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発表概要
慶應義塾大学先端生命科学研究所(住所:山形県鶴岡市、所長:荒川 和晴)の福田真嗣特任教授と楊佳約(ヨウ カヤク)特任助教は東京大学医科学研究所附属感染症国際研究センター 感染制御系ウイルス学分野(住所:東京都港区、センター長:川口 寧)の一戸猛志准教授、および株式会社メタジェン(本社:山形県鶴岡市、社長:福田 真嗣)と共同で、ハムスターを用いた新型コロナウイルス感染動物モデルにおいて、PHGGの摂取が新型コロナウイルス感染症によるハムスターの感染死を有意に抑止できることを明らかにしました。PHGG摂取群では便中で腸内細菌叢由来の有用成分である短鎖脂肪酸が増加し、さらに便中および血中で新型コロナウイルス感染症の重症化を抑制することが報告されている二次胆汁酸が増加していました。そのためPHGGは、腸内細菌叢に作用することでこれらの代謝物質産生を促進することで、新型コロナウイルス感染症を有意に抑止することが示唆されました。本成果は、国際的なオンライン学術誌「Gut Microbiome」に1月14日付(現地時間)で掲載されました。
発表内容
これまでの研究で腸内細菌叢や、腸内細菌叢由来代謝物質が新型コロナウイルス感染症の重症化やその抑制と関連することが報告されています。本研究ではプレバイオティクスとして知られているPHGGの新型コロナウイルス感染症に対する影響を調べました。ハムスターを通常食を摂取させる群(コントロール群)と5%PHGG添加食(注1)を摂取させる群(PHGG摂取群)に分け、摂取2週間後に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を経鼻感染させました。その結果、コントロール群では感染10日後の生存率が25%であったのに対して、PHGG摂取群では、生存率が100%でした(図1)。

(有意水準:0.05;一般化Wilcoxon検定)
今後はPHGGを含むプレバイオティクスや腸内細菌が健康に与える影響を引き続き探索することにより健康社会の構築に貢献します。

(*: P < 0.05, **: P < 0.01; Wilcoxonの順位和検定)
発表者
慶應義塾大学先端生命科学研究所
福田 真嗣(特任教授)
楊 佳約 (特任助教)
アイゼア ソン (研究員)
東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター 感染制御系 ウイルス学分野
一戸 猛志(准教授)
株式会社メタジェン
佐藤 美沙(研究員)
ハルタント テナギ(研究員)
論文情報
〈雑誌〉Gut Microbiome〈題名〉Partially hydrolyzed guar gum attenuates symptoms and modulates the gut microbiota in a model of SARS-CoV-2 infection
〈著者〉Jiayue Yang, Isaiah Song, Misa Saito, Tenagy Hartanto, Takeshi Ichinohe, Shinji Fukuda*
*Corresponding author
〈DOI〉10.1017/gmb.2024.7
〈URL〉https://www.cambridge.org/core/journals/gut-microbiome/article/partially-hydrolyzed-guar-gum-attenuates-symptoms-and-modulates-the-gut-microbiota-in-a-model-of-sarscov2-infection/6121CE85F8BF983C12BA1B0DF5C16AC8
研究助成
本研究は、福田真嗣特任教授に対する日本学術振興会科学研究費助成事業(22H03541)、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(JST ERATO)深津共生進化機構プロジェクト(JPMJER1902)、日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(JP23gm1010009)、糧食研究会などの支援の下で実施されました。また、一戸猛志准教授に対するAMED SCARDA ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学国際高等研究所新世代感染症センター))、および便中細菌叢解析および代謝物質解析の一部はネスレ日本株式会社による支援で実施されました。用語解説
(注1)5%PHGG添加食:餌中デンプンの5%をPHGGに置き換えたもの(注2)ウルソデオキシコール酸(UDCA)とデオキシコール酸(DCA):ともに腸内細菌の代謝によって産生される二次胆汁酸。免疫機能や代謝機能に影響することが報告されています
(注3)UDCAとDCAの先行研究:福田らは先行研究で、デオキシコール酸やウルソデオキシコール酸などの腸内細菌叢由来二次胆汁酸が、TGR5やFXRなどの受容体を介して新型コロナウイルス感染症の重症化を抑制することを明らかにしています。(Nagai, et al., Nat. Commun. 14: 3863, 2023. DOI: 10.1038/s41467-023-39569-0)
問合せ先
〈研究に関する問合せ〉
慶應義塾大学先端生命科学研究所
特任教授 福田 真嗣(ふくだ しんじ)
国立大学法人東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター 感染制御系 ウイルス学分野
准教授 一戸 猛志(いちのへ たけし)
〈報道に関する問合せ〉
慶應義塾大学先端生命科学研究所 渉外担当
国立大学法人東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
株式会社メタジェン 広報担当