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A(H5N8)型プレパンデミックワクチンは、ウシ由来A(H5N1)インフルエンザウイルスに対して高い感染防御効果を示す

発表のポイント
  • 日本で備蓄されていたAS03アジュバント添加A(H5N8)型プレパンデミックワクチンが、米国の乳牛で流行しているウシ由来H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスに対して防御効果を示すか、マウスおよびフェレットを用いて検証した。
  • 本ワクチンを接種したマウスおよびフェレットでは、ヒトから分離されたウシ由来H5N1ウイルスに対する中和抗体の産生が確認された。さらに、呼吸器を含む各臓器におけるウイルス増殖が著しく抑制され、致死量のウイルスを感染させた場合でも、すべての動物が生存した。
  • 本研究成果は、新たなH5N1パンデミックが発生した際に、流行株に対応したワクチンが供給されるまでの初期段階において、現在備蓄しているH5N1ワクチンだけではなく、過去に備蓄していたH5N8ワクチンについても活用できる可能性があったことを示した重要な知見である。
 

 発表内容

東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター河岡義裕 機構長(兼: 国際ウイルス感染症研究センター センター長)および浦木隆太准教授らの研究グループは、2024年3月に米国の乳牛で検出された高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルス(注1)に対する国家備蓄プレパンデミックワクチン(A/Astrakhan/3212/2020(IDCDC-RG71A)(A(H5N8))株をもとに製造されたワクチン)の感染防御効果を調べました。

H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスはヒトに感染した場合、重篤な症状を引き起こし、50%程度の致死率を示します。2020年以降、H5N1亜型(clade 2.3.4.4b)の高病原性鳥インフルエンザウイルスが世界的に流行しており、ヒトを含む様々な哺乳類への感染例も報告されております。2024年3月以降、米国では乳牛においてH5N1鳥インフルエンザウイルスの感染例が報告されており、ヒトへの感染例も報告されています (注2)。これまで河岡義裕機構長らの研究グループは、ウシ由来H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルス(ウシ由来H5N1ウイルス)の性状について報告しており(Eisfeld et al. Nature 2024)、中でもヒトから分離されたウシ由来H5N1ウイルスは哺乳類に対して高い病原性を示し、フェレット間で飛沫を介して伝播することなどを明らかにしてきました(Gu et al. Nature 2024)。

パンデミック発生時には、流行しているウイルスに適合したワクチンを新たに製造・供給するまでに一定の時間を要します。そのため、パンデミック初期の感染拡大や重症化を抑えるための対策として、あらかじめ製造・備蓄しておく「プレパンデミックワクチン」が重要です。

日本では、同じclade 2.3.4.4bに属するA/Astrakhan/3212/2020(H5N8)株をもとにしたAS03アジュバント添加A(H5N8)型プレパンデミックワクチンが約500万回分備蓄されていました。しかし、ウシ由来H5N1ウイルスによる発症や死亡を防ぐことができるかは明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、日本で備蓄されていたAS03アジュバント添加A(H5N8)型プレパンデミックワクチンをマウスおよびフェレットに4週間間隔で2回接種し、その4週間後に、ヒトから分離されたウシ由来H5N1ウイルス(A/Texas/37/2024)を感染させ、ワクチンの防御効果を評価しました。

マウスでは、ワクチン接種によりA/Texas/37/2024(H5N1)ウイルスに対する中和抗体が誘導され、非接種群が感染後7日までにすべて死亡したのに対し、接種群は体重減少を示さず全てのマウスが生存しました。また、非接種群では肺、鼻甲介、脳から感染性ウイルスが検出されましたが、ワクチン接種群ではいずれの臓器からも検出されませんでした(図1)。
図1 マウスにおける、ウシ由来H5N1ウイルスに対するAS03アジュバント添加
A(H5N8)型プレパンデミックワクチンの防御効果の検証
フェレットでも、ワクチン接種により中和抗体価の上昇が認められました。非接種群では、感染後7日までにすべての個体が死亡するか、安楽死の基準に達したのに対し、接種群は全個体が生存しました。さらに、接種群では鼻腔洗浄液中のウイルス増殖が大幅に抑えられ、各臓器から感染性ウイルスは検出されませんでした(図2)。
図2 フェレットにおける、ウシ由来H5N1ウイルスに対するAS03アジュバント添加
A(H5N8)型プレパンデミックワクチンの防御効果の検証
以上より、日本で備蓄されていたAS03アジュバント添加A(H5N8)型プレパンデミックワクチンがウシ由来H5N1ウイルスに対して強い防御効果を示すことが明らかになりました。

本研究を通して得られた成果は、現在世界中で流行しているH5N1亜型(clade 2.3.4.4b)の鳥インフルエンザウイルスへの対策および、将来のインフルエンザウイルスによるパンデミック対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります。

本研究は8月11日、英国科学誌「eBioMedicine」(オンライン版)に公表されました。なお、本研究の動物実験は、東京大学動物実験委員会の承認のもと実施されました。


 発表者・研究者等情報

東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター
 河岡 義裕 特任教授/機構長
  兼:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター センター長
     東京大学 医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授


 論文情報

雑誌名:eBioMedicine
題 名:Protective effect of A(H5N8) stockpiled vaccine against a virus genetically identical to a human isolate of bovine A(H5N1) influenza virus
著者名:Ryuta Uraki*¶, Maki Kiso, Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, Mutsumi Ito, Seiya Yamayoshi, Masaki Imai, and Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者 ¶:責任著者
DOI: 10.1016/j.ebiom.2026.106430
URL:  https://www.thelancet.com/journals/ebiom/article/PIIS2352-3964(26)00314-2/fulltext


 研究助成

本研究は、東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター、国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所、東京大学医科学研究所、米国ウィスコンシン大学が共同で実施し、新興・再興感染症研究基盤創生事業 (中国拠点を基軸とした新興・再興および輸入感染症制御に向けた基盤研究)ならびにAMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業 (ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター))の一環として行われました。


 用語解説

(注1) 鳥インフルエンザウイルス
A、B、C、D型の4種類に分類されるインフルエンザウイルスの中で、A型インフルエンザウイルスは、変化しやすく過去に世界的な大流行(パンデミック)を起こしてきた。ウイルス表面にある2つの糖たんぱく質、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の抗原性の違いにより、さらに細かく亜型が分類されている。現在までに、HAでは18種類(H1からH18)、NAでは11種類(N1からN11)の亜型が報告されており、本研究で対象としたH5N1はH5亜型、N1亜型に分類されるA型インフルエンザウイルスのことをいう。
 
鳥インフルエンザはA型インフルエンザウイルスが原因となり生じる鳥の病気である。鳥インフルエンザウイルスは家禽に対する病原性を指標に、低病原性と高病原性に分類される。低病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した家禽は無症状か軽い呼吸器症状、下痢、産卵率の低下を示す程度であるが、高病原性鳥インフルエンザウイルスでは重篤な急性の全身症状を呈して、ほぼ100%の鶏が死亡する。
 
(注2) ヒトへの感染例
2026年8月26日現在、米国において40症例以上のヒト感染例が報告されている。


 問合せ先

〈研究内容について〉
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター
 河岡 義裕(かわおか よしひろ) 特任教授/機構長
  兼:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター センター長
     東京大学 医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授
 
〈機関窓口〉
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター(広報)

東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/

国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局 広報管理部
https://www.jihs.go.jp/index.html

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