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腸管と乳腺はつながっている! ~腸内微生物が母乳中の抗体産生を促す~

発表のポイント
母乳中の抗体産生に関するメカニズムを、以下の通り、明らかにしました。
  • 母乳中の抗体が産生される際には、腸管から乳腺に抗体産生細胞が移動している。
  • 特定の腸内微生物が哺育期の母体の腸管の免疫機能を高めている。

 概要 

母乳中の抗体は、産子の健康に欠かせない重要な免疫物質です。
東北大学農学研究科 食と農免疫国際教育研究センターの野地智法教授、宇佐美克紀博士および、東京大学医科学研究所粘膜免疫学部門の清野宏特任教授、大阪大学微生物病研究所の佐藤慎太郎特任准教授(大阪市立大学大学院医学研究院・ゲノム免疫学・准教授を兼務)、大阪大谷大学薬学部の戸村道夫教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構の菅原準一教授、カリフォルニア大学デービス校のRussell C. Hovey教授らの研究グループは、母乳中の抗体(免疫グロブリン※1)が作られるメカニズムを明らかにしました。

母乳中の抗体は、形質細胞(リンパ球の一つであるB細胞※2より分化した細胞)から分泌され、母子移行されるタンパク質の一つです。今回、母乳中の抗体産生に関わる形質細胞の大半は、乳腺から遠く離れた腸管に由来していることを明らかにしました。さらには、母乳中の抗体が産生される際に腸管の免疫機能が高められるためには、腸管内に生息する特定の腸内微生物(例:B. acidifaciens、P. buccalis)の存在が重要であることを突き止めました。

本研究を通して、ヒトや動物といった哺乳動物の母乳を介した免疫機能(母乳中の抗体産生)を強化するための着眼点が見出されました。今後、哺育期の母体を対象としたプロバイオティクス開発などへの応用が期待されます。

本研究成果は、2021年9月7日午前11時(米国東部時間)に米国Cell Press社が発行する科学誌Cell Reportsに掲載されました。

 

 詳細な説明

 

図:母乳中に抗体が産生されるメカニズム

 
パイエル板※3は、腸管に発達するリンパ組織であり、パイエル板を覆う上皮層に散在するM細胞より取り込まれた様々な異物(例:腸内微生物)に対する免疫応答を誘導する場として機能しています。今回、哺育中の母体の免疫系は、このパイエル板に存在する一部のB細胞に対して乳腺への移動を指示していること、また、その過程で、B細胞から形質細胞への分化が促され、乳腺に到着後の形質細胞から母乳中の抗体が産生されていることを明らかにしました。

加えて、母乳中の抗体が産生される際にパイエル板の免疫機能が高められるためには、腸管内に生息する特定の腸内微生物(例:B. acidifaciens、P. buccalis)の存在が重要であることを突き止めました。実際、抗生物質を用いて哺育期の母体の腸管内に存在するこれらの微生物を殺菌すると、母乳中の抗体量が有意に減少し、一方で、そのような状態の母体に、特定した腸内微生物を経口的に投与すると、母乳中の抗体量が有意に増加することを明らかにしました。

 

 用語説明

※1 免疫グロブリン
一つの抗原(異物)に対する特異性を有したタンパク質で、B細胞より分化した形質細胞から分泌される。通称、抗体。

※2 B細胞
リンパ球の一種。一つのB細胞は、抗原(異物)を特異的に認識する一種類の受容体(B細胞受容体)を発現している。B細胞から分化した形質細胞が分泌する抗体(免疫グロブリン)が有する抗原特異性は、分化前のB細胞が発現するB細胞受容体の抗原特異性と同じである。

※3 パイエル板
腸管での免疫機能に関わるリンパ組織で、B細胞やT細胞といったリンパ球が豊富に存在している。 

 

 論文情報

雑誌名:Cell Reports
タイトル:The gut microbiota induces Peyer’s patch-dependent secretion of maternal IgA into milk
著者:宇佐美克紀1、新實香奈枝1、松尾歩1、陶山佳久1、酒井義文1、佐藤慎太郎2、
藤橋浩太郎3、清野宏3、内野紗江佳1、古川睦実1、Jahidul Islam1、伊東加織1、
守屋大樹4、楠本豊4、戸村道夫4、Russell C. Hovey5、菅原準一6、米山裕1、
北澤春樹1、渡邊康一1、麻生久1、野地智法1,3
1: 東北大学大学院農学研究科 食と農免疫国際教育研究センター
2: 大阪大学微生物病研究所
3: 東京大学医科学研究所
4: 大阪大谷大学薬学部
5: カリフォルニア大学デービス校
6: 東北大学東北メディカル・メガバンク機構
DOI: 10.1016/j.celrep.2021.109655
URL: https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(21)01098-6

 

 問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院農学研究科 食と農免疫国際教育研究センター
教授 野地智法
https://www.agri.tohoku.ac.jp/cfai/organization.html

(報道に関すること)
東北大学大学院農学研究科 総務係
https://www.agri.tohoku.ac.jp/jp/contact/index.html
 

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