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SARS-CoV-2デルタ株(B.1.617.2系統)のウイルス学的・免疫学的特性の解明

 発表者 

1.発表者: 
佐藤 佳(東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野准教授)

※研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」(注1)メンバー
佐藤 佳(東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野准教授)

入江 崇(広島大学 大学院医系科学研究科 准教授)
吉田 勲(東京都健康安全研究センター 研究員)
 
発表のポイント
  • 従来株に比べ、新型コロナウイルス「デルタ株(注2)」がワクチン接種で獲得した中和抗体に対して6-8倍抵抗性を示すことを明らかにした。
  • デルタ株は、ヒト気道オルガノイドとヒト気道上皮系の両方で、アルファ株(注3)やカッパー株(注4)よりも高い複製効率を示した。
  • デルタ株は、インドの医療従事者の間で複数回「ブレイクスルー感染(注5)」を引き起こしていることを明らかにした。

 発表概要 

東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」は、英国やインドの研究グループとの国際共同研究により、新型コロナウイルスの「懸念すべき変異株」である「デルタ株(B.1.617.2系統)」のウイルス学的、免疫学的特性を明らかにしました。
本研究成果は2021年9月6日、米国科学雑誌「Nature」オンライン版で公開されました。
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 発表内容

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)「デルタ株(B.1.617.2系統)」は、2020年後半に、インド・マハラシュトラ州で最初に特定され、インド全土に広がり、またたく間に「カッパー株(B.1.617.1系統)」やアルファ株(B.1.1.7系統)などの既存の系統を凌駕しました。

細胞実験において、デルタ株は、従来株と比較して、ワクチン接種者から回収された血清中の中和抗体に対する感受性が6分の1から8分の1であることを明らかにしました。また、デルタ株は、アルファ株と比較して、ヒト気道オルガノイドとヒト気道上皮系の両方で、高い複製効率を示しました。

さらに、複数の系統のウイルスが混合して循環している期間中の、インドの3つの医療センターの130人以上のSARS-CoV-2感染医療従事者を分析した結果、デルタ株以外の株と比較して、デルタ株に対するChAdOx-1ワクチン(注6)の有効性が低下していることが観察されました。比較的高い免疫回避能力と高い複製力を有するデルタ株は、ワクチン接種後の時代における、継続的な感染管理の重要性を示唆するものです。

<本研究への支援>
本研究は、佐藤 佳准教授らに対する日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(20fk0108413)などの支援の下で実施されました。
 

 発表雑誌

雑誌雑誌名:「Nature」9月6日オンライン版
論文タイトル:SARS-CoV-2 B.1.617.2 Delta variant replication and immune evasion
著者:Petra Mlcochova*, Steven Kemp*, Mahesh Shanker Dhar*, Guido Papa, Bo Meng, Isabella A.T.M Ferreira, Rawlings Datir, Dami A. Collier, Anna Albecka, Sujeet Singh, Rajesh Pandey, Jonathan Brown, Jie Zhou, Niluka Goonawardane, Swapnil Mishra, Charles Whittaker, Thomas Mellan , Robin Marwal, Meena Datta, Shantanu Sengupta, Kalaiarasan Ponnusamy, Venkatraman Srinivasan Radhakrishnan, Adam Abdullahi, Oscar Charles, Partha Chattopadhyay, Priti Devi, Daniela Caputo, Tom Peacock, Dr Chand Wattal, Neeraj Goel, Ambrish Satwik, Raju Vaishya, Meenakshi Agarwal, The Indian SARS-CoV-2 Genomics Consortium (INSACOG), The CITIID-NIHR BioResource COVID-19 Collaboration, 
The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, Antranik Mavousian, Joo Hyeon Lee, Jessica Bassi , Chiara Silacci-Fegni, Christian Saliba, Dora Pinto , 入江 崇, 吉田 勲, William L. Hamilton, 佐藤 佳, Samir Bhatt, Seth Flaxman, Leo C. James, Davide Corti, Luca Piccoli, Wendy S. Barclay, Partha Rakshit*, Anurag Agrawal*, Ravindra K. Gupta*.
(*Corresponding authors、G2P-Japan コンソーシアムからの研究参加者に太字・下線)
DOI: 10.1038/s41586-021-03944-y
URL: https://www.nature.com/articles/s41586-021-03944-y

 

 問い合わせ先

<研究について>
東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野
准教授 佐藤 佳(さとう けい)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/SystemsVirology/
Facebook:https://www.facebook.com/SystemsVirology
Twitter:https://twitter.com/SystemsVirology

<報道について>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/index.html
 

 用語解説 

(注1)研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」
東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究チーム。日本国内の複数の若手研究者・研究室が参画し、研究の加速化のために共同で研究を推進している。また、本研究のように、海外の研究チームとの国際共同研究も推進している。

(注2)デルタ株
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する「懸念すべき変異株"Variants of concern"」のひとつ。B.1.617.2系統。現在、日本を含めた世界各国で大流行している。

(注3)アルファ株
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する「懸念すべき変異株"Variants of concern"」のひとつ。B.1.1.7系統。昨冬、イギリスで出現し、日本を含めた全世界で大流行したが、デルタ株の出現以降、流行は下火になりつつある。

(注4)カッパー株
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する「注目すべき変異株"Variants of interest"」のひとつ。B.1.617.1系統。インドにおいてデルタ株とほぼ同時期に出現した、デルタ株に近縁な株であるが、デルタ株の流行拡大に押し切られる形で下火になりつつある。

(注5)ブレイクスルー感染
ワクチン接種者が新型コロナウイルスに感染してしまう現象。

(注6)ChAdOx-1ワクチン
アストラゼネカ社製の新型コロナウイルスに対するワクチン。
 
 

PDF版はこちらよりご覧になれます(PDF:174KB)