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日本人大腸がんの主要な原因は "腸内細菌"だった ―若年発症大腸がんでは70%に毒素産生腸内細菌による変異痕跡を発見―

研究成果のポイント
  • 大腸がんの全ゲノム解析により、細菌がDNAを傷つけた“瘢痕(はんこん)(遺伝子変異シグネチャー)”を大規模に明らかにしました。その結果、日本人の大腸がんの約半数で、「コリバクチン」という毒素を作る特殊な大腸菌がその発症に関与していることを発見しました。特に若年発症大腸がん(40歳未満の大腸がん)ではその頻度は約70%に達していました。
  • 日本で大腸がんが増加している原因は、これまで食生活の欧米化などと考えられており、その仕組みは不明でしたが、細菌毒素によるDNA損傷を直接とらえることに成功しました。またこの変異は1965年以降に出生した患者で増加していました。
  • 将来的には胃がんに対するピロリ菌のように、この菌の感染経路の制御や除菌による大腸がん予防の可能性に期待。

   概要

図1
コリバクチン産生大腸菌はDNAを傷つける毒素を放出し、ゲノム上に特徴的な「傷跡(変異シグネチャー)」を残す。この傷跡を解析することで、細菌が大腸がんの発生に関与したことを推定できる。

東京大学医科学研究所の柴田龍弘教授(ゲノム医科学分野)と大阪大学大学院医学系研究科の谷内田真一教授(がんゲノム情報学)らの研究グループは、東京および大阪の大腸がん患者200例を対象に大規模な全ゲノム解析※1を実施した結果、特殊な大腸菌が産生する毒素「コリバクチン」※2によってDNAが傷つけられた特徴的な“瘢痕(変異シグネチャー※3)”を確認し、日本人大腸がんの約半数(44.8%)に、コリバクチンがその発症に関与していることを明らかにしました(図1と2)。さらに、40歳未満で発症した大腸がんでは約70%にコリバクチン関連変異シグネチャーが認められ、若年発症大腸がんとの強い関連が示されました。コリバクチンによるDNA変異はAPC※4BRAFTP53といった大腸がんのドライバー遺伝子※5にも見られ、大腸がん発生に直接関与していることが示されました。

このタイプの大腸がんでは、発がんの最初期に生じるAPC遺伝子異常が10歳未満という幼少期にすでに獲得されている可能性も示されました。


 

図2
コリバクチン関連変異シグネチャー陽性(寄与率5%以上)と判定された大腸がん患者の割合は44.8%

さらに、腸内細菌叢のメタゲノム解析とAI(人工知能)解析により、大腸がんは4つのタイプに分類できることを明らかにしました。コリバクチン関連大腸がんは特定のグループに多く、大腸がんとの関連で知られる Fusobacterium nucleatum※6 (フソバクテリウム ヌクレアタム,以下F. nucleatum)が少ないことも判明しました。

本研究成果は、大腸がんが腸内細菌による直接的なDNA変異によって発症することを示す重要な発見であり、将来的にはコリバクチン産生大腸菌の検出や除菌、便検査を用いた発症リスク評価など、新たな大腸がんの予防法や早期発見法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Genetics」に、8月10日(月)18時(日本時間)に公開されました。

【柴田(しばた)教授のコメント】
日本人の大腸がんに腸内細菌が深く関わることが解明されましたが、なぜ日本人に多いのか、その謎の解明は今後の課題です。今後もがんの全ゲノム研究を通じて、新たな予防の道筋を切り拓いていきたいと思います。


【谷内田(やちだ)教授のコメント】
若い世代の大腸がんが増えています。大腸がんはリスクを知り、適切な検診を受けることで予防や早期発見が可能です。私たちは研究を通じて予防法の確立を目指し、「大腸がんゼロ社会」の実現に貢献します。
 

   研究の背景

大腸がんは、日本で急速に増加しているがんの一つであり、現在では罹患数第1位・死亡数第2位を占める主要ながんとなっています。これまで、その原因として食生活の欧米化や生活習慣の変化が指摘されてきましたが、なぜ欧米諸国よりも発症頻度が多いのかなど、その分子レベルでの仕組みは十分には分かっていませんでした。

近年、腸内細菌が健康や病気に深く関わることが明らかとなり、一部の大腸菌が「コリバクチン」という毒素を産生して細胞のDNAを傷つけることが報告されてきました(図3)。
図3 本研究の背景
腸内細菌の一種である一部の大腸菌 (pks+大腸菌)はコリバクチン毒素を産生します(a)。
この毒素は大腸の細胞内でDNAに結合し、DNA鎖間架橋を形成してDNA二本鎖切断や突然変異を引き起こします(b)。
その結果、APCなどのドライバー遺伝子に異常が蓄積し。大腸がんの発症につながります(c)。
コリバクチンによる突然変異にはSBS88とID18変異シグネチャーと呼ばれる特徴的なパターンがあり、大腸がんのゲノムにこの痕跡を検出することで、そのがんがコリバクチンの影響を受けて発生した可能性を推定できます(d)。
2025年には、柴田龍弘教授らが約1,000例の大腸がんを対象とした大陸横断的な国際共同研究をNature誌に報告し、コリバクチンによって生じたと考えられる特徴的なDNA損傷パターン(変異シグネチャー)が明らかになりました。この研究では、日本からも28例が解析対象に含まれ、欧米を含む他国ではコリバクチン関連変異シグネチャーが大腸がんの5~20%程度に認められたのに対し、日本症例では約半数に認められることが示されました。しかし、日本の症例数が限られていたことから、この結果をより大規模な日本人集団で検証することが課題となっていました。

そこで本研究グループは、国立がん研究センター中央病院および大阪大学医学部附属病院の大腸がん患者200例を対象に大規模全ゲノム解析を行い、日本人大腸がんにおけるコリバクチン産生大腸菌の関与を詳細に検討しました。
 

   研究の内容

本研究グループは、東京と大阪の大腸がん患者200例を対象に、がん細胞のDNA全体を詳しく調べる「全ゲノム解析」を実施しました。その結果、日本人大腸がんの約半数において、細菌毒素コリバクチンによって生じた特徴的なDNAの傷跡(コリバクチン関連変異シグネチャー)が認められ、コリバクチン産生大腸菌が日本人大腸がんの発がんに深く関与していることが強く示されました(図2)。本研究により、これまで少数例で報告されていた日本人における高頻度のコリバクチン関連変異シグネチャーが、大規模な全ゲノム解析によって初めて裏付けられました。
図4
本研究で新規に発見したコリバクチン変異シグネチャー(ID18)を有するAPC遺伝子の変異


コリバクチン関連変異は、APCBRAFTP53といった大腸がんの発生・進展に関係するドライバー遺伝子に変異を起こしていました。とりわけ大腸がん発生の最も早期に異常が起こるAPC遺伝子にも変異を起こしていることから、大腸がんの発生の最初の段階から関係していることが示されました(図4)。

さらに、コリバクチン関連変異シグネチャーを有する大腸がんでは、発がんの最初期に生じる遺伝子変異が10歳未満という極めて幼少期にすでに獲得されている可能性が示されました。これは、幼少期からの腸内細菌との相互作用が、その後数十年をかけて大腸がんの発症につながる可能性を示唆する重要な発見です。

 

図5
若年で発症した大腸がんほどコリバクチン関連変異シグネチャー(SBS88)の陽性率が高い。

また、40歳未満で発症した若年発症大腸がんでは、約70%にコリバクチン関連変異シグネチャーが認められました(図5)。一方、年齢が高くなるにつれてその割合は徐々に低下しました。さらに、この変異シグネチャーは1965年以降に出生した世代で高頻度に認められ(図6)、近年世界的に増加している若年発症大腸がんとの関連が示唆されました。

本研究グループはさらに、腸内細菌叢を網羅的に調べる「メタゲノム解析」と「AI(人工知能)解析」により、腸内細菌叢(腸内フローラ)の特徴に基づき、大腸がんを4つのサブタイプに分類できることを明らかにしました。

一方で、今回注目したコリバクチン産生大腸菌は便中では存在量が少ないため、便中の細菌を調べるメタゲノム解析では検出が難しく、4つのサブタイプを特徴づける代表的な細菌には含まれませんでした。

しかし興味深いことに、コリバクチンによるDNAの傷跡(変異シグネチャー)を持つ大腸がんは、「サブタイプ3」と呼ばれるグループに多く認められました。このサブタイプでは、大腸がんとの関連でよく知られている細菌F. nucleatum が少ないことも明らかとなりました。これは、これまで注目されてきた F. nucleatum を中心とした発がん経路とは異なる、新たな腸内細菌による発がん経路の存在を示唆しています。

 

図6
1965年以降に生まれた世代でコリバクチン関連大腸がんが増加。
 

これらの結果から、大腸がんは単一の原因で発症する病気ではなく、コリバクチン産生大腸菌が関与するタイプと、それ以外の腸内細菌や要因が関与するタイプなど、複数の異なる発がん経路によって生じる可能性が明らかになりました。

本研究成果は、大腸がんが遺伝や生活習慣だけでなく、幼少期からの腸内細菌との長期的な相互作用によって形成される可能性を示した重要な発見です。

今後は、コリバクチン産生大腸菌の検出や除菌、便検査による発症リスク評価など、新たな大腸がんの予防法や早期発見法の開発につながることが期待されます。
 


   本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、日本人大腸がんの約半数に、コリバクチン産生大腸菌が関与している可能性を示した大規模研究です。これまで大腸がんは、食生活の欧米化や加齢などが主な原因と考えられてきましたが、本研究により、「腸内細菌」が大腸がんの発症に深く関わる可能性が示されました。特に、コリバクチンによるDNA損傷が幼少期から始まっている可能性が示されたことは重要です。

また本研究は、「一部の大腸がんは予防可能な細菌感染が原因のがんである」ことを示した点でも重要です。腸内細菌が長期間DNAを傷つけることで発がんにつながる可能性が示され、今後の大腸がん予防に向けた取り組みが期待されます。
 

   特記事項

本研究成果は、2026年8月10日(月)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Genetics」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Prevalence and chronology of colibactin-associated mutational processes and their microbiome spectra in Japanese colorectal cancer”
著者名:Satoshi Shiba*, Shinichi Yachida*†, Sayaka Mizutani*, Yasushi Totoki*, Hiromi Nakamura*, Natsuko Hama, Norikatsu Miyoshi, Yasuhito Arai, Mihoko Saito-Adachi, Hirokazu Kimura, Yoshito Hayashi, Hiroyuki Takamaru, Koji Tanaka, Rie Hayashi, Hirofumi Rokutan, Shoko Ikuta, Yukihide Kanemitsu, Yuichiro Doki, Hidetoshi Eguchi, Satoshi Hattori, Yutaka Saito, Takuji Yamada†, Tatsuhiro Shibata†
*筆頭著者
†責任著者
DOI:10.1038/s41588-026-02692-x
URL:https://doi.org/10.1038/s41588-026-02692-x

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的がん医療実用化事業「がんの予防・診断・治療法開発に資する大規模な国際共同研究」における研究課題「日本人がんゲノム・オミックス統合解析による革新的な予防・診断・治療推進に資する大規模国際共同研究」(研究開発代表者:柴田龍弘)並びに革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「性差・個人差の機構解明と予測技術の創出」研究開発領域における研究課題「腸管局所マイクロバイオームの「個人差・性差」が大腸「未病状態」に及ぼす影響の解明と未病抑制戦略の開発」(研究開発代表者:谷内田真一)などの支援により行われたものです。東京科学大学 生命理工学院 山田拓司 教授や国立がん研究センター 中央病院 斎藤豊 科長らとの共同研究として行われました。

 

   用語説明

※1 全ゲノム解析
ヒトが持つ全DNA配列(約30億塩基)を網羅的に解析する方法です。がんの全ゲノム解析により、塩基置換、欠失・挿入、構造異常、コピー数(遺伝子数)異常など、あらゆる遺伝子異常を一度に調べることができます。発がん原因の解明から治療・診断の標的同定など、広くがんゲノム医療の開発に用いられています。

※2 コリバクチン
一部の大腸菌などが産生する遺伝毒性物質(genotoxin)であり、DNAに直接結合することで変異を引き起こします。2020年に、コリバクチン産生大腸菌がヒト細胞に特徴的な変異パターン(変異シグネチャーSBS88とID18)を形成することが報告され、その後、大腸がんとの関連が強く注目されるようになりました。

※3 変異シグネチャー
DNAに生じた塩基置換(例:C→Tなど)や欠失・挿入の特徴的な組み合わせパターンのことです。紫外線、タバコ、老化、細菌毒素などDNA変異を起こす原因ごとに特有の変異パターンが生じることが報告されています。がんゲノムデータから変異シグネチャーを抽出することで、DNAを傷つけた原因や発がん過程を推定できます。これまでヒトのがんにおいては50種類以上のパターンがあることが知られており、そのうち3分の1はゲノム修復の異常、3分の1は環境要因によるものであることが判明していますが、残り3分の1は未だ原因不明です。
 

※4 APC
大腸がんで最も重要ながん抑制遺伝子のひとつです。APCは細胞増殖を制御する役割を担っていますが、この遺伝子に変異が生じると細胞が異常に増殖し、大腸ポリープや大腸がんの発生につながります。多くの大腸がんでは発がんの初期段階でAPC遺伝子に変異が認められ、“大腸がん発生の最初の引き金”と考えられています。

※5 ドライバー遺伝子
異常を起こすことによってがんの発生や進展に寄与する遺伝子を総称してドライバー遺伝子と呼びます。がん細胞の増殖や転移を促進する「がん遺伝子」とそれらを抑制する「がん抑制遺伝子」があります。がんドライバー遺伝子を標的とした診断(遺伝子パネル検査)や治療(分子標的薬剤など)が現在ゲノム医療として進められています。

※6 Fusobacterium nucleatum
2012年に大腸がん関連菌として初めて大規模に報告され、その後、大腸がんとの関連が世界的に注目されるようになりました。この細菌は大腸がん組織において高頻度に集積し、炎症や免疫抑制を引き起こすことで、がんの発生・進展に関与すると考えられています。


   本件に関する問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 教授 柴田龍弘(しばたたつひろ)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/people/people100630.html

大阪大学 大学院医学系研究科 教授 谷内田真一(やちだしんいち)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/53eb285b6d44a82a.html

<広報に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp

大阪大学 大学院医学系研究科 広報ブランディングオフィス
https://www.med.osaka-u.ac.jp

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