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新型コロナウイルス・オミクロン株のXBB.1.9.1系統は XBB.1.5系統と類似の性状を持つ

発表のポイント
  • 4種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル)は、オミクロン株XBB.1.9.1系統の株(XBB.1.9.1株)に対して高い増殖抑制効果を示した。
  • BA.4/5株対応2価mRNAワクチン(5回目)接種後のXBB.1.9.1株に対する中和活性は、mRNAワクチン4回目接種後と比較して約3.6倍上昇していた。
  • XBB.1.5株とXBB.1.9.1株を同時に同じ個体に感染させ、どちらの株がハムスターの呼吸器でより増えやすいのか競合試験を行った。呼吸器で検出されたそれぞれの株の割合は、感染時と同程度だった。
    ハムスターにおけるXBB.1.9.1系統とXBB.1.5系統の共感染実験

 発表内容

東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター 河岡義裕 機構長らの研究グループは、新型コロナウイルス変異株・オミクロン株XBB.1.9.1系統(注1)に対する治療薬の効果、並びに、mRNAワクチンの有効性を調べました。また、ハムスターモデルを用いて、XBB.1.5系統とXBB.1.9.1系統のどちらが呼吸器内で増殖しやすいかを検証しました。

新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は、現在も続いていますが、2023年5月ごろ、それまで主流であったXBB.1.5系統に加え、XBB.1.9.1系統が流行していました。

2023年4月当時は、従来株系統とBA.4/5系統に対する2価のmRNAワクチンの接種が行われていました(2023年12月現在は、XBB.1.5系統に対する1価のmRNAワクチン接種が始まっています)。また、国内では、4種類の抗ウイルス薬(注2;レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル)が、COVID-19に対する治療薬として現在も引き続き承認を受けています。しかし、これらのワクチンや治療薬がオミクロン株のXBB.1.9.1系統に対して有効かどうかについては、明らかにされていませんでした。

はじめに、XBB.1.9.1系統の株(XBB.1.9.1株)に対する4種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、エンシトレルビル)の効果を解析しました。全ての薬剤がXBB.1.9.1株に対して高い増殖抑制効果を示し、それらの抑制効果は、従来株に対するそれと同程度であることが判明しました(表1)。
 
表1:新型コロナウイルスのオミクロン株に対する抗ウイルス薬の効果 

次にmRNAワクチン被接種者から採取された血漿のXBB.1.9.1株に対する中和活性を調べました。その結果、mRNAワクチン4回目の被接種者血漿(4回目接種から1-2ヶ月経過)の、XBB.1.9.1株に対する中和活性は、従来株に対する活性より著しく低く、多くの検体で中和活性が検出限界以下でした。一方、BA.4/5株対応2価mRNAワクチン(5回目)接種後のXBB.1.9.1株に対する中和活性は、mRNAワクチン4回目接種後と比較して約3.6倍上昇していました(図1)。

 

図1:mRNAワクチン被接種者の血漿のオミクロン株に対する中和抗体価

同一人物における、4回目接種から1-2ヶ月後の血漿と5回目接種(5回目はBA.4/5株対応2価ワクチン)から3週間-2ヶ月後の血漿の、中和抗体価を比較した。棒グラフ上の数値は血漿中和抗体価の幾何平均値(GMT; geometric mean titer)を示す。


最後にXBB.1.5株とXBB.1.9.1株を同時に同じ個体に感染させ、どちらの株がハムスターの呼吸器でより増えやすいのか競合試験を行ったところ、共感染させたハムスターの呼吸器で検出されたそれぞれの株の割合は、感染時の割合と同程度でした(図2)。これらの結果はXBB.1.9.1株とXBB.1.5株のハムスターにおける増殖性は同程度であることを示唆しています。
図2:ハムスターにおけるXBB.1.9.1系統とXBB.1.5系統の共感染実験

ハムスターに、XBB.1.5株とXBB.1.9.1株を感染させ、感染4日後の呼吸器におけるウイルス配列を解析し、それぞれのウイルスの割合を算出した。


本研究を通して得られた成果は、オミクロン株各系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定・実施する上で、重要な情報となります。

本研究は10月3日、米国科学誌「iScience」(オンライン版)に公表されました。
なお、in vitroにおける中和活性と臨床的な有効性との関係については現時点では明らかではなく、今回の結果が直ちに臨床的な有効性の評価につながるものではありません。臨床的な有効性については、今後さらなる研究が待たれます。
 

 発表者       

東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター 機構長
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授
河岡 義裕
<国立国際医療研究センター 研究所 国際ウイルス感染症研究センター長>


 論文情報

〈雑誌〉 iScience(10月3日オンライン版)
〈題名〉 Antiviral efficacy against and replicative fitness of an XBB.1.9.1 clinical isolate
〈著者〉 Ryuta Uraki*, Mutsumi Ito*, Maki Kiso*, Seiya Yamayoshi*, Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, Yuko Sakai-Tagawa, Masaki Imai, Michiko Koga, Shinya Yamamoto, Eisuke Adachi, Makoto Saito, Takeya Tsutsumi, Amato Otani, Shuetsu Fukushi, Shinji Watanabe, Tadaki Suzuki, Tetsuhiro Kikuchi, Hiroshi Yotsuyanagi, Ken Maeda, Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者 ¶:責任著者
〈DOI〉doi.org/10.1016/j.isci.2023.108147
 

   研究助成

本研究は、東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター、東京大学医科学研究所、国立国際医療研究センター、国立感染症研究所、日本相撲協会、米国ウィスコンシン大学が共同で実施し、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(動物モデルと患者検体を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態メカニズムの解明II)、新興・再興感染症研究基盤創生事業(中国拠点を基軸とした新興・再興および輸入感染症制御に向けた基盤研究)ならびに、AMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター))の一環として行われました。
 

 用語解説

(注1)オミクロン株XBB.1.9.1系統
ウイルス感染は、コロナウイルス粒子表面に存在するスパイク蛋白質を介してウイルス粒子が宿主細胞表面の受容体蛋白質に結合することで始まる。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬やワクチンは、このスパイク蛋白質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。XBB.1.9.1系統のスパイク蛋白質は、XBB.1.5系統と共通の変異を有する。

(注2)4種類の抗ウイルス薬:
レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴静注液)は令和2年5月7日に、モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオ)は令和3年12月24日に、ニルマトレルビル・リトナビル(販売名:パキロビッドパック)は令和4年2月10日に、エンシトレルビル フマル酸(販売名:ゾコーバ錠)は令和4年11月22日にそれぞれ特例承認を受けている。

 

 問合せ先

〈研究に関する問合せ〉
東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター 機構長
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授
河岡 義裕(かわおか よしひろ)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/dstngprof/page_00174.html

〈報道に関する問合せ〉
東京大学新世代感染症センター(広報)
https://www.utopia.u-tokyo.ac.jp/

東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
https://www.ncgm.go.jp/

 

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