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SARS-CoV-2オミクロンBA.2.11, BA2.12.1, BA.4, BA.5株に対する 中和抗体薬の効果の検証

 発表者 

佐藤佳(東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野 教授)
山岨大智(東京大学医科学研究所 博士研究員)
小杉優介(東京大学医科学研究所 大学院生)
木村出海(東京大学医科学研究所 博士研究員)
藤田滋(東京大学医科学研究所 大学院生)
瓜生慧也(東京大学医科学研究所 大学院生)
伊東潤平(東京大学医科学研究所 特任助教)
研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」(注1)


発表のポイント
 
  • 昨年末に南アフリカで出現した新型コロナウイルス「オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)」(注2)の亜株であるBA.2株が、世界中で大流行している。
  • 現在、新たに変異を獲得したオミクロン亜株(BA.2.11, BA2.12.1, BA.4, BA.5株)が各国で出現し、感染を拡大し始めた。
  • 本研究では、これらのオミクロン亜株に対する8種類の中和抗体薬(バムラニビマブ、べブテロビマブ、カシリビマブ、シルガビマブ、エテセビマブ、イムデビマブ、チキサゲビマブ、 ソトロビマブ)の効果を評価した。
  • ベブテロビマブは、調査したすべてのオミクロン亜株の感染を強く抑制した。
  • 一方、シルガビマブは、BA.2株の感染は抑制するものの、BA.4/5株はこの抗体に対して強い抵抗性を示した。

 発表内容

  • 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2022年4月現在、全世界において5億人以上が感染し、600万人以上を死に至らしめている、現在進行形の災厄です。現在、世界中でワクチン接種が進んでいますが、2019年末に突如出現したこのウイルスについては不明な点が多く、感染病態の原理やウイルスの複製原理、流行動態の関連についてはほとんど明らかになっていません。

  • 東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」は、世界各国で出現が相次ぐオミクロン株の亜株に対する中和抗体薬(注3)の効果を検証しました。現在、日本を含め、世界中でオミクロンBA.2株が主流に流行しています。しかし最近、スパイクタンパク質(注4)に新たな変異を獲得したオミクロン系統の亜株が、世界各地で出現し、流行拡大しています。具体的には、フランスのBA.2.11系統(+L452R)、アメリカのBA.2.12.1系統(+L452Q/S704L)、南アフリカのBA.4, BA.5系統(+L452R/HV69-70del/F486V/R493Q)などが挙げられます(図1)。
 

図1 オミクロン亜株の流行拡大
左)フランス、アメリカ、南アフリカにおける流行株の推移。フランスではBA.2.11、アメリカではBA.2.12.1、南アフリカではBA.4, BA.5の流行が急速に拡大している。
(最右)各オミクロン亜株のスパイクタンパク質が持つ変異。

 
  • 本研究では、これらのオミクロン亜株に対する8種類の中和抗体薬(バムラニビマブ、べブテロビマブ、カシリビマブ、シルガビマブ、エテセビマブ、イムデビマブ、チキサゲビマブ、 ソトロビマブ)の効果を、シュードウイルス(注5)を用いた実験によって評価しました。その結果、べブテロビマブは、調査したすべてのオミクロン亜株の感染を強く抑制しました。一方、シルガビマブは、BA.2株の感染は抑制するものの、BA.4/5株はこの抗体に対して強い抵抗性を示しました(図2)。
  

図2 中和抗体薬の各オミクロン亜株に対する効果
それぞれの抗体がそれぞれのウイルスの感染を阻害する効果を評価した実験結果。従来株(図中「parental virus (B.1.1)」)に対する中和抗体抵抗性の程度を円の大きさで、BA.2株に対する中和抗体抵抗性の程度をヒートマップでそれぞれ示した。
 
  • 本研究成果は、2022年6月8日、国際科学誌「The Lancet Infectious Diseases」オンライン版で公開されました。現在、「G2P-Japan」では、出現が続くさまざまな変異株について、ウイルス学的な正常解析や、中和抗体や治療薬への感受性の評価、病原性についての研究に取り組んでいます。G2P-Japanコンソーシアムでは、今後も、新型コロナウイルスの変異(genotype)の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(phenotype)を明らかにするための研究を推進します。

  • 今後もおそらく、新たな変異株の出現は続くと考えられます。中和抗体薬は、治療の最前線で活躍する治療薬です。その効果の迅速な評価は、パンデミック収束に向けて重要な知見となると考えています。

    <本研究への支援>
    本研究は、佐藤 佳教授らに対する日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(JP22fk0108146)、科学技術振興機構 CREST(JPMJCR20H4)などの支援の下で実施されました。
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     発表雑誌 

    雑誌名:「The Lancet Infectious Diseases」6月8日オンライン版
    論文タイトル:Neutralisation sensitivity of SARS-CoV-2 omicron subvariants to therapeutic monoclonal antibodies
    著者:
    山岨大智#、小杉優介#、木村出海#、藤田滋、瓜生慧也、伊東潤平、The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)、佐藤佳*(#Equal contribution; *Corresponding author)
    DOI: 10.1016/S1473-3099(22)00365-6
    URL: https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(22)00365-6/fulltext
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     問い合わせ先

    <研究についてのお問い合わせ>
    東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 システムウイルス学分野
    教授 佐藤 佳(さとう けい)
    https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/ggclink/section04.html

    <報道についてのお問い合わせ>
    東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
    https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/
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     用語解説 

    (注1)研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」
    東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野の佐藤教授が主宰する研究チーム。日本国内の複数の若手研究者・研究室が参画し、研究の加速化のために共同で研究を推進している。現在では、イギリスを中心とした諸外国の研究チーム・コンソーシアムとの国際連携も進めている。

    (注2)オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)
    新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する「懸念すべき変異株(VOC:variant of concern)」のひとつ。オミクロンBA.1株、オミクロンBA.2株などが含まれる。現在、日本を含めた世界各国で大流行しており、パンデミックの主たる原因となる変異株となっている。

    (注3)中和抗体薬
    新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を標的として結合する抗体で、ウイルスの感染を阻害する活性を持つもの。治療や免疫不全者の感染予防のために使用される。日本では現在、ロナプリーブ(イムデビマブとカシリビマブの抗体カクテル)とソトロビマブが承認されている。

    (注4)スパイクタンパク質
    新型コロナウイルスが細胞に感染する際に、新型コロナウイルスが細胞に結合するためのタンパク質。現在使用されているワクチンや中和抗体薬の標的となっている。

    (注5)シュードウイルス
    新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を被り、レポーター遺伝子を保有する擬似ウイルス。複製能力、伝播

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