発表のポイント |
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本報告は、国際科学誌 THE LANCET(ザ・ ランセット)に、2022年1月1日にオンライン版で発表されました。
【症例の背景】
HTLV-1※1は、全世界で取り組むべき重要な感染症と位置付けられ、2020年に世界保健機関(WHO)からTechnical Reportが発刊されました。HTLV-1感染者は、世界で3000万人以上、日本に100万人前後存在すると推定されています。このウイルスはヒトに疾患を引き起こすため、先進国の中で最も感染者が多い日本は、このウイルスに対して率先して取り組む責務があります。HTLV-1が引き起こす病気としては、成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎が挙げられます。成人T細胞白血病・HTLV-1関連脊髄症は、感染から発症までの潜伏期間が長いため中年以降に発症し、また高いプロウイルスロード(感染細胞率) ※2が発症に関与することが知られています。一方、HTLV-1ぶどう膜炎に関しては、どのような要因が発症に関与するか明らかではありませんでした。
【症例報告の概要】
近年の東京(東京医科歯科大学、東京大学医科学研究所)におけるHTLV-1ぶどう膜炎の発症年齢は、これまでに報告された中年をピークとする一峰性の分布とは異なり、若年と高年の発症も多くみられます。HTLV-1ぶどう膜炎患者の診療において、眼科検査・全身検査・ウイルス学的検査・感染経路調査を行い、フォローアップする中で、HTLV-1キャリア※3のバセドウ病※4では、若年、プロウイルスロードが低値であっても、その経過中に、程度の強い硝子体混濁(図1)・網膜血管炎(図2)を伴うHTLV-1ぶどう膜炎が発症することをつきとめました。

図1. 眼底写真:硝子体混濁が生じ、網膜の透見性が低下している

図2. 蛍光造影眼底検査:網膜血管炎によって、血管からの蛍光漏出がみられる
【症例報告の意義】
本報告は、バセドウ病の経過中に急な視力低下がみられた場合、HTLV-1感染の有無を確認する必要性を指摘しました。HTLV-1キャリアのバセドウ病においては、潜伏期間が短い若年、プロウイルスロードが低値であっても、重度のHTLV-1ぶどう膜炎を発症する可能性があるため注意が必要です。現在、日本に100万人、世界に3000万人ものHTLV-1感染者が存在しますが、HTLV-1感染については診療時にあまり意識されていないと考えられます。今回の報告を通じて、病状の背景にHTLV-1感染が関与している可能性を念頭に置いた診療が重要であることを提起しました。
【用語解説】
※1 HTLV-1: Human T-cell Lymphotropic (Leukemia) Virus type-1の略。世界保健機関(WHO)をはじめ、世界中から注目を集めている感染症。成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎など、ヒトに疾患を引き起こす。日本が診療・研究において世界をリードしている。※2プロウイルスロード: 全リンパ球中のHTLV-1感染細胞の含有率。
※3 キャリア: HTLV-1に感染しているが、病気を発症していない状態。
※4バセドウ病: 甲状腺機能が亢進し、動悸、震え、疲れ、眼球の突出などが起こる。(英名:Graves’ disease)
【論文情報】
掲載誌: THE LANCET 論文タイトル: HTLV-1 uveitis and Graves’ disease presenting with sudden onset of blurred vision
【問い合わせ先】
<研究に関すること>東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
眼科学分野 氏名 鴨居 功樹(カモイ コウジュ)
https://www.med.tmd.ac.jp/medicine/departments/opthalmology.html
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
https://www.tmd.ac.jp/outline/contact/