English
Top

ワクチン被接種者あるいはブレイクスルー感染者血漿の、 臨床検体から分離した新型コロナウイルス・オミクロン株の BQ.1.1系統とXBB系統に対する反応性を検証

発表のポイント
 
  • mRNAワクチン(パンデミック初期株をもとに作られたワクチン)3回目または4回目被接種者の血漿の、オミクロン株のBQ.1.1系統とXBB系統に対する中和活性は、従来株、BA.2系統、あるいはBA.5系統に対する活性よりも顕著に低かった。3回目接種から半年経過または、4回目接種から1-2ヶ月経過したもの。
  • BA.2系統ブレイクスルー感染した患者の血漿のBQ.1.1系統とXBB系統に対する中和活性は、従来株、BA.2系統、あるいはBA.5系統に対する活性よりも顕著に低かった。

発表概要

新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は、現在も続いています。オミクロン株は、主に5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類され、2022年12月現在、日本を含む多くの国々では、BA.5系統に属する株が主流となっています。しかし、米国をはじめとする欧米諸国では、BA.5系統から派生したBQ.1.1系統(注1)が主流となりつつあります。また、インドやシンガポールなどのアジア諸国では、BA.2系統から派生したXBB系統(注1)の感染例も急激に増加しています。さらには、BQ.1.1系統とXBB系統が、国内を含む多くの国々で検出されています。

多くの系統が出現し、国民のおよそ65%あるいは40%がmRNAワクチンの3回目あるいは4回目接種を終えているなか、現在流行中の系統に対するワクチンの有効性に関する情報が求められています。今回、東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、オミクロン株BQ.1.1系統とXBB系統に対するmRNAワクチン(パンデミック初期株をもとに作られたワクチン)の有効性を検証するため、患者から分離したBQ.1.1系統とXBB系統に対するmRNAワクチン被接種者血漿の中和活性を調べました。

mRNAワクチン被接種者から採取された血漿のBQ.1.1株とXBB株に対する感染阻害効果(中和活性;注2)を調べた結果、mRNAワクチン3回目の被接種者の血漿(3回目接種から半年経過したもの)または4回目の被接種者血漿(4回目接種から1-2ヶ月経過したもの)の、BQ.1.1系統とXBB系統に対する中和活性は、いずれも、従来株、BA.2系統、あるいはBA.5系統に対する活性より著しく低く、多くの検体で中和活性が検出限界以下でした(図A&B)。

続いてmRNAワクチンを3回目接種後にBA.2系統に感染した患者(BA.2系統ブレイクスルー感染者;注3)の血漿を用いて、BQ.1.1株とXBB株に対する中和活性を調べました。これらの血漿のBQ.1.1系統とXBB系統に対する中和活性は、従来株、BA.2系統、あるいはBA.5系統に対する活性よりも顕著に低いことがわかりました。しかし、ほとんどの血漿は低いながらも中和活性を有していることが判明しました(図C)。

本研究を通して得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株各系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定・実施する上で、重要な情報となります。本研究は日本時間12月7日、英国医学誌「Lancet Infectious Diseases」(オンライン版)に公表されました。

なお、本研究は、東京大学、国立国際医療研究センターが共同で行ったものです。また、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業( JP21fk0108552, JP21fk0108615)、創薬支援推進事業 (JP21nf0101632)、新興・再興感染症研究基盤創生事業 (JP22wm0125002)並びにワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(JP223fa627001)の一環として行われました。
 






  • mRNAワクチン被接種者あるいはブレイクスルー感染者の血漿のオミクロン株に対する中和抗体価
    mRNAワクチン3回目接種から半年後のボランティア血漿(A)、4回目接種から1-2ヶ月後のボランティア血漿(B)、mRNAワクチン3回目接種後にBA.2系統に感染した患者の血漿(C)を用いて、中和抗体価を調べた。棒グラフ上の数値は血漿中和抗体価の幾何平均値(GMT; geometric mean titer)を示す。
  •  

 発表雑誌

雑誌名:「Lancet Infectious Diseases」(12月7日オンライン版)
論文タイトル:Humoral immune evasion of the omicron subvariants BQ.1.1 and XBB
著者: 
Ryuta Uraki*, Mutsumi Ito*, Yuri Furusawa*, Seiya Yamayoshi, Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, Eisuke Adachi, Makoto Saito, Michiko Koga, Takeya Tsutsumi, Shinya Yamamoto, Amato Otani, Maki Kiso, Yuko Sakai-Tagawa, Hiroshi Ueki, Hiroshi Yotsuyanagi, Masaki Imai, and Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者
¶:責任著者
DOI:10.1016/S1473-3099(22)00816-7
URL:https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(22)00816-7/fulltext

 

 問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/dstngprof/page_00174.html

<報道に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
https://www.ncgm.go.jp/

 

 用語解説

(注1)オミクロン株BQ.1.1系統、XBB系統:
ウイルス感染は、コロナウイルス粒子表面に存在するスパイク蛋白質を介してウイルス粒子が宿主細胞表面の受容体蛋白質に結合することで始まる。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬は、このスパイク蛋白質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。BA.5系統は、そのスパイク蛋白質に少なくとも34ヶ所の変異を有する。BQ.1.1系統のスパイク蛋白質は、BA.5系統が持つ34ヶ所の変異に加えて、3ヶ所の変異を有する。BA.2系統は、そのスパイク蛋白質に少なくとも31ヶ所の変異を有する。XBB系統のスパイク蛋白質は、BA.2系統と共通する30ヶ所の変異に加えて、14ヶ所の変異を有する。

(注2)感染阻害効果(中和活性):
抗体が持つウイルスの細胞への感染を阻害する機能。

(注3)ブレイクスルー感染者:
新型コロナウイルスのワクチンを接種して2週間以上経過後、新型コロナウイルスに感染した患者。

 

PDF版はこちらよりご覧になれます(PDF:348KB)