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オミクロン株流行下の抗原定性検査の感度と特異度が判明 ―J リーグの選手とスタッフを対象にした検査から―

発表のポイント
  • 新型コロナウイルス感染症のオミクロン株流行下において、Jリーグのクラブの選手やスタッフの方々を対象に、同一日かつ同一個人に行われたPCR(polymerase chain reaction)検査と抗原定性検査の656件の結果に基づいて、抗原定性検査の感度※1と特異度※2を明らかにしました。
  • PCR検査と比べた抗原定性検査の感度は63%(95%信頼区間※3:53–73%)、特異度は99.8%(95%信頼区間:99.5–100.0%)でした。
  • 症状の有無や感染してからの日数は、PCR検査と比べた抗原定性検査の感度に影響しませんでした。
  • 抗原定性検査を用いた検査体制の有効性を評価する上で不可欠な基盤的知見を提供することができました。

 概要

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授(常勤)の村上道夫、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)フットボール本部新型コロナウイルス対策部オフィサーの佐藤一志、産業技術総合研究所地質調査総合センター研究グループ長の保高徹生、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター健康医療インテリジェンス分野教授の井元清哉らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症のオミクロン株流行下において、Jリーグのクラブの選手やスタッフの方々を対象に同一日かつ同一個人に行われたPCR検査と抗原定性検査の656件の結果に基づいて、抗原定性検査の感度と特異度を明らかにしました。PCR検査と比べた抗原定性検査の感度は63%(95%信頼区間:53–73%)、特異度は99.8%(95%信頼区間:99.5–100.0%)であり、PCR検査と比べた抗原定性検査の感度は、症状の有無や発症から検査までの日数とは関連しませんでした。このことは、症状の有無や感染してからの日数は、PCR検査と比べた抗原定性検査の感度に影響しないことを意味しています。
 
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感染直後においてオミクロン株に対して抗原定性検査の感度が低下する可能性が指摘されていましたが、抗原定性検査の感度を明らかにするには、同一日に行われたPCR検査と抗原定性検査を比較する必要があるために、これまで十分なデータ数に基づいた知見は得られていませんでした。JリーグとJクラブの選手やスタッフの方々の協力によって得られた本研究により、抗原定性検査を用いた検査体制の有効性を評価する上で基盤的知見を提供することができました。

本研究成果は、英国科学誌「BMJ Open」に、2023年1月30日(月)19時45分(日本時間)に公開されました。

 

 研究の背景       

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐための有効な手段の一つとして、PCR検査や抗原定性検査によって感染者を特定することが挙げられます。特に、抗原定性検査はPCR検査より安価であるため、頻度高く検査を行うことが可能であり、感染拡大を防ぐ上で効果的であると考えられてきました。しかし、オミクロン株に対して、特に感染直後における抗原定性検査の感度が低下する可能性が指摘されました。抗原定性検査の感度は、感染拡大を防ぐ検査体制の効果を議論する際に基盤となる値ですが、抗原定性検査の感度を明らかにするには、同一日に行われたPCR検査と抗原定性検査を比較する必要があるために、これまで十分なデータ数に基づいた知見は得られていませんでした。
 

 研究内容

村上特任教授(常勤)らの研究グループでは、Jリーグのクラブにおいて、選手とスタッフの方々を対象に行われる定期検査と自主検査の枠組みにおいて、同一日にPCR検査と抗原定性検査が行われていることに着目し、オミクロン株流行下において同一日かつ同一個人に両検査が行われた656件の結果に基づいて、抗原定性検査の感度と特異度を明らかにしました。PCR検査と比べた抗原定性検査の感度は63%(95%信頼区間:53–73%)、特異度は99.8%(95%信頼区間:99.5–100.0%)でした。また、PCR検査と比べた抗原定性検査の感度は、症状の有無や発症から検査までの日数とは関連しませんでした。このことは、症状の有無や感染してからの日数は、PCR検査と比べた抗原定性検査の感度に影響しないことを意味しています。
 

  本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

検査の感度や特異度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐための有効な検査体制を構築する上での基盤となる値です。JリーグとJクラブの選手やスタッフの方々の協力によって得られた本研究により、このような知見を提供することができました。

 

 発表雑誌

雑誌名:BMJ Open
タイトル:Sensitivity of rapid antigen tests for COVID-19 during the Omicron variant outbreak among players and staff members of the Japan Professional Football League and clubs: A retrospective observational study
著者名:村上道夫・佐藤一志・入江知子・加茂将史・内藤航・保高徹生・井元清哉
DOI:http://dx.doi.org/10.1136/bmjopen-2022-067591
本研究は、日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクトの一環として行われました。


 用語解説

※1  感度
ある疾病をもつ人に対して行われた検査において、正しく陽性となった人の割合のこと。本研究では、PCR検査で陽性となった人の内、抗原定性検査でも陽性となった人の割合を指す。
 
※2 特異度
ある疾病をもたない人に対して行われた検査において、正しく陰性となった人の割合のこと。本研究では、PCR検査で陰性となった人の内、抗原定性検査でも陰性となった人の割合を指す。
 
※3 95%信頼区間
95%の割合で真の値が含まれる範囲のこと。
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 問い合わせ先

<研究に関すること> 
大阪大学感染症総合教育研究拠点 特任教授(常勤) 村上 道夫(むらかみ みちお)
 
<プレスリリースに関すること>
大阪大学感染症総合教育研究拠点 企画室
 
産業技術総合研究所 広報部 報道室
 
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)



 

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