発表のポイント |
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この研究は文部科学省科学研究費補助金、新学術領域研究「数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解」、武田科学振興財団、ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)『老化メカニズムの解明・制御プロジェクト』の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は2021年9月22日午前10時(米国東部時間)、米国科学誌Journal of Cell Biology オンライン版に公表されました。
研究の背景
高齢者に多い皮膚潰瘍や床ずれは、生活の質(QOL)ならびに寿命に大きく関わることから、超高齢化社会においてその対策が喫緊の課題となっています。加齢そのものによる皮膚の再生能力の低下に加え、糖尿病など加齢に関連する基礎疾患が、糖尿病性足潰瘍や静脈性下肢潰瘍、褥瘡(床ずれ)に大きく関与しています。これらの難治性皮膚潰瘍※1では、老化や基礎疾患による創傷治癒の遅延に細菌感染を伴うことが多く、細菌叢バイオフィルムが形成されてさらに難治性となり、重症例では下肢切断が必要となります。したがって、難治性皮膚潰瘍の重症化を防ぐため、早期段階からの治療が必要ですが、効果的な治療法は未だに開発されていません。皮膚の再生では、周囲の表皮が欠損部分に移動し、その部分を覆う上皮化というプロセスが必須となります。常に細胞が入れ替わる組織である表皮の恒常性は表皮幹細胞※2が担っており、皮膚再生時の上皮化にも、この表皮幹細胞が関与していることが知られています。老化や基礎疾患などによって難治性皮膚潰瘍が誘発される環境では、この表皮幹細胞の機能が障害されている可能性が示唆されていましたが、その仕組みについては解明されていませんでした。研究成果の概要
本グループは、まず採取されたヒト皮膚から表皮細胞が集団で移動する様子を、培養系で観察することに成功しました。この表皮細胞の集団移動は、皮膚の傷が治る際の上皮化と同じ細胞の運動形態であり(図1A上段)、同様の表皮細胞の集団運動は、ヒト表皮幹細胞が培養系でコロニーとして成長する際にも観察されました(図1A下段)。このことは、ヒト表皮幹細胞のコロニー形成が、上皮化研究の優れたモデルであり、培養系でのヒト表皮幹細胞の運動様式の解明が上皮化の仕組みの解明につながることを示しています。そこで、ヒト表皮幹細胞コロニーと幹細胞ではない表皮細胞が作るコロニー内での細胞の速度を調べたところ、幹細胞コロニー内の細胞の方が、素早く移動していることがわかりました(図1B)。さらに本グループは、ヒト表皮幹細胞の増殖や運動パターンを解析し、それらをモデル化することで、コンピューター内で表皮幹細胞の増殖を再現することに成功しました。そのシミュレーションから、表皮幹細胞が自己複製し、コロニーが成長するには、表皮幹細胞の運動能力が必須であることが分りました(図1C)。




研究成果の意義
ヒトにおいては、加齢に伴って皮膚でのCOL17A1の量が減少することが報告されていますが、同様にEGF受容体を活性化するEGFの量も、血液中などで減少することが報告されています。本グループが見出したEGF受容体-TIMP1-COL17A1経路の不活性化が、皮膚再生能力の低下の引き金になると考えられることから、糖尿病性潰瘍や床ずれなどの難治性皮膚潰瘍の発症とも、大きく関連している可能性があり、本研究成果は、これらの病態の発症機構の解明を大きく前進させます。また、この経路を活性化することで、加齢によって低下した皮膚再生能力の改善や、難治性皮膚潰瘍に対する新しい治療法の開発が期待されます。用語解説
※1 難治性皮膚潰瘍:通常ならば治るはずの皮膚にできた傷が、何らかの阻害要因によって、通常の治療では治らない傷(皮膚潰瘍)になったもの。※2表皮幹細胞:表皮に存在する組織特異的幹細胞。培養系においても表皮組織を形成する能力を保持しており、培養表皮シートとして重度熱傷などの治療に用いられている。
※3 表皮増殖因子受容体(EGF受容体):細胞増殖因子の一つである表皮増殖因子(EGF)の受容体。EGFが結合することで活性化され、細胞内へ増殖シグナルなどを伝える。EGFだけでなく、TGFαやHB-EGFなど他のEGFファミリー分子もEGF受容体に結合し活性化する。
※4 XVII型コラーゲン(COL17A1):細胞と細胞外基質である基底膜をつなぐヘミデスモソームを構成する分子の一つ。細胞膜に存在し、細胞外領域はタンパク質分解酵素によって切断を受けることが知られている。
※5 TIMP1 (Tissue inhibitor of metalloproteinase 1):タンパク質分解酵素の一種であるメタロプロテアーゼの活性を阻害するタンパク質。細胞外に放出され、多くの種類のメタロプロテアーゼの活性を組織中にて阻害する。
論文情報
掲載誌: Journal of Cell Biology論文タイトル: EGFR-mediated epidermal stem cell motility drives skin regeneration through COL17A1 proteolysis
DOI: 10.1083/jcb.202012073
URL: https://doi.org/10.1083/jcb.202012073
研究者プロフィール
難波 大輔 (ナンバ ダイスケ) Daisuke Nanba東京医科歯科大学 難治疾患研究所 幹細胞医学分野 准教授
・研究領域:幹細胞生物学、皮膚科学など
西村 栄美 (ニシムラ エミ) Emi K. Nishimura
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 幹細胞医学分野 教授
東京大学医科学研究所 老化再生生物学分野 教授
・研究領域:幹細胞生物学、老化・再生生物学、皮膚科学、実験病理学など
問い合わせ先
<研究に関すること>東京医科歯科大学 難治疾患研究所
幹細胞医学分野 難波 大輔(ナンバ ダイスケ)
https://www.tmd.ac.jp/mri/
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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