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アジュバントによる自然免疫活性化がウイルス感染症を 長期的に予防する新たな仕組みを解明 ――「100 Days Mission」に貢献する新たなパンデミック対策の可能性――

発表のポイント
  • アジュバントによる自然免疫活性化によって、呼吸器ウイルス感染症に対する長期的な予防効果が得られることを示した。
  • アジュバントによって肺のマクロファージと自然リンパ球が誘導・活性化され、短期的および長期的な感染症予防に寄与することを示した。
  • 「100 Days Mission」が掲げる迅速なパンデミック対策に向け、病原体に依存しないアジュバント単剤による感染症予防が、ワクチンや治療薬の開発・供給までの期間を補完する新たな選択肢となる可能性を示した。
    アジュバントによる感染症予防効果の作用機序
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 概要

東京大学医科学研究所ワクチン科学分野の石井健教授、小檜山康司准教授(研究当時)、同大学大学院新領域創成科学研究科のAsuka Joy Tobuseさん(メディカル情報生命専攻博士課程)らの研究グループは、アジュバント(注1)によって自然免疫応答を活性化することで、呼吸器ウイルス感染症に対する長期的な予防が可能となることを明らかにしました。

本研究ではナノ粒子型のアジュバントをマウスに投与することで、インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス感染に対する生存率が改善することを示しました。これまでにも、アジュバントを用いた感染症予防効果は報告されていましたが、本研究では、肺におけるマクロファージと自然リンパ球(注2)の活性化が、感染後の病態を短期的および長期的に抑制する上で重要であることを明らかにしました。近年、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受け、新たなパンデミック対策の重要性が改めて認識されています。2021年には「100 Days Mission(注3)」が提唱されました。研究成果は、将来のパンデミックに備えた感染症対策における新たな選択肢の一つになることが期待されます。

本研究成果は、2026年10月9日付で米国科学雑誌Science Advancesに掲載されました。


 発表内容

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、ワクチンや予防薬、治療薬が存在しない感染症への対策の重要性が明確となりました。感染症対策として、ワクチンは重要な役割を担っているものの、病原体の情報なしに開発することは困難です。自然免疫応答を活性化することでワクチンの効果を増強するアジュバントは、多くの承認済みワクチンに含まれています。先行研究では、アジュバント単剤を投与することで、さまざまな病原体に対して感染予防効果を示すことが、動物モデルを用いて明らかになっています。また、近年は自然免疫記憶(注4)といった概念が提唱され、自然免疫応答も獲得免疫応答と同様に記憶されることが示されてきました。実際に、自然免疫記憶が、新型コロナウイルスを含む異なる病原体に対する感染予防に重要であることが示されています。研究グループは、新たなパンデミック対策として、アジュバントによる感染症予防効果を、呼吸器感染症マウスモデルを用いて検証しました。

以前の研究において、本研究グループは新規ナノ粒子型アジュバントであるK3-SPG(注5)の開発に成功し、ワクチンの効果を高めることを示しました。本研究では、K3-SPGを単剤でマウスに経鼻投与することで、最大100日間にわたって感染症予防効果が持続することを示しました(図1)。
図1:K3-SPG投与により、インフルエンザ感染に対して生存率が改善する。

マウスにK3-SPGをインフルエンザ感染の3日, 7日, 21日, 50日, または100日前に投与し、その後の生存率を評価した。


一方で、肺におけるウイルス量には変化が見られず、感染そのものを予防するのではなく、病態の抑制に寄与していることが示されました。さらに、K3-SPGによる感染症予防効果に関与する細胞を解析したところ、肺においてマクロファージと自然リンパ球が一時的に誘導・活性化されていることが明らかとなりました。肺には組織常在細胞として、肺胞マクロファージと間質マクロファージが存在していますが、K3-SPGを投与することで、異なる特徴を持つマクロファージ(CD11b+CD11c+マクロファージ)が誘導されていることが示されました(図2)。
図2:K3-SPG投与による、肺マクロファージの変化。
マウスに単離したマクロファージを移入したところ、短期的な感染症予防にマクロファージが関与していることが示され、長期的な予防には自然リンパ球が関与していることが示されました。さらに、この感染症予防効果には、K3-SPGによって誘導されるサイトカインであるTNFが重要な役割を担っていることが示されました。実際に、TNF欠損マウスでは感染症予防効果の減弱とともに、マクロファージと自然リンパ球の誘導が抑制されていることが示されました。

ヒト末梢血単核球を用いて自然免疫記憶の誘導を検証したところ、K3-SPGであらかじめ刺激することで、LPS(注6)刺激によるIL-6産生が増強されることが示されました。

本研究で、アジュバントによる長期的な感染症予防効果の可能性が示され、ヒトにおいても自然免疫応答を増強することが明らかとなりました。現在、アジュバントは単剤で感染症予防のみならず、がん免疫療法への応用も注目されており、単なるワクチンの補助剤にとどまらず、パンデミック対策など幅広い役割を担う可能性が示唆されています。「100 Days Mission」が提唱され、感染症対策が世界中で検討されている中で、アジュバントによって自然免疫を活性化する感染症予防は、ワクチンや治療薬が開発されるまでの期間を補完する対策の一つとなる可能性があります。今後、ヒトにおける有効性や安全性を検証することで、将来のパンデミック対策への応用が期待されます。

なお、本研究は、東京大学医科学研究所および医薬基盤・健康・栄養研究所における動物実験委員会の審査を受け、東京大学および医薬基盤・健康・栄養研究所が定めた動物実験実施規則等 (承認番号: A2025IMS140-01, DSR02-44)に則り実施されました。


 発表者・研究者等情報

東京大学
 医科学研究所 感染・免疫部門 ワクチン科学分野
  石井 健 教授
   兼:医科学研究所 附属国際ワクチンデザインセンター
   兼:国際高等研究所 新世代感染症センター UTOPIA
  小檜山 康司 准教授 (研究当時 現:University of California San Diego Project Scientist)
  林 智哉 助教
  TEMIZOZ Burcu 助教
 
 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻
  TOBUSE Asuka Joy 博士課程
  𡈽田 諄 (研究当時:修士課程)
 
 医科学研究所 附属幹細胞治療研究センター 幹細胞分子医学分野
  岩間 厚志 教授
  大島 基彦 講師
  中島 やえ子 助教
 
 医科学研究所 感染・免疫部門 マラリア免疫学分野
  COBAN Cevayir 教授
  SILVA ALMEIDA Mariana 助教
 
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
 筑波霊長類医科学研究センター
  保富 康宏 (現:北海道大学ワクチン研究開発拠点 特任教授)
  内海 大知(研究当時: プロジェクト研究員)
  浅賀 正充 (現:国立健康危機管理研究機構 主任研究官)
 
兵庫医科大学
 医学部免疫学講座
  黒田 悦史 主任教授


 論文情報

雑誌名:Science Advances
題 名:Long-term Immunoprophylaxis by TLR9 Ligand Mediates Macrophage-ILC Crosstalk Against Respiratory Viral Infection
著者名:Asuka Joy Tobuse#, Kouji Kobiyama#*, Jun Tsuchida, Masamitsu N Asaka, Daichi Utsumi, Mariana Silva Almeida, Yaeko Nakajima-Takagi, Motohiko Oshima, Tomoya Hayashi, Burcu Temizoz, Etsushi Kuroda, Cevayir Coban, Yasuhiro Yasutomi, Atsushi Iwama, and Ken J Ishii*
#:共同筆頭著者、*責任著者
DOI: 10.1126/sciadv.aeh6480
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aeh6480


 研究助成

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)先進的研究開発戦略センター(SCARDA)の支援「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業(100日でワクチンを提供可能にする革新的ワクチン評価システムの構築)、(革新的アジュバント・ワクチンキャリアの開発と技術支援ならびにデータベースの構築)」、「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群東京フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター))」、AMED創薬基盤推進研究事業(アジュバントを応用した免疫寛容誘導ワクチンに関する研究)の支援により実施されました。


 用語解説

(注1)アジュバント
自然免疫応答を活性化することで、ワクチンの効果を高める物質の総称。日本語では「自然免疫賦活化剤」とも呼ばれ、複数の承認済みワクチンに含まれている。

(注2)自然リンパ球
自然免疫に関わるリンパ球の一種。サイトカインを産生するが、T細胞やB細胞とは異なり、抗原特異的な受容体を持たない。

(注3)100 Days Mission
新たな感染症の発生に備え、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生場の緊急事態」を宣言してから100日以内に、診断薬、ワクチン、治療法などを実用化することを目指す国際的な目標。2021年のG7サミットで提唱された。

(注4)自然免疫記憶
従来、免疫記憶は主に獲得免疫応答の特徴と考えられていたが、近年、自然免疫においても過去の刺激や感染の影響が一定期間維持され、再び刺激を受けた際に、初回の刺激時とは異なる、より強い自然免疫応答が誘導される場合があることが明らかになっている。

(注5)K3-SPG
自然免疫受容体であるTLR9の合成リガンド「K3」と、多糖であるグルカンとの複合体。ワクチンアジュバントとして作用する。

(注6)LPS: リポポリサッカライド
グラム陰性菌外膜に存在するリポ多糖。自然免疫受容体であるTLR4のリガンド。


 問合せ先

〈研究内容について〉
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ワクチン科学分野
教授 石井 健(いしい けん)
 
〈機関窓口〉
東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/

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