English
Top

スマートウォッチを用いたマインドフルネス瞑想実践者のストレス・心拍変動解析―― 瞑想中の心拍変動上昇と持続効果を確認 ――

発表のポイント
  • スマートウォッチとスマートフォンを用いたモバイルヘルス(mHealth)研究により、日常生活における主観的ストレスと自律神経活動のマーカーでありストレスレベルを反映するとされる心拍変動(HRV)の関係を解析しました。
  • マインドフルネス瞑想実践者では主観的ストレスが低く、瞑想中にはHRVが上昇し、その効果が瞑想後も持続することを示しました。
  • 本研究成果は、瞑想の生理学的メカニズムの理解の深化や、デジタルバイオマーカー開発への応用につながることが期待されます。
    瞑想をすることにより心拍変動が上昇する

 概要

東京大学医科学研究所ゲノム医科学分野の新井田厚司講師、同大大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻の矢谷浩司教授および東京科学大学環境・社会理工学院イノベーション科学系の笹原和俊教授らの研究グループは、スマートウォッチとスマートフォンを用いたモバイルヘルス(mHealth)(注1)観察研究により、マインドフルネス瞑想(以下単に瞑想とする、注2)実践者の日常生活におけるストレスと心拍変動(HRV)(注3)の関係を明らかにしました。

解析の結果、瞑想実践者では主観的ストレスの低下が認められた一方で、日常生活全体のHRVには対照群との差はみられませんでした。しかし、瞑想中にはHRVが有意に上昇し、その効果は瞑想終了後30分以上持続することが示されました。さらに本研究では、スマートウォッチ由来のノイズを含む実世界データに対して階層ベイズ解析(注4)を適用することで、個人差や測定ノイズを考慮した生理データ解析の有用性を示しました。本研究成果は、瞑想によるストレスマネジメント機序の理解に加え、ウェアラブルデバイスを活用したデジタルメンタルヘルスやデジタルバイオマーカー開発への貢献が期待されます。

本研究成果は、2026年5月29日付で、国際学術誌「JOURNAL OF MEDICAL INTERNET RESEARCH」オンライン版で公開されました。


 発表内容

瞑想は、ストレス軽減やウェルビーイング(注5)向上への効果が広く報告されており、近年では医療やヘルスケアを含むさまざまな分野での活用が進んでいます。一方で、その生理学的基盤には未解明な点も多く、特に日常生活環境下において、自律神経活動へどのような影響を与えるかは十分に明らかになっていませんでした。

本研究では、瞑想実践者の日常生活におけるストレスと自律神経活動の関係を明らかにするため、スマートウォッチとスマートフォンを用いたモバイルヘルス(mHealth)観察研究を実施しました。対象は、習慣的に瞑想を行う成人19名、習慣的にランニングを行う成人32名、瞑想・運動習慣のない対照群39名の計90名です。

参加者は3週間にわたりスマートウォッチ(Garmin社製)を装着し、自律神経活動のマーカーでありストレスレベルを反映するとされる心拍変動(HRV)の連続測定を行いました。また、スマートフォンを用いた経験サンプリング法(ESM:Experience Sampling Method:注6)により、1日3回ランダムに配信される質問へ回答し、その時点での主観的ストレス状態や活動内容を記録しました。瞑想群ではさらに、毎日の瞑想開始・終了時刻も記録しました。加えて、研究終了後には、身体活動量、睡眠の質、マインドフルネス傾向、主観的ストレス、ウェルビーイングなどを評価するWeb質問紙調査も実施しました(図1)。

HRVは自律神経活動を反映する代表的な生理指標ですが、スマートウォッチ由来の
PPG(Photoplethysmography:注7)データは、測定ノイズや個人差の影響を受けやすいという課題があります。そこで本研究では、個人差と測定誤差を明示的に扱うことが可能な階層ベイズ解析を用いてHRV変動を推定しました。また、習慣的な運動によってHRVが上昇することが知られていることから、ランニング群を陽性コントロール群として解析に組み込みました。
図1:研究デザインの概要
解析の結果、瞑想群およびランニング群では、対照群と比較して主観的ストレスが低いことが確認されました。一方、日常生活全体におけるHRVは、ランニング群では有意に高値を示したものの、瞑想群では対照群と同程度でした。この結果は、瞑想の効果が恒常的なHRV上昇として現れるわけではない可能性を示唆しています。

特に注目されたのは、瞑想実践中のHRV変化です。階層ベイズ解析の結果、瞑想中にはHRV指標RMSSDが有意に上昇し、その増加は瞑想終了後も30分以上持続することが示されました。また、主観的ストレスが高いタイミングではHRVが低下することも確認されました(図2)。

これらの結果は、瞑想が日常生活全体のHRVを恒常的に高めるというより、「必要なタイミングで自律神経状態を柔軟に調整する能力」に関与している可能性を示しています。

本研究は、スマートウォッチとスマートフォンを活用したmHealth技術と階層ベイズ解析を組み合わせることで、実世界環境下における瞑想と自律神経活動の関係を可視化した点に特徴があります。また、本研究で用いたウェアラブルデバイスと階層ベイズ統計を統合した解析手法は、ストレス管理やメンタルヘルス、デジタルバイオマーカー開発等への応用が期待されます。
図2:日常的な瞑想実践中における心拍変動レベルの変化

瞑想開始時刻または終了時刻を基準時点(0分)として、瞑想前後における心拍変動指標の一つであるRMSSDの時間変化を解析しました。瞑想時間ごとにデータをグループ化し、階層ベイズ解析を用いて平均的な変化パターンと95%信用区間を推定しました。図中の網掛け部分は瞑想中の時間帯を示しています。瞑想開始に伴いRMSSDは上昇し(左図)、瞑想終了後は徐々に低下するものの、ベースラインより高い状態が持続する傾向が観察されました(右図)。


本研究は、東京大学医科学研究所 倫理審査委員会(承認番号:2022-11-0629)および 東京工業大学 ヒトを対象とする研究倫理審査委員会(承認番号:2022154)の承認を受けて実施されました。

〇関連情報:
「プレスリリース モバイルヘルス技術を活用しマインドフルネス瞑想の心拍変動への影響を検証開始」(2022/08/22)
https://www.at.hgc.jp/post/mindfulness2022


 発表者・研究者等情報

東京大学医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センター ゲノム医科学分野
 新井田 厚司 講師

東京大学大学院
 学際情報学府先端表現情報学コース 
  竹澤 譲 博士課程 
  研究開始時:東京工業大学 環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程 
  工学系研究科電気系工学専攻
  Shixian Geng 博士課程(研究当時)
  情報理工学系研究科電子情報学専攻 
  矢谷 浩司 教授
  (兼:学際情報学府先端表現情報学コース、工学系研究科電気系工学専攻)

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部
 藤野 正寛 リサーチスペシャリスト(研究当時)

ガーミンジャパン株式会社  ガーミンヘルス
 三宅 美佳 ビジネスデベロップメントマネージャー(研究当時)

東京科学大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系
 笹原 和俊 教授
 


 論文情報

雑誌名:JOURNAL OF MEDICAL INTERNET RESEARCH
題 名:Daily Stress and Heart Rate Variability Among Mindfulness Meditation Practitioners: mHealth Observational Study
著者名:Jo Takezawa, Shixian Geng, Masahiro Fujino, Mika Miyake, Kazutoshi Sasahara,
Koji Yatani, Atsushi Niida
DOI: 10.2196/78244
URL: https://doi.org/10.2196/78244


 研究助成

本研究は、東京大学卓越研究員研究費の支援により実施されました。


 用語解説

(注1)モバイルヘルス(mHealth)
スマートフォンやスマートウォッチなどのモバイル機器を活用して、健康状態や生活習慣を記録・管理する取り組みです。日常生活の中で継続的にデータを取得できることから、医療・健康研究への応用が進んでいます。

(注2)マインドフルネス瞑想
マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に対して、評価や判断を加えず、ありのままに気づいている心理状態を指し、マインドフルネス瞑想はその状態を育む実践として、仏教瞑想を基盤に宗教色を排して再構成されたものです。ストレス軽減、不眠改善、健康増進などへの有用性が科学的に示されており、近年さまざまな分野で活用が進んでいます。

(注3)心拍変動(HRV: Heart Rate Variability)
心臓は一定のリズムで動いているように見えますが、実際には心拍の間隔は少しずつ変化しています。このゆらぎを「心拍変動(HRV)」と呼びます。HRVは自律神経の働きと関係しており、リラックス時には大きくなり、強いストレス時には小さくなる傾向があります。

(注4)階層ベイズ解析
データを「個人レベル」と「集団レベル」など複数の階層に分けてモデル化し、それらを同時に推定する統計手法です。これにより、ノイズの大きいデータであっても、個人ごとの特徴を保持しながら、集団全体としての傾向をより安定して推定することが可能になります。

(注5)ウェルビーイング
単に病気やけががない状態や一時的な幸福感だけでなく、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあり、人生に満足し、自分らしく充実して生きている状態を指します。

(注6)経験サンプリング法(ESM: Experience Sampling Method)
日常生活の中で、ランダムなタイミングでスマートフォンなどを通じて質問を配信し、その時点の気分やストレス、行動などを記録する研究手法です。実験室ではなく実生活環境での心理状態をリアルタイムに評価できる点が特徴です。

(注7)PPG(Photoplethysmography)
指先や皮膚に光を当て、血液の流れによる光の変化を測定する技術です。スマートウォッチ等のウェアラブルデバイスの心拍測定に広く利用されています。


 問合せ先

<研究内容について>
東京大学医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センター ゲノム医科学分野
講師 新井田 厚司(にいだあつし)

<機関窓口>
東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/

東京科学大学 総務企画部 広報課
https://www.isct.ac.jp/

PDF版はこちらよりご覧になれます(PDF:468KB)