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HEPAフィルターによる エアロゾル中の感染性新型コロナウイルスの除去効果

発表のポイント
 
  • HEPA(high-efficiency particulate air)フィルターを搭載した空気清浄機を用いることで、エアロゾル中に存在する感染性の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を経時的に除去できることがわかった。
  • 抗ウイルス剤塗布型HEPAフィルターのSARS-CoV-2エアロゾルの捕捉率は、従来型のHEPAフィルターと同等であることがわかった。
  • 本研究成果は、医療機関や家庭内におけるCOVID-19の拡大防止に貢献すると期待される。

 発表概要

  • 東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、HEPAフィルター(注1)を用いることでエアロゾル中の感染性SARS-CoV-2を室内空間から経時的に除去できることを実証しました。

  • COVID-19の主要感染経路の一つとして、エアロゾル感染があります。室内におけるSARS-CoV-2の空間中への拡散を低減するためには、HEPAフィルターによる空気ろ過が有効であると考えられています。米国環境科学技術研究所の規格IEST-RP-CC001)では、HEPAフィルターは、0.3μmの試験粒子を99.97%以上捕集可能なフィルターとして定義されています。しかし、感染性SARS-CoV-2エアロゾルに対するHEPAフィルターの捕集効果については定量的な評価が行われていませんでした。

  • HEPAフィルターのろ過効果を検証するため、BSL3(注2)の施設内に設けた試験チャンバー内にHEPAフィルター搭載空気清浄機を設置しました。コンプレッサーネブライザーを用いて、試験チャンバー内にSARS-CoV-2エアロゾルを噴霧しました。チャンバー(注3)内をSARS-CoV-2エアロゾルで満たした後、チャンバー内に設置された空気清浄機を毎時12回換気の風量で5分間、10分間、35.5分間稼働させました。所定の稼働時間後、チャンバー内に漂っているSARS-CoV-2エアロゾルをエアサンプラーで採取し、プラークアッセイ(注4)を用いて、サンプル中の感染性ウイルス力価を測定しました。HEPAフィルターによるウイルス除去率は、5分間、10分間、35.5分間の稼働時間で、それぞれ85.38%、96.03%、>99.97%でした。このようにHEPAフィルターによる感染性エアロゾルの除去率は、空気清浄機の稼働時間の経過とともに高くなることが分かりました(図1A)。
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  • 続いて、抗うウイルス剤CufitecR(注5)を塗布したHEPAフィルターの除去効果を調べました。1価の銅化合物からなるCufitecRは、活性酸素を発生させてフィルター面に付着したウイルス(SARS-CoV-2、インフルエンザウイルス、ならびにネコカリシウイルス等)を不活性化することができます。CufitecRを塗布したHEPAフィルターによる空間中のSARS-CoV-2の除去率は、通常のHEPAフィルターとほぼ同等でした(図1B)。
  • 図1 エアロゾル中の感染性SARS-CoV-2に対するフィルター付き空気清浄機の有効性
    BSL3施設のバイオセーフティキャビネット内に試験チャンバーを構築し,ネブライザーを用いてウイルスエアロゾルを発生させた。チャンバー内において、HEPAフィルター(A)または抗ウイルス剤塗布型HEPAフィルター(B)付き空気清浄機を48 L/minの流量で稼働させた。 空気ろ過後、エアサンプラーでチャンバー内のSARS-CoV-2を採取し、プラークアッセイでサンプル中の感染ウイルス量を測定し
    た。
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  • 本研究において、HEPAフィルターを用いた空気濾過により、空間中の感染性SARS-CoV-2エアロゾルが時間の経過とともに減少することが定量的に示されました。空間中のSARS-CoV-2を除去するためには、HEPAフィルター付き空気清浄機を室内の適切な場所に設置し、風量や風向きを適宜調整するなど、同機器を適正に使用することが重要です。また、HEPAフィルター付き空気清浄機を室内の換気と併用することで、より短時間で効率的に空間中のSARS-CoV-2を除去することが可能になると考えられます。さらに、抗ウイルス剤を塗布したHEPAフィルターを空気清浄機に取り付けることで、フィルターを交換する際の暴露リスクを減らせる可能性があります。本研究成果は、医療機関や家庭内におけるCOVID-19の拡大防止に貢献し、公衆衛生の向上に寄与することが期待されます。

  • 本研究成果は、2022年8月10日に米国科学雑誌「mSphere」のオンライン版で公開されました。
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  • なお本研究は、東京大学と進和テック株式会社が共同で行ったものです。本研究成果は、令和2年度厚生労働科学研究「新興・再興感染症のリスク評価と危機管理機能の実装のための研究」、日本医療研究開発機構(AMED)の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、並びに新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点研究領域)の一環として得られました。
     
    4.発表雑誌: 
    雑誌名:mSphere(8月10日オンライン版)
    論文タイトル:Effectiveness of HEPA filters at removing infectious SARS-CoV-2 from the air
    著者:Hiroshi Ueki*, Michiko Ujie*, Yosuke Komori, Tatsuo Kato, Masaki Imai, and Yoshihiro Kawaoka¶
    *:筆頭著者
    ¶:責任著者
    DOI:10.1128/msphere.00086-22
    URL:https://doi.org/10.1128/msphere.00086-22
     
    5.問い合わせ先
    <研究に関するお問い合わせ>
    東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
    特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)
    https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/dstngprof/page_00174.html
     
    <報道に関するお問い合わせ>
    東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
    https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/
     
    国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
    https://www.ncgm.go.jp/
     
     
    6.用語解説
    (注1)HEPAフィルター:
    米国環境科学技術研究所の規格(IEST-RP-CC001)では、0.3μmの試験粒子を99.97%以上捕集可能なフィルターとして定義される。
     
    (注2)BSL3:
  • 感染すると重篤な疾患を起こす病原体を取り扱うことが可能な実験施設。
     
    (注3)チャンバー:
    本研究では感染性のSARS-CoV-2エアロゾルを用いてフィルター性能の評価を行うために特殊な大型容器を開発し、BSL3施設内に設置した。
     
    (注4)プラークアッセイ:
    ウイルスに感染した培養細胞が死滅して、培養基材からはがれ落ちたことにより出来た穴(plaque)の数を測定することで、感染性のウイルス粒子数を測定することができる。
     
    (注5)抗ウイルス剤CufitecR
    1価銅化合物から溶出する1価銅イオンは、酸素と反応することで活性酸素(ヒドロキシルラジカル)が発生する。この活性酸素の酸化力が微生物の働きを抑制し、抗ウイルス・抗菌効果を示す。CufitecRは株式会社NBCメッシュテックの登録商標です。
    した。

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