English
Top

「焦点性てんかんの新しいモデルマウスの作成に成功」 ―てんかんの病態解明と新たな治療法開発に期待―

ポイント
  • 焦点性てんかん※1の原因遺伝子であるNPRL2※2とNPRL3※2を欠損させたマウスの作製に成功しました。
  • NPRL2および NRPL3遺伝子欠損マウスは、患者さんと同じてんかん発作や脳の形態異常を示すことを明らかにしました。
  • NPRL2およびNPRL3遺伝子欠損マウスは、他の焦点性てんかんモデルと異なり、新たな抗てんかん薬の候補であるラパマイシン※3の治療効果が持続しないことを明らかにしました。
  • このモデルマウスを用いることにより、焦点性てんかんの病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。
東京医科歯科大学難治疾患研究所分子神経科学分野の石田紗恵子助教(現 東京大学医科学研究所先進動物ゲノム研究分野 助教)と田中光一教授の研究グループは、東京大学医科学研究所先進動物ゲノム研究分野 真下知士教授との共同研究で、焦点性てんかんの新しいモデルマウスを作製し、このモデルマウスでは他の焦点性てんかんモデルと異なり、抗てんかん薬候補であるラパマイシンの効果が持続しないことを明らかにしました。

この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は2021年11月20日、国際科学誌Human molecular genetics(ヒューマンモレキュラージェネティクス)のオンライン版で発表されました。

 

 【研究の背景】

てんかんは脳の神経細胞が異常に興奮することによって引き起こされる「発作」を特徴としている病気で、全世界で人口の約1%がかかるといわれています。焦点性てんかんは、脳の一部の神経細胞が異常に興奮することによって引き起こされるてんかんで、異常興奮が起こる脳部位や発症の特徴によって様々な種類に分類されています。近年、遺伝子の解析により、様々な種類の焦点性てんかん患者さんからNPRL2、NPRL3、 DEPDC5※2の変異が発見されており、これらの変異は、焦点性てんかんの最も頻繁に認められる遺伝的な原因となっています。しかし、NPRL2やNPRL3の異常が、どのようにてんかん発作を引き起こすのか不明でした。

 

 【研究成果の概要】

焦点性てんかんの解明には、ヒトと同様に遺伝子変異を持ち、患者さんに似た症状を示すモデルマウスが役立ちます。これまで、DEPDC5変異を有するてんかんモデルマウスを用いた研究は行われてきましたが、NPRL2およびNPRL3に変異を持つてんかんモデルマウスは作製されていませんでした。また、NPRL2やNPRL3を全身から欠損するマウスは胎児期に死亡し、焦点性てんかんの病態解明には用いることができませんでした。そこで研究グループは、最新のゲノム編集技術CRISPR/Cas9※4システムを用い、大脳皮質※5の細胞でのみNPRL2およびNPRL3を欠損させたマウスを作製しました。

NRPL2およびNPRL3欠損マウスは、患者さんと同様に、自発性のてんかん発作を起こし、発作特有の脳波異常を示しました。また患者さんに認められる、巨大な神経細胞の出現も再現されました(図1)。これらの結果は、NRPL2およびNPRL3欠損マウスは焦点性てんかんの病態モデルとして有用であることを示しています。

NPRL2、NPRL3、DEPDC5の変異を持つ焦点性てんかん患者さんでは、遺伝子の転写やタンパク質の合成を担うmTORC1経路の過剰な活性化が認められます。そのため、mTORC1の抑制剤であるラパマイシンが新たな抗てんかん薬として期待されています。そこで、NRPL2およびNPRL3欠損マウスにラパマイシンを長期間投与したところ、てんかん発作の回数発が有意に抑制されました(図2)。

しかし、DEPDC5欠損マウスとは異なり、NRPK2およびNPRL3欠損マウスでは、ラパマイシンの投与を中止すると効果は持続せず、てんかん発作が再発し、死亡しました(図3)。
 
 
 

 
 
 

 【研究成果の意義】

DEPDC5、NPRL2、NPRL3の遺伝子変異は、遺伝性の焦点性てんかん患者さんに最も多く認められる遺伝子変異です。今回、研究グループは、NPRL2およびNPRL3遺伝子変異によるてんかんのモデルマウスを作製し、それらが患者さんの病態を再現することを明らかにしました。今後、これらのマウスを利用した病態解明研究が進むと期待されます。

また、NPRL2およびNPRL3遺伝子欠損マウスは、DEPDC5欠損マウスと異なり、新たな抗てんかん薬の候補であるラパマイシンの治療効果が持続しないことを明らかにしました。これらのてんかんモデルマウスは、今後の新規治療法の開発に大きく貢献すると期待されます。
 

 【用語解説】

※1焦点性てんかん:脳の一部の神経細胞が異常に興奮することによって引き起こされるてんかんである。

※2NPRL2, NPRL3: NPRL2(Nitrogen permease regulator 2-like protein)とNPRL3(Nitrogen permease regulator 3-like protein)はDEPDC5(Dep domain containing 5)と複合体形成し、焦点性てんかん患者で見られる頻度の高い原因遺伝子である。

※3ラパマイシン:遺伝子の転写やタンパク質の合成を担う mTORC1経路の抑制剤

※4CRISPR/Cas9システム:特定の配列にDNA2本鎖切断を引き起こすことにより、ゲノムの改変効率を高くしたゲノム編集技術。

※5大脳皮質:大脳の表面を覆う神経細胞の薄い層。
 

 【論文情報】

掲載誌:Human molecular genetics
論文タイトル:Dorsal telencephalon-specific Nprl2- and Nprl3-knockout mice: novel mouse models for GATORopathy
 

 【問い合わせ先】

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
分子神経科学分野 田中 光一 (タナカ コウイチ)
https://www.tmd.ac.jp/dept/mri/aud/

東京大学医科学研究所
先進動物ゲノム研究分野 石田 紗恵子(イシダ サエコ)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/animalresearch/section01.html

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
https://www.tmd.ac.jp/

東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/
 
 

PDF版はこちらよりご覧になれます(PDF:406KB)