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ノイルイミューン・バイオテックとC4UによるCRISPR/Cas3ゲノム編集技術を用いた PRIME他家CAR-T細胞療法に関する提携について

発表のポイント
  • 東京大学医科学研究所の真下知士教授らが開発した次世代型ゲノム編集技術(注1)であるCRISPR/Cas3(注2)技術を有するC4U株式会社(所在地:大阪府吹田市、以下「C4U」)と、山口大学及び国立がん研究センター発のバイオベンチャー「ノイルイミューン・バイオテック株式会社」(所在地:東京港区、以下「ノイルイミューン」)は、CRISPR/Cas3技術と、ノイルイミューンの有するCAR-T(注3)やTCR-T等の遺伝子改変免疫細胞療法(注4)を固形がんへ適応するためのPRIME(Proliferation inducing and migration enhancing)技術(注5)を組み合わせ、次世代型の他家(注6)遺伝子改変免疫細胞療法技術の共同研究および事業化に関する契約を締結した。
  • 本契約締結により、他家由来の免疫細胞を利用した高活性のCAR-T細胞の開発を進める。
  • 汎用性が高く、固形がんに対しても治療効果を発揮しうる次世代型CAR-T細胞が開発され、より多くの患者を救う治療法が創出されることが期待される。

 概要

ノイルイミューン・バイオテック株式会社(所在地:東京港区、以下「ノイルイミューン」)と、C4U株式会社(所在地:大阪府吹田市、以下「C4U」)は、このたび、C4Uの有する次世代型ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas3技術と、ノイルイミューンの有するCAR-TやTCR-T等の遺伝子改変免疫細胞療法を固形がんへ適応するためのPRIME(Proliferation inducing and migration enhancing)技術を組み合わせ、次世代型の他家遺伝子改変免疫細胞療法技術の共同研究および事業化に関する契約を締結しました。

C4Uの基盤技術であるCRISPR/Cas3技術は、C4Uの創業メンバーであり科学技術顧問を務める東京大学医科学研究所の真下知士教授,大阪大学微生物病研究所の竹田潤二招へい教授らの研究成果を基に開発されたCRISPR/Cas3系を用いた新しいゲノム編集技術です。現在世界中で研究が先行しているCRISPR/Cas9(注7)系に対抗し得る技術であり、Cas9に関する複雑な特許状況に影響されない、有望なゲノム編集技術として注目を浴びています。

また、ノイルイミューンの基盤技術であるPRIME技術は、ノイルイミューンのサイエンティフィックファウンダーおよび取締役であり山口大学大学院医学系研究科の玉田耕治教授(東京大学医科学研究所遺伝子・細胞治療センター委嘱教授)らにより開発された、CAR-T等のがん免疫細胞療法に関する技術です。CAR-T等がサイトカイン(注8)やケモカイン(注9)を産生することによりCAR-T等の機能を高めるだけでなくがん患者さん自身の内在性の免疫細胞によるがんの傷害を引き起こす技術です。

ノイルイミューンの取締役(CSMO)である玉田耕治教授は、「この度、独自の優れたゲノム編集技術を有するC4Uと事業提携できることをとても喜ばしく思います。この事業ではノイルイミューンの有するPRIME CAR-T技術とC4Uの有するゲノム編集技術を組み合わせることにより、他家由来の免疫細胞を利用した高活性のCAR-T細胞の開発を進めます。国産技術の組み合わせにより、汎用性が高く、固形がんに対しても治療効果を発揮しうる次世代型CAR-T細胞が開発され、より多くの患者様を救う治療法が創出できると期待しています。本事業は文部科学省補助金事業である『地域イノベーション・エコシステム形成プログラム』を始めとした様々な研究支援を受けて、世界最先端のがん免疫療法の開発を目指しています」と述べています。

また、C4Uの科学技術顧問である真下知士教授は「ノイルイミューンの有するPRIME CAR-T技術は、CAR-T細胞の弱点であった固形癌への効果および効果の持続性を見事に克服した世界に誇れる素晴らしい技術です。本技術に我々の開発したCRISPR/Cas3ゲノム編集技術を加えることにより、いままでのCAR-T細胞療法に比べて、より安価で、より効果的な優れた他家CAR-T細胞療法をがんに苦しむ多くの患者様に提供できると確信しています」と述べています。

ノイルイミューンとC4Uは、本提携の下、他家遺伝子改変免疫細胞療法に関する共同研究を実施します。ノイルイミューンは、本共同研究の実施に必要な経費の一部を負担します。また、両社は本共同研究により得られた成果を事業化する権利を有し、契約に基づき相互にロイヤリティを受け取る権利を有します。なお、ノイルイミューンは事業化に際しC4Uの基盤技術に対するアクセス料を支払います。さらなる契約の詳細については開示しておりません。

 

  契約締結会社について

<ノイルイミューン・バイオテック株式会社>
ノイルイミューン・バイオテック株式会社(代表取締役:石﨑秀信、所在地:東京都港区)は、山口大学及び国立がん研究センター発のバイオベンチャーであり、CAR-T細胞療法を主とした新規がん免疫療法の開発を行っています。
 
<C4U株式会社>
C4U株式会社(代表取締役:魚谷晃、所在地:大阪府吹田市)は、2018年3月に設立した、大阪大学発のライフサイエンス・スタートアップです。独自の新規ゲノム編集の基盤技術開発に取り組んでいます。
 
 

 用語解説

(注1)ゲノム編集技術: DNA切断酵素と人工的にデザインしたRNAなどを細胞に導入し、ゲノム局所を選択的に改変する技術です。

(注2)CRISPR/Cas3: CRISPR/Cas9(注7)と同様に二本鎖DNAを切断しますが、よりサイズの大きな欠失変異を導入することから、遺伝子破壊(ノックアウト)に適しています。また、gRNA認識配列が長いことから、オフターゲット変異が少ない、より安全なゲノム編集ツールと言われています。

(注3)CAR-T: キメラ抗原受容体T細胞の略で、がんの細胞表面抗原に特異的な一本鎖抗体とT細胞の活性化に関わる分子のシグナル伝達領域を組み合わせた人工的な抗原受容体を、T細胞に遺伝子導入した免疫細胞療法です。

(注4)遺伝子改変免疫細胞療法: CAR-Tのように、T細胞などの免疫細胞に対して遺伝子改変を行うことで治療効果の増強する治療法です。

(注5)PRIME(Proliferation inducing and migration enhancing)技術: 腫瘍局所でサイトカイン(注8)やケモカイン(注9)をCAR-T等が産生することにより、腫瘍内部にT細胞や樹状細胞の著しい浸潤を誘導し、投与を受けた宿主側のT細胞と協調して相乗的に極めて強力な抗がん効果を発揮することが期待されます。さらにPRIME CAR-Tの投与によって治療を受けたマウスには長期的ながんに対する免疫記憶も形成されており、がんの再発を予防できる可能性も示されています。

(注6)他家: 現在実用化されているCAR-Tは患者自身のT細胞を利用する「自家」CAR-Tですが、「他家」のCAR-Tは、他人から取り出したT細胞を利用してCAR-Tを作製し患者に投与します。このように、他家はその都度投与する細胞を作製する必要が無く、必要に応じてストックから直ぐに患者さんへ提供できるようになることが期待されます。

(注7)CRISPR/Cas9: 現在広く利用されるゲノム編集技術の一種で、Cas9がガイドRNAと結合し、ガイドRNAの一部(20塩基のガイド配列)と相補的なDNAを選択的に切断します。ガイド配列を変更することにより、様々な塩基配列をもつDNAを選択的に切断することができます。

(注8)サイトカイン: 免疫系の調節、炎症反応の誘発、細胞の増殖や分化の調整などに関係して、病原体感染時の生体防御や生体機能の調節、様々な疾患の発症や抑制などに重要な役割を果たしている生理活性物質です。

(注9)ケモカイン: 特定の血球に作用して、その物質の濃度勾配の方向に細胞を遊走させる生理活性物質です。

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