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mRNA-LNPワクチンの高い効果を支える免疫機構を解明 ――次世代ワクチン開発につながる新たな免疫機構――

発表のポイント
  • mRNA-脂質ナノ粒子(LNP)ワクチンは、従来のワクチンとは異なる抗原提示経路を利用して強力なCD8 T細胞免疫を誘導することを明らかにした。
  • リンパ節内の移動性cDC2樹状細胞がmRNA-LNPを効率よく取り込み、長期間にわたり抗原提示を担うことを発見した。
  • 従来、抗ウイルス免疫に必須と考えられていた「クロスプレゼンテーション」を必要としない新たな抗原提示機構を示し、感染症ワクチンやがんワクチン開発への応用が期待される。

 概要

東京大学大学院医学系研究科免疫学の高柳広教授と、同大学医科学研究所ワクチン科学分野の石井健教授、東京理科大学生命医科学研究所分子病態学部門の新田剛教授、室龍之介助教らによる研究グループは、mRNA-LNPワクチン(注1)が強力なT細胞免疫を誘導する仕組みを解明しました。

新型コロナウイルス感染症の流行を契機としてmRNA-LNPワクチンは世界中で使用され、その高い有効性が実証されてきました。しかし、なぜmRNA-LNPワクチンがT細胞免疫の活性化に優れているのか、その細胞レベルでの仕組みは十分に解明されていませんでした。

東京大学大学院医学系研究科の研究グループは、mRNA-LNPワクチンが従来型ワクチン(注2)とは異なる抗原提示経路(注3)を利用し、リンパ節内の移動性cDC2樹状細胞(注4)による強力かつ持続的な抗原提示を介して、強力な抗原特異的CD8 T細胞(注5)応答を誘導することを明らかにしました。

さらに、この反応は従来の感染免疫やワクチン応答に重要と考えられていたクロスプレゼンテーション経路(注6)を必要としないことを示しました。本成果は、mRNA-LNPワクチンの作用機序に関する理解を大きく前進させるものであり、感染症ワクチンのみならず、がんワクチンを含む次世代免疫療法の開発に重要な基礎知識を提供することが期待されます。

本研究成果は、2026年7月17日付でScience Advances に掲載されました。
図1:mRNA-LNPワクチンによる独自の抗原提示経路


 発表内容

mRNA-LNPワクチンは、感染症予防だけでなく、がん免疫療法への応用も期待されている革新的なワクチンプラットフォームです。特に、抗体産生に加えて細胞傷害性CD8 T細胞を強力に誘導できる点が大きな特徴です。

しかし、なぜmRNA-LNPワクチンがこれほど強力なT細胞応答を誘導できるのか、その細胞学的基盤は十分に解明されていませんでした。これまで、樹状細胞によるクロスプレゼンテーションが重要と考えられてきましたが、異なる報告も存在し、統一的な理解には至っていませんでした。
図2:mRNA-LNPワクチンによる抗原特異的CD8T細胞の誘導

mRNA-LNPワクチン、従来法(タンパク質+アジュバント)よりも効率的に抗原特異的CD8T細胞の増殖を促す。


研究グループは、免疫学研究で広く用いられるモデル抗原であるニワトリ卵白由来タンパク質オボアルブミン(OVA)(注7)を発現するmRNA-LNPを用いて、従来型ワクチン(タンパク質+アジュバント)(注8)との比較解析を行いました。その結果、mRNA-LNPは従来型と比較して10倍以上効率的に抗原特異的CD8 T細胞を誘導することを明らかにしました(図2)。

また、蛍光タンパク質GFPを発現するmRNAを用いた解析より、mRNA-LNPは抗原提示に重要な役割を果たす樹状細胞の中でもcDC2樹状細胞という亜集団に取り込まれやすく、cDC2樹状細胞に強力かつ持続的な抗原提示を誘導することが示されました。特に、mRNA-LNPによる抗原提示は投与後1日目に最大となり、タンパク質産生のピークに先行して認められました。このことから、cDC2樹状細胞は、新生タンパク質を速やかに分解し、抗原提示していることが示唆されました(図3)。
図3:mRNA-LNPワクチンによる抗原提示誘導能の評価

蛍光タンパク質GFPとmRNA-LNPをマウスに投与し、cDC2樹状細胞内のタンパク質産生(グラフ左)と抗原提示の強度(グラフ右)を定量した。mRNAワクチンによる抗原提示のピークはタンパク質産生のピークよりも早い。


樹状細胞は、クロスプレゼンテーションという経路を介して、抗原を生成し、CD8T細胞を活性化・増殖させることが知られています。実際、クロスプレゼンテーションの制御因子であるWdfy4を欠損したマウスでは、従来法によるCD8T細胞応答が低下しました。しかし、mRNA-LNPワクチンを投与されたWdfy4欠損マウス(注9)では、野生型マウスと同程度にCD8T細胞の増加が認められました(図4)。つまり、mRNA-LNPワクチンの効果発揮にクロスプレゼンテーション経路は不要であり、特別な抗原提示経路の関与が示唆されました。
図4:mRNA-LNPによる抗原提示はクロスプレゼンテーションを必要としない

クロスプレゼンテーション因子Wfdy4欠損マウスでは、従来の免疫法(OVAタンパク質+polyIC)によるCD8T細胞の誘導効率が低い。一方、mRNA-LNPワクチン投与によるCD8 T細胞の誘導はWfdy4欠損下でも正常。


以上より、mRNA-LNPワクチンによる高効率なCD8T細胞の活性化は、cDC2樹状細胞によるクロスプレゼンテーションに依存しない大量かつ長期間の抗原提示によってもたらされることが明らかとなりました。

【研究成果の意義】
本研究は、mRNA-LNPワクチンが従来のワクチンとは本質的に異なる免疫誘導機構を持つことを明らかにしました。

特に、リンパ節内の移動性cDC2樹状細胞がmRNA-LNPを効率的に取り込み、長期間にわたって抗原提示を行うことで、強力なCD8 T細胞応答を誘導することを示した点は重要な成果です。さらに、これまでCD8 T細胞応答の誘導に必須と考えられてきたクロスプレゼンテーション経路を必要としないことを明らかにし、mRNAワクチン特有の新たな抗原提示機構を発見しました。

本成果は、感染症ワクチンだけでなく、がんワクチンや細胞性免疫を重視する次世代ワクチン開発の理論的基盤となることが期待されます。また、mRNA-LNP製剤の有効性や安全性を理解する上でも重要な知見となります。

なお、本研究は、東京大学医学部組換えDNA実験安全委員会および東京大学動物実験委員会の承認のもと実施されました。関連法令および学内規則を遵守し、適切な安全管理と動物福祉への配慮のもとで研究を行いました。


 発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院医学系研究科 免疫学
  高柳 広 教授
  王 甦琪 大学院生
 
 医科学研究所 感染・免疫部門 ワクチン科学分野
  石井 健 教授
 
東京理科大学
 生命医科学研究所 分子病態学部門
  新田 剛 教授
  室 龍之介 助教


 論文情報

雑誌名:Science Advances
題 名:A distinct antigen presentation pathway drives potent T-cell immunity in lipid nanoparticle-based mRNA vaccines
著者名:Ryunosuke Muro*, Suqi Wang*, Taku Ito-Kureha, Hung Hiep Huynh, Kouji Kobiyama, Takuya Sugita, Kazuo Okamoto, Kenta Nakano, Tadashi Okamura, Masato Kubo, Ken J Ishii, Takeshi Nitta#, Hiroshi Takayanagi#


 研究助成

本研究はAMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業 (ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター))およびUTOPIA若手研究育成プログラム(課題番号:JP223fa627001)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域(課題番号:JP23gm1210008)、AMED-CREST「元気につながる生命現象の解明と制御」研究開発領域(課題番号:JP25gm2110004)、AMED 免疫アレルギー疾患実用化研究事業(課題番号:JP23ek0410108)、科研費「基盤研究S(課題番号:21H05046、26K21769)」、科研費「基盤研究B、学術変革領域研究(A)、挑戦的研究(萌芽)(課題番号:25K02511, 25H01872, 24K22044, 23H04770, 22H02886)」、武田科学振興財団医学系研究助成(代表者:新田 剛、室 龍之介)、東京理科大学研究助成(代表者:室 龍之介)、公益財団法人 薬力学研究会研究助成(代表者:室 龍之介)、一般財団法人濱口生化学振興財団(代表者:室 龍之介)、公益財団法人興和生命科学振興財団 研究助成 (代表者:室 龍之介)、金沢大学がん進展制御研究所共同研究助成(代表者:室 龍之介)、公益財団法人アステラス病態代謝研究会(代表者:新田 剛、呉羽 拓)、公益財団法人ノバルティス科学振興財団(代表者:呉羽 拓)などの支援を受けて実施されました。


 用語解説

(注1)mRNA-LNPワクチン
抗原タンパク質をコードするmRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に封入して投与し、体内の細胞で抗原タンパク質を産生させることで免疫応答を誘導するワクチン。従来の不活化ワクチンやタンパク質ワクチンとは異なり、体内で抗原を産生させる点に特徴がある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンとして世界的に実用化された。

(注2)従来型ワクチン
不活化病原体、弱毒化病原体、またはタンパク質抗原を用いて免疫応答を誘導する従来のワクチン。

(注3)抗原提示経路(Antigen Presentation Pathway)
抗原が樹状細胞のような抗原提示細胞によって取り込まれ、MHC分子上に提示されてT細胞に認識されるまでの一連の過程。

(注4)樹状細胞(Dendritic Cell, DC)
抗原を取り込み、T細胞へ提示することで免疫応答を開始する代表的な抗原提示細胞。主にcDC1とcDC2に分類される。クロスプレゼンテーションに優れ、CD8 T細胞の活性化に重要な樹状細胞サブセットである。

(注5)CD8 T細胞
CD8 T細胞はMHCクラスI(注10)上の抗原を認識し、感染細胞や腫瘍細胞を直接傷害する細胞傷害性T細胞。

(注6)クロスプレゼンテーション(Cross-presentation)
細胞外から取り込んだ抗原をMHCクラスI上に提示し、CD8 T細胞を活性化する抗原提示機構。抗原提示細胞の中でも特殊な細胞だけがこの機能を持つ。

(注7)OVA(Ovalbumin)
ニワトリ卵白由来のタンパク質であり、免疫学研究においてモデル抗原として広く使用される。

(注8)アジュバント(Adjuvant)
ワクチンと共に投与され、抗原特異的な免疫応答を増強する物質。

(注9)Wdfy4欠損マウス
Wdfy4遺伝子を欠損しており、cDC1によるクロスプレゼンテーションが著しく障害されたマウス。そのため、クロスプレゼンテーション依存的なCD8 T細胞応答を評価するモデルとして用いられる。

(注10)MHCクラスI
MHCクラスIは、ほぼすべての有核細胞に発現し、細胞内抗原をCD8 T細胞へ提示する分子である。


 問合せ先

<研究内容について>
東京大学大学院医学系研究科
教授 高柳 広(たかやなぎ ひろし)
 
東京理科大学生命医科学研究所
教授 新田 剛(にった たけし)
 
<機関窓口>
東京大学大学院医学系研究科 総務チーム
 
東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
 
東京理科大学 経営企画部 広報課

 

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