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RNA-タンパク質相互作用を対象とした 新たな研究ツールの開発 ――「記録」「測定」「探索」でRPIを多角的に解析――

発表のポイント
  • RNAを標的とするCRISPR/Cas13と既存のタンパク質間相互作用解析技術を組み合わせ、「BiFC-dCas13」「NanoBiT-dCas13」「split-TurboID-dCas13」という三つのRNA-タンパク質相互作用(RPI)解析ツールを開発しました。
  • BiFC-dCas13はRPIの履歴を「記録する」、NanoBiT-dCas13はRPIの変化を「測定する」、split-TurboID-dCas13はRPI周辺の分子を「探索する」という、それぞれ異なる特徴を持つことを示しました。
  • これらの技術を駆使してRNAとタンパク質の相互作用を多角的に解析することで、未解明の生命現象の理解につながる可能性があります。
    本研究で開発した三つのRNA-タンパク質相互作用解析技術の概念図
 

 概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻メディカルサイエンス講座先進分子腫瘍学分野の合山進教授、山本圭太助教、四方紫織学術専門職員と同大学医科学研究所タンパク質代謝制御分野の佐伯泰教授、冨田拓哉助教らによる研究グループは、RNAを標的とするCRISPR/Cas13(注1)と既存のタンパク質間相互作用解析技術を組み合わせ、「BiFC-dCas13」「NanoBiT-dCas13」「split-TurboID-dCas13」という三つの新しいRNA-タンパク質相互作用(RPI、注2)解析ツールを開発しました(図1)。

RPIは、RNAの機能制御や細胞内構造体の形成など多くの生命現象に関わっています。しかし、生きた細胞内で特定のRPIを解析する手法は限られていました。

研究グループは、今回開発した三つのRPI解析ツールを長鎖ノンコーディングRNA「NEAT1」(注3)とRNA結合タンパク質「NONO」(注4)の相互作用解析に応用し、RPIの蛍光検出、動的変化の測定、周辺タンパク質の網羅的探索を実現しました。さらに、周辺分子として同定したYTHDC1(注5)がNEAT1の安定化を介してパラスペックル(注6)形成を支えることを明らかにしました。本研究で開発した技術は、さまざまなRPIや細胞内高次構造の解析に役立つことが期待されます。
図1:本研究で開発した三つのRNA-タンパク質相互作用解析技術の概念図

RNAを標的とするdCas13(注7)と既存のタンパク質間相互作用解析技術を組み合わせ、三つの新しいRNA-タンパク質相互作用(RPI)解析ツールを開発した。BiFC-dCas13はRPIの履歴を蛍光として「記録する」、NanoBiT-dCas13はRPIの動的な変化を化学発光によって「測定する」、split-TurboID-dCas13はRPI周辺に存在するタンパク質を標識して「探索する」という、それぞれ異なる特徴を持つ。


 発表内容

細胞の中ではDNA・RNA・タンパク質などさまざまな分子が相互作用して機能しています。特に、タンパク質同士の相互作用であるタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)は長年にわたり活発に研究されてきました。一方、タンパク質とRNAの相互作用であるRNA-タンパク質相互作用(RNA-Protein Interaction:RPI)については、PPIほど十分に理解されていません。この背景には、「特定のRNAとタンパク質の相互作用を、生きた細胞内で捉える」ための技術的な壁がありました。

RNAは蛍光タンパク質や酵素などの機能性分子を直接融合することが難しく、生きた細胞内で特定のRNAやその相互作用を追跡するには技術的な制約があります。RPIはRNAが細胞内でどのように働き、維持され、分解されるかを制御するだけでなく、近年注目を集める細胞内の相分離構造体の形成などにも密接に関わっています。そのため、新しいRPI研究ツールの開発は、未解明の生命現象を研究する上で重要です。

CRISPR/Casシステムの一つであるCRISPR/Cas13(Cas13)は、RNAを標的として切断し、遺伝子発現を抑制する技術として利用されています。また、RNA切断活性を不活化したcatalytic-dead Cas13(dCas13)は、RNAを切断せずに特定のRNAへ誘導することができます。

今回、研究グループは、「BiFC-dCas13」「NanoBiT-dCas13」「split-TurboID-dCas13」という新たな三つのRPI研究ツールを開発しました。「BiFC」「NanoBiT」は、それぞれ蛍光・化学発光シグナルを活用してPPIを検出する技術で、「split-TurboID」はPPI周辺の分子を標識する近接標識法です。本研究ではこれらの技術をdCas13と組み合わせることで、RPIを多角的に観察する新しいツールを開発することを目指しました。

本研究では三つの新技術を用いて、NEAT1とNONOのRPIを観察しました。NEAT1とNONOの相互作用は核内高次構造体であるパラスペックルの形成において重要なRPIであることが知られています。

研究グループは初めに、BiFC-dCas13のタンパク質設計・ガイドRNA(注8)設計を最適化し、細胞内でNEAT1とNONOの相互作用を蛍光シグナルとして検出することに成功しました。BiFC-dCas13は、一度生じた蛍光シグナルが残るため、RPIの履歴を蛍光として蓄積する性質を持ちます。この性質によって、NEAT1とNONOの相互作用を蛍光シグナルの積算として顕微鏡で観察したり、フローサイトメーター(注9)で検出したりすることが可能になりました(図2A, 2B)。

一方で、BiFC-dCas13の積算的な性質・不可逆性はRPIの変化の検出には適していません。そこで研究グループは、新たにNanoBiT-dCas13を開発しました。NanoBiTは化学発光によりPPIを検出するシステムで、可逆的な性質を持つことが特徴です。NanoBiT-dCas13を用いることで、NEAT1とNONOの相互作用を化学発光シグナルで検出することができました(図2C)。さらに、試薬を用いてパラスペックル形成を阻害すると、発光シグナルも低下しました(図2D)。これらの結果から、NanoBiT-dCas13を用いてRPIの動的な変化を細胞内で評価できることが示されました。

研究グループはさらに、split-TurboID-dCas13を開発しました。NEAT1とNONOを対象としてsplit-TurboID-dCas13を用いると、RPI周辺に存在するタンパク質が網羅的に標識されます(図2E)。質量分析器を用いて標識されたタンパク質を調べると、既知のパラスペックル構成タンパク質やさまざまなRNA結合タンパク質が多数含まれていることが明らかになりました。研究グループはNEAT1とNONOの相互作用周辺にRNA修飾に関わるタンパク質が多数あることに着目し(図2F)、その中でYTHDC1がNEAT1の安定化を介してパラスペックル形成を支えることを明らかにしました。これらの結果から、split-TurboID-dCas13がRPI周辺分子探索のスクリーニングツールとして有用であることが分かりました。また、研究グループはNEAT1–YTHDC1やXIST–YTHDC1といった、NEAT1–NONOとは異なるRNA–タンパク質相互作用にもBiFC-dCas13を応用できることを示しました。

本研究で開発された三つのツールはそれぞれ異なる特徴を持っています。BiFC-dCas13は相互作用の履歴を「記録する」、NanoBiT-dCas13は相互作用の変化を「測定する」、split-TurboID-dCas13は相互作用の周囲に存在する分子を「探索する」ためのツールです。生命現象に深く関わるRPIには、いまだ解明されていない点が多く残されています。今回開発した三つの技術は、さまざまなRPIを解析し、その役割を明らかにするための新たなツールとして活用されることが期待されます。
図2:NEAT1-NONOを対象としたBiFC-dCas13・NanoBiT-dCas13・split-TurboID-dCas13の開発

A、B:BiFC-dCas13によるRPIの蛍光記録
NEAT1を標的とするガイドRNA(crNEAT1)を用いることで、非標的ガイドRNA(crNT)と比較して強い蛍光シグナルが検出された(A)。顕微鏡観察でも、crNEAT1を用いた細胞でBiFC蛍光が検出され、その一部はNEAT1陽性領域と重なっていた(矢頭、B)。
C、D:NanoBiT-dCas13によるRPIの動的変化の測定
NEAT1を標的とすることでNEAT1–NONO相互作用に依存した化学発光シグナルが得られた(C)。転写を阻害するとNEAT1–NONOに依存する発光シグナルが時間とともに低下し、RPIの動的な変化を検出できることが示された(D)。
E、F:split-TurboID-dCas13によるRPI周辺分子の探索
NEAT1–NONO相互作用の周辺に存在するタンパク質をビオチン標識して回収し、質量分析により網羅的に解析した(E)。その結果、RNA修飾に関わるタンパク質、特にYTHDC1を含むm6A「リーダー」タンパク質がNEAT1–NONO周辺分子として検出された(F)。


 発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 メディカルサイエンス講座
 先進分子腫瘍学分野
  合山 進 教授
  山本 圭太 助教
  四方 紫織 学術専門職員
 
 医科学研究所 基礎医科学部門 タンパク質代謝制御分野
  佐伯 泰 教授
  冨田 拓哉 助教


 論文情報

雑誌名:Nucleic Acids Research
題 名:Development of CRISPR/Cas13-based analytical tools to study RNA-Protein Interactions(10月13日付)
著者名:Keita Yamamoto, Shiori Shikata, Yangying Hao, Takuya Tomita, Rina Kanai, 
Els Verhoeyen, Yasushi Saeki, Susumu Goyama*
DOI: 10.1093/nar/gkag928
URL: https://academic.oup.com/nar/article-lookup/doi/10.1093/nar/gkag928


 研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B)(22H03100)、新学術領域研究(研究領域提案型)(21H00274)、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))(22KK0127)、科学研究費助成事業(JP22K16319;JP24K19216;JP23H05479)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療加速化研究事業「RNA作動療法に関する研究開発」、日本血液学会研究助成、公益財団法人東京生化学研究会研究助成、公益財団法人上原記念生命科学財団研究助成、公益財団法人持田記念医学薬学振興財団研究助成の支援を受けて実施されました。


 用語解説

(注1)CRISPR/Cas13
RNAを標的とするCRISPR/Casシステムの一種。ガイドRNAと呼ばれる短いRNAによって特定のRNA配列を認識し、標的RNAを切断することができる。遺伝子発現の抑制やRNA研究などに利用されている。

(注2)RNA-タンパク質相互作用(RPI)
RNAとタンパク質が結合したり、近接したりすることで生じる分子間相互作用。RNAの安定性、局在、翻訳などの制御に関わるほか、細胞内構造体の形成にも重要な役割を持つ。本研究ではRNA-Protein Interactionの略称としてRPIを用いている。

(注3)長鎖ノンコーディングRNA「NEAT1」
タンパク質の設計情報を持たない比較的長いRNAの総称を「長鎖ノンコーディングRNA」という。英語ではlong non-coding RNA(lncRNA)と呼ばれる。タンパク質を作るための情報を伝えるRNAとは異なり、遺伝子発現や細胞内構造の制御など、RNAそのものがさまざまな機能を担う。「NEAT1」は長鎖ノンコーディングRNAの一つで、細胞核内に存在するパラスペックル(注6)と呼ばれる構造体を形成するための足場として重要な役割を持つ。本研究では、RNA-タンパク質相互作用を解析するための代表的な標的RNAとして用いた。

(注4)RNA結合タンパク質「NONO」
RNAやDNAに結合するタンパク質の一つ。NEAT1と相互作用し、パラスペックルを構成する主要なタンパク質として知られている。本研究ではNEAT1とNONOの相互作用をモデルとして、新たに開発した解析技術の性能を評価した。

(注5)YTHDC1
RNAに付加される化学修飾の一つであるm6Aを認識するタンパク質。RNAの成熟、輸送、安定性などの制御に関わる。本研究ではsplit-TurboID-dCas13を用いた解析からNEAT1-NONO相互作用周辺の分子として着目し、NEAT1の安定化を介してパラスペックル形成を支えることを明らかにした。

(注6)パラスペックル
細胞核内に形成される膜を持たない微小な構造体。長鎖ノンコーディングRNAであるNEAT1を足場として、NONOをはじめとする多くのタンパク質が集合して形成される。RNAや遺伝子発現の制御などに関与すると考えられている。

(注7)dCas13
Cas13のRNA切断活性を人工的に失わせたタンパク質。RNAを切断せず、ガイドRNAによって指定されたRNAへ結合させることができる。本研究では、この性質を利用してさまざまな解析分子を特定のRNAの近くへ運んでいる。

(注8)ガイドRNA
CRISPR/Casシステムにおいて、Casタンパク質を目的の標的配列へと誘導する役割を持つ短いRNA。Cas13ではcrRNA(CRISPR RNA)と呼ばれ、Cas13と複合体を形成して、相補的な配列を持つ標的RNAを認識する。本研究では、ガイドRNAの配列を設計することで、dCas13を目的のRNAへ誘導している。

(注9)フローサイトメーター
細胞などの微小な粒子を液体の流れに乗せて一つずつ通過させ、レーザー光を照射することで、その大きさや内部構造、蛍光などの性質を測定する装置。蛍光タンパク質や蛍光色素と組み合わせることで、多数の細胞について特定のタンパク質の発現量や蛍光シグナルの強さなどを一細胞単位で定量することができる。装置によっては、測定した性質に基づいて特定の細胞を分離・回収することも可能である。
 


 問合せ先

〈研究内容について〉
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 先進分子腫瘍学分野 
教授 合山 進(ごうやま すすむ)
https://www.cbms.k.u-tokyo.ac.jp/lab/goyama.html

〈機関窓口〉
東京大学大学院新領域創成科学研究科 広報室
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/

東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/

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