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概要
東京大学医科学研究所国際健康医療推進社会連携研究部門(東急不動産株式会社との社会連携研究部門)の湯地晃一郎特任准教授と、同研究所附属病院感染免疫内科の安達英輔講師らの研究グループは、国の感染症発生動向調査(注1)のデータを分析し、2026年に日本で生じた麻疹の急増が海外からの持ち込みを起点としていること、そして患者が予防接種制度の移行期に生まれた世代に集中していることを明らかにしました。日本は2015年に世界保健機関(WHO)から麻疹の排除状態(注2)の認定を受けましたが、世界では認定の取り消しが相次いでいます。今回の研究結果を踏まえ、研究グループは、「世代に応じた追加接種」「渡航前の接種確認」「2回目接種率の回復」「感染症の監視情報(接種歴・遺伝子型など)の充実」という4つの対策を提言しています。
本研究成果は、2026年9月29日(米国東部夏時間)付で、米国疾病予防管理センター(CDC)が発行する感染症分野の主要誌「Emerging Infectious Diseases」にSynopsisとしてオンライン掲載されました。
A)年別患者数(2026年は第20週までの集計)。B)2026年の第1週から第20週までの週別患者数。C)年齢層別の人口10万人あたりの患者数(2019年と2026年の比較)。最も多い年齢層は2019年では30~34歳、2026年では20~24歳へと移っています。(2025年、2026年は暫定値)
発表内容
麻疹は、免疫のない集団では1人の患者から平均12~18人にうつるとされる、感染力の極めて強い感染症です。世界では2025年11月に南北アメリカ地域が、2026年1月には英国を含む欧州の6か国が排除状態の認定を失いました。
日本でも2026年は第20週までに498人が報告され、患者は47都道府県のうち27に及び、複数の感染の連鎖が同時に起きていました。
研究グループは、日本の感染症発生動向調査のデータを分析し、感染の起点の多くは海外からの持ち込みで、ウイルスの遺伝子型(注3)は主な感染地の流行を映して入れ替わっていることを明らかにしました。2023年はD8型、ベトナムからの持ち込みが最多となった2025年はB3型が大半を占め、2026年は再びD8型が多数となりました。
また、人口あたりの患者数が最も多い年齢層は、2019年の30~34歳から、2026年には20~24歳へ移っていることもわかりました(図1C)。麻疹ワクチンは1978年から長く1回接種で、2回接種の制度が始まったのは2006年です。2007~2008年の流行を受け、2008年度から5年間に限り中学1年生と高校3年生に2回目の機会が設けられました。1995~2005年ごろに生まれた人たちが、この移行期にあたる世代です(注5)。免疫の空白は「埋まった」のではなく、「移動した」と言えます。
さらに、1回目の接種率は92.7%、2回目は91.0%(いずれも2024年度)と、感染の連鎖を断つ目安とされる95%を下回っていることも感染拡大リスクを高める要因として懸念されます。
臨床上とくに重要なのが、接種を済ませた成人に生じる修飾麻疹(注4)です。2回接種の記録がある患者159人のうち89人(56%)が修飾麻疹に当たりました。周囲にうつす力は強くないものの、発疹や発熱が目立たないため診断・隔離が遅れ、その間にワクチンを打てない乳児や妊娠中の人へ感染が広がるおそれがあります。
研究グループは、「追加接種の対象を移行期の世代へ移すこと」「渡航前の接種確認を旅行医学の日常業務に組み込むこと」「2回目接種率をすべての都道府県で95%以上に回復させること」「接種歴・遺伝子型・感染経路の情報の欠落を減らすこと」の4つを提言しています。
なお、本研究は公開されている国の集計データのみを用いたものであり、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に則り、倫理審査の対象外として実施されました。
日本でも2026年は第20週までに498人が報告され、患者は47都道府県のうち27に及び、複数の感染の連鎖が同時に起きていました。
研究グループは、日本の感染症発生動向調査のデータを分析し、感染の起点の多くは海外からの持ち込みで、ウイルスの遺伝子型(注3)は主な感染地の流行を映して入れ替わっていることを明らかにしました。2023年はD8型、ベトナムからの持ち込みが最多となった2025年はB3型が大半を占め、2026年は再びD8型が多数となりました。
また、人口あたりの患者数が最も多い年齢層は、2019年の30~34歳から、2026年には20~24歳へ移っていることもわかりました(図1C)。麻疹ワクチンは1978年から長く1回接種で、2回接種の制度が始まったのは2006年です。2007~2008年の流行を受け、2008年度から5年間に限り中学1年生と高校3年生に2回目の機会が設けられました。1995~2005年ごろに生まれた人たちが、この移行期にあたる世代です(注5)。免疫の空白は「埋まった」のではなく、「移動した」と言えます。
さらに、1回目の接種率は92.7%、2回目は91.0%(いずれも2024年度)と、感染の連鎖を断つ目安とされる95%を下回っていることも感染拡大リスクを高める要因として懸念されます。
臨床上とくに重要なのが、接種を済ませた成人に生じる修飾麻疹(注4)です。2回接種の記録がある患者159人のうち89人(56%)が修飾麻疹に当たりました。周囲にうつす力は強くないものの、発疹や発熱が目立たないため診断・隔離が遅れ、その間にワクチンを打てない乳児や妊娠中の人へ感染が広がるおそれがあります。
研究グループは、「追加接種の対象を移行期の世代へ移すこと」「渡航前の接種確認を旅行医学の日常業務に組み込むこと」「2回目接種率をすべての都道府県で95%以上に回復させること」「接種歴・遺伝子型・感染経路の情報の欠落を減らすこと」の4つを提言しています。
なお、本研究は公開されている国の集計データのみを用いたものであり、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に則り、倫理審査の対象外として実施されました。
発表者・研究者等情報
東京大学
医科学研究所 国際健康医療推進社会連携研究部門
湯地 晃一郎 特任准教授
医科学研究所附属病院 感染免疫内科
安達 英輔 講師
論文情報
雑誌名:Emerging Infectious Diseases(2026年11月号、Synopsis。2026年9月29日(米国東部時間)オンライン公開)
題 名:Importation-Driven Measles Resurgence and the Fragility of Elimination, Japan, 2024–2026
著者名:Koichiro Yuji*, Wakako Yuji, Eisuke Adachi(*責任著者)
DOI:10.3201/eid3211.261187
URL:https://doi.org/10.3201/eid3211.261187
題 名:Importation-Driven Measles Resurgence and the Fragility of Elimination, Japan, 2024–2026
著者名:Koichiro Yuji*, Wakako Yuji, Eisuke Adachi(*責任著者)
DOI:10.3201/eid3211.261187
URL:https://doi.org/10.3201/eid3211.261187
研究助成
本研究は、厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業、課題番号:25HA2002)の支援により実施されました。
社会連携研究部門について
東京大学医科学研究所 国際健康医療推進社会連携研究部門は、東急不動産株式会社との社会連携により設置された研究部門です。保健医療分野に関する研究の社会実装・普及啓発を目的とし、両者の連携共創による、国際医療施設における保健医療分野の社会実装・普及啓発を目的に、「渋谷サクラステージ」において情報発信に取り組んでいます。本研究の成果を広く発信することも、その一環として行うものです。なお本研究自体は、上記の厚生労働行政推進調査事業費補助金により実施されました。
用語解説
(注1)感染症発生動向調査
感染症法に基づき、医師が診断した患者の情報を全国から集める国の仕組み。
(注2)排除状態
ある地域で、土着の麻疹ウイルスによる感染の連鎖が一定期間途切れている状態。WHOが認定し、取り消されることもあります。
(注3)遺伝子型
ウイルスの遺伝子配列の違いによる分類。麻疹ウイルスではD8型やB3型などがあり、どの地域から持ち込まれたかをおおまかに推定できます。
(注4)修飾麻疹
ワクチンによってある程度の免疫を持つ人が感染した場合に生じる、症状の軽い麻疹。診断が難しくなります。
(注5)日本の麻疹の定期予防接種の変遷
1978年に1回接種で定期接種が始まりました。2006年度からは麻疹風疹混合(MR)ワクチンによる2回接種(1歳時と小学校入学前の1年間)に移行し、2008~2012年度の5年間に限って、中学1年生と高校3年生に相当する年齢の人(おおむね1990~2000年生まれ)にも2回目の定期接種が行われました。このため、1990年ごろから2005年ごろまでに生まれた人は、1回目を1回接種の制度の下で受け、2回目は時限的な措置か2回接種制度の開始初期に受けることになり、2回目を受けないまま成人した人もいます。本研究では、このうち人口あたりの患者数が特に多かった1995~2005年ごろ生まれの世代に注目しました。
感染症法に基づき、医師が診断した患者の情報を全国から集める国の仕組み。
(注2)排除状態
ある地域で、土着の麻疹ウイルスによる感染の連鎖が一定期間途切れている状態。WHOが認定し、取り消されることもあります。
(注3)遺伝子型
ウイルスの遺伝子配列の違いによる分類。麻疹ウイルスではD8型やB3型などがあり、どの地域から持ち込まれたかをおおまかに推定できます。
(注4)修飾麻疹
ワクチンによってある程度の免疫を持つ人が感染した場合に生じる、症状の軽い麻疹。診断が難しくなります。
(注5)日本の麻疹の定期予防接種の変遷
1978年に1回接種で定期接種が始まりました。2006年度からは麻疹風疹混合(MR)ワクチンによる2回接種(1歳時と小学校入学前の1年間)に移行し、2008~2012年度の5年間に限って、中学1年生と高校3年生に相当する年齢の人(おおむね1990~2000年生まれ)にも2回目の定期接種が行われました。このため、1990年ごろから2005年ごろまでに生まれた人は、1回目を1回接種の制度の下で受け、2回目は時限的な措置か2回接種制度の開始初期に受けることになり、2回目を受けないまま成人した人もいます。本研究では、このうち人口あたりの患者数が特に多かった1995~2005年ごろ生まれの世代に注目しました。
問合せ先
〈研究内容について〉
東京大学医科学研究所 国際健康医療推進社会連携研究部門
特任准教授 湯地 晃一郎(ゆじ こういちろう)
〈機関窓口〉
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/
