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新型コロナウイルス感染症とインフルエンザが同時流行しているかを検証

発表のポイント
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行とインフルエンザの流行の関係を調べるために、世界各地域を代表する22ヶ国について、2019年から2022年までのCOVID-19およびインフルエンザの陽性例数を比較した。
  • COVID-19とインフルエンザは、同じ地域において同じ時期に同じ規模では流行していないことが明らかになった。

 発表内容

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に初めて中国から報告され、その後、全世界に拡がりました。流行は現在も続いており、COVID-19とインフルエンザの同時流行が危惧されています。

今回、東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授と国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センターの高下恵美主任研究官らの研究グループは、COVID-19の流行がインフルエンザの流行に与える影響を調べるために、世界保健機関(World Health Organization:WHO)の全6地域(アフリカ地域、東地中海地域、ヨーロッパ地域、アメリカ地域、南東アジア地域、西太平洋地域)を代表する22ヶ国(南アフリカ、エジプト、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、オランダ、ポーランド、スペイン、イギリス、ブラジル、カナダ、メキシコ、アメリカ、インド、タイ、オーストラリア、中国、日本、フィリピン、韓国、ベトナム)について、2019年第1週から2022年第45週までのCOVID-19およびインフルエンザの陽性例数を比較しました。

図1に各地域の代表例を示します。COVID-19およびインフルエンザの陽性例数について、両Y軸の比率を等しく(1:1)した場合、解析した22ヶ国すべてにおいてCOVID-19の陽性例数と比べてインフルエンザの陽性例数が極めて少ないことが明らかになりました(図1左列のグラフ群)。次に、COVID-19とインフルエンザの流行状況を比較しやすくするために両Y軸の比率を国別に調整した結果、解析したすべての国においてCOVID-19の感染拡大後にインフルエンザの陽性例数が著しく減少していました(図1右列のグラフ群)。このうち、日本と韓国ではCOVID-19の流行下において終始インフルエンザの流行が低い状況が続いていました。また、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスを除くその他の国ではCOVID-19とインフルエンザの流行のピークに明らかな逆相関が見られました。
図1. 世界各国におけるCOVID-19およびインフルエンザの陽性例数
WHOの(A)アフリカ地域(B)東地中海地域(C)ヨーロッパ地域(D)アメリカ地域(E)南東アジア地域(F)西太平洋地域。国名に続く括弧内は左右のY軸の比率を示す。

続いて、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスにおけるCOVID-19とインフルエンザの流行状況をより詳細に解析するために、2022年第1週から第45週までの陽性例数について両Y軸の比率を1:500に調整し比較しました(図2左)。その結果、ドイツにおけるインフルエンザの陽性例数が非常に少なかった一方、フランスでは第13週、イタリアでは第12週、イギリスでは第15週にインフルエンザの流行のピークが認められました(図2左、矢印)。さらにこれらの3ヶ国内における流行状況を詳しく調べたところ、インフルエンザの流行はCOVID-19の流行とは異なる地域で増加していることが明らかになりました(図2右)。
 

2. (左)フランス、ドイツ、イタリア、イギリスにおけるCOVID-19およびインフルエンザの陽性例数
(右)インフルエンザ流行のピーク時にCOVID-19の発生率あるいは陽性例数が最も多かった地域およびインフルエンザの流行地域
国名に続く括弧内は左右のY軸の比率、矢印はインフルエンザ流行のピークを示す。
 

本研究により、COVID-19とインフルエンザが同じ地域において同じ時期に同じ規模では流行していないことが示されました。北半球ではCOVID-19流行下で4度目のインフルエンザシーズンを迎え、日本国内におけるインフルエンザ定点当たり報告数も増加傾向にあります。COVID-19とインフルエンザの同時流行を評価するために、引き続き流行状況を注視する必要があります。


本研究成果は、2022年12月25日、International Society for Influenza and other Respiratory Virus Diseases(インフルエンザ及びその他の呼吸器ウイルス疾患学会)が発行するオープンアクセス誌「Influenza and Other Respiratory Viruses」に掲載されました。

なお、本研究は、東京大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター、米国ウィスコンシン大学が共同で行ったものです。また、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症研究基盤創生事業(JP22wm0125002)並びにワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(JP223fa627001)、厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(21HA2003)、JSPS科研費(JP18K10036)の一環として行われました。

 
  •  発表雑誌

雑誌名:「Influenza and Other Respiratory Viruses」
論文タイトル:Are twindemics occurring?
著者: Emi Takashita*¶, Shinji Watanabe, Hideki Hasegawa, Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者
¶:責任著者
DOI:10.1111/irv.13090
URL:https://doi.org/10.1111/irv.13090
 


 問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/dstngprof/page_00174.html

<報道に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
https://www.ncgm.go.jp/

 

PDF版はこちらよりご覧になれます(PDF:536KB)