでなく、さまざまな臓器の細胞の品質評価に有効であると期待されます。