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臨床検体から分離した新型コロナウイルス・オミクロン株 BA.2.75系統に対する治療薬の効果を検証

発表のポイント
 
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬が、オミクロン株BA.2.75系統(注1)の培養細胞における感染や増殖を阻害するかどうかを解析した。
  • 抗体薬(注2)のベブテロビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブは、BA.2.75系統の感染を効果的に阻害した。
  • 抗ウイルス薬(注3)のレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビルは、BA.2.75系統の増殖を効果的に抑制した。

 発表内容

  • 2021年末から始まった新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は、現在も続いています。オミクロン株は、5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類されます。2022年8月現在、国内を含む多くの国々で、BA.5系統に属する株が主流となっています。しかし、インドとネパールでは、BA.2系統から派生したBA.2.75系統に属する株の感染例が急速に増えており、同系統がBA.5系統を抑えて、流行の主流になりつつあります。さらに、BA.2.75系統は、日本、米国、シンガポール、オーストラリア、カナダ、英国を含む26カ国(2022年8月現在)で検出されていることから、同系統による世界的流行が懸念されています。世界保健機関(WHO)は、BA.2.75系統を「懸念される変異株(VOC)における監視下の系統(VOC-LUM; Variants of Concern linages under monitoring)」に指定しています。

  • 国内では、3種類の抗体薬(カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)と3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル)がCOVID-19に対する治療薬として承認を受けています。しかし、これらの治療薬がオミクロン株のBA.2.75系統に対して有効かどうかについては、明らかにされていませんでした。

  • 東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、患者から分離したオミクロン株BA.2.75系統に対する治療薬の効果を調べました。

  • はじめに、4種類の抗体薬(ソトロビマブ、ベブテロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)がオミクロン株BA.2.75系統の感染を阻害(中和活性;注4)するかどうかを調べました(表1)。BA.2.75系統に対するソトロビマブとカシリビマブ・イムデビマブの中和活性は、著しく低いことがわかりました。一方、ベブテロビマブとチキサゲビマブ・シルガビマブは、BA.2.75系統に対して高い中和活性(注4)を維持していることが判明しました。
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    続いて、3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル)の効果を解析しました。全ての薬剤がBA.2.75系統の増殖を効果的に抑制しました(表2)。
      
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    本研究を通して得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株の各系統のリスク評価など行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります。

    本研究成果は、2022年9月7日(米国東部夏時間午後5時)、米国医学雑誌「New England Journal of Medicine (NEJM)」のオンライン速報版で公開されました。

    なお、本研究は、東京大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターが共同で行ったものです。また、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業並びに厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業の一環として行われました。

     

     発表雑誌

    雑誌名:「New England Journal of Medicine (NEJM) 」(9月7日オンライン速報版)
    論文タイトル:Efficacy of Antiviral Agents against the Omicron Subvariant BA.2.75
    著者: 
    Emi Takashita*, Seiya Yamayoshi*, Shuetsu Fukushi, Tadaki Suzuki, Ken Maeda, Yuko Sakai-Tagawa, Mutsumi Ito, Ryuta Uraki, Peter Halfmann, Shinji Watanabe, Makoto Takeda, Hideki Hasegawa, Masaki Imai, Yoshihiro Kawaoka¶
    *:筆頭著者
    ¶:責任著者
    DOI: 10.1056/NEJMc2209952
    URL: https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2209952

     

     問い合わせ先

    <研究に関するお問い合わせ>
    東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
    特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)
    https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/dstngprof/page_00174.html

    <報道に関するお問い合わせ>
    東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
    https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/

    国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
    https://www.ncgm.go.jp/
     

     用語解説

    (注1)オミクロン株BA.2.75系統:
    ウイルス感染は、コロナウイルス粒子表面に存在するスパイク蛋白質を介してウイルス粒子が宿主細胞表面の受容体蛋白質に結合することで始まる。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬は、このスパイク蛋白質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。BA.2系統は、そのスパイク蛋白質に少なくとも31ヶ所の変異を有する。BA.2.75系統は、BA.2系統と共通する29ヶ所の変異に加えて、8ヶ所の変異を有する。

    (注2)抗体薬:
    カシリビマブ・イムデビマブ(販売名:ロナプリーブ注射液セット)は令和3年7月19日に特例承認を受けた。ソトロビマブ(販売名:ゼビュディ点滴静注液)は令和3年9月27日に特例承認を受けた。チキサゲビマブ・シルガビマブ(販売名:エバシェルド筋注セット)は令和4年8月30日に特例承認を受けた。
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000982561.pdfを参照。
    米食品医薬品局(FDA)は、ベブテロビマブに緊急使用許可を出している(令和4年2月11日)。

    (注3)抗ウイルス薬:
    レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴静注液)は令和2年5月7日に特例承認を受けた。モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオ)は令和3年12月24日に特例承認を受けた。ニルマトレルビル・リトナビル(販売名:パキロビッドパック)は令和4年2月10日に特例承認を受けた。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000982561.pdfを参照。

    (注4)中和活性:
    抗体が持つウイルスの細胞への感染を阻害する機能。
     

PDF版はこちらよりご覧になれます(PDF:217KB)