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2023年 山梨裕司所長年頭挨拶

皆様、新年、明けましておめでとうございます。本日は、私の、所長としての最後のご挨拶にご参加くださり、誠に有難うございます。今回も画面越しとなってしまいましたが、本年がより多くの日常を取り戻す年になることを祈りながら、私のご挨拶も、医科研の未来を支える人事のご紹介から始めます。
 
まず、教授人事につきましては、ご案内の通り、国境が意味をなさないパンデミック対応に必要な国際性に富む佐藤先生を教授としてお迎えすることができました。これは医科研の魅力の証でもあり、とても頼もしく思います。是非、システムウイルス学の拡張に継続して取り組んで頂きたいと思います。
 
また、特任教授人事では、これまで医科研に兼務する形で研究を進めておられた津本先生、松田先生を、工学系研究科、新領域創成科学研究科のご理解の下、より活動の幅が広がる学内クロスアポイントメント制度にてお迎えすることができました。同時に、藤堂先生と文字通りの二人三脚で腫瘍溶解性ウイルス治療の創出と医療実装を進めておられる田中先生をウイルス療法開発寄付研究部門にお迎えすることができ、対象疾患の拡張を含むウイルス治療のさらなる発展が期待されます。他方、医学系研究科へのご異動と同時に、山田先生を特任教授としてお迎えすることができました。これにより、今回のご異動の影響を、医科研として対応できるレベルで制御することが叶います。以上、皆様には、それぞれの分野、立場でのご活躍を切に、お願い申し上げます。
 
さらに、医科研病院が強みとすべきがん研究の機能強化の一環として、血液腫瘍内科に横山特任准教授を昇任の形でお迎えし、また、植松先生、井元先生が推進されておられるウイルス・ファージを含む腸内細菌叢研究の強化のために、藤本浩介特任准教授を大阪公立大学との兼任の形でお迎えいたしました。やはり、今年度も、医科研の基礎・橋渡し・臨床の総合力が着実に強化されているとご理解くださるようお願いいたします。
 
他方、医科研としては大きな痛手ではありますが、造血系を中心とする多様なシグナル伝達機構の解明やそれに基づく造血器腫瘍、造血幹細胞分化の研究を牽引して下さった北村先生が昨年の3月に、定年にて退職されました。しかしながら、引き続き、神戸医療産業都市推進機構の先端医療研究センターではセンター長として、本学薬学系研究科では最前線の研究者として活躍されておいでです。この点、造血器研究だけではなく、組織運営の諸課題につきましても、引き続き、大所高所からのご指導を頂けるものと嬉しく存じます。
 
また、これも例年通り、多くの准教授の先生方や、特任教員の先生方が、昇任や新たな研究室・研究組織創設のために異動されておいでです。これも、医科研にとっては痛手ですが、我が国の研究力向上に貢献していることの証左でもありますので、皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
 
次に、研究活動の指標の一つである英文査読付論文数の推移ですが、例年は安定して500報前後で、そのうちの15%前後が比較的インパクトの高い学術誌に掲載されていると申しておりましたが、2021年度は、発表論文総数、教員ひとりあたりの発表論文数、インパクトの高い学術誌に掲載された論文数の全てが顕著に増加しています。この点、中核的な貢献をされた新型コロナウイルス研究に従事された皆様をはじめ、病院、事務部の皆様を含めた所全体のご尽力の賜物と篤く御礼申し上げます。この勢いを削がぬよう、新たにお迎えした皆様を含めた研究力の向上に引き続き、注力いたします。
 
また、研究力のもう一つの指標でもある外部資金の推移につきましては、2019年度までの傾向と少し異なり、2020、2021年度においては獲得額の増加と獲得件数の減少傾向、つまり、予算の大型化、特に受託研究費の大型化の推移が見て取れます。この点、大枠では歓迎すべきことと皆様のご活躍に深く感謝申し上げます。同時に、昨年も申し上げました通り、医科研の未来にとって重要な、地道な基礎研究への影響を注視しながら、就任時にお約束した基礎・橋渡し・臨床研究のバランスの良い発展を目指してまいります。
 
さらに、研究、医療活動を通じた貢献を讃える公的な受賞実績につきましては、柴田教授、清木名誉教授、中村元副看護部長、河岡特任教授、佐藤教授が高松宮妃がん研究基金学術賞、瑞宝中綬章、瑞宝単光賞、慶應医学賞、日本学術振興会賞をそれぞれに受賞されておいでです。
 
また、昨年度に創設された医科学研究所奨励賞を井上悠輔准教授、加藤哲久准教授が受賞され、それぞれに、法的・倫理的な観点を含む医学・生物学研究の多様な規範に関する研究と、ヘルペスウイルスの理解・制御・利用に関する研究に活躍されておいでです。この点、医科研が重視する多様性の実例と頼もしく存じます。以上、受賞された皆様の業績に敬意を表すると共に、心よりお祝い申し上げます。
 
次に、医科研全体の機能強化について、申し上げます。これも、例年申し上げていることですが、医科研は、創立者である北里先生の三つの理念、「実学」、「包括的研究」、「予防」の重視をしっかりと受け継ぎ、医科研が誇る、多様な人材と学際的な研究、そして、独自のスパコンとプロジェクト型病院を擁する強みを生かし、膨大で複雑な情報とAIを活用する自由な基礎・橋渡し・臨床研究をバランス良く進めることで、これからも、5年後、10年後、100年後の未来医療を創出するための医科学研究を、日本全体、世界全体を牽引する形で進めていかねばなりません。
 
そこで、医科研はこのミッションを実現する組織として、2018年11月に「基礎・応用医科学の推進と先端医療の実現を目指した医科学国際共同研究拠点」として、生命科学系では唯一の国際共同利用・共同研究拠点に文部科学大臣から認定されています。この拠点事業では、医科研が、「先端医療研究開発」「ゲノム・癌・疾患システム」、「感染症・免疫」に区分した三つのコア共同研究領域を設定し、国外の大学・研究機関と国内の大学・研究機関を結ぶことで、多様な国際共同研究を創出・強化し、基礎研究では知の地平の拡張を、応用研究では医療イノベーションの創出を加速しています。さらに、ゲノム医療、ワクチン研究、感染症制御に関する三つの重点強化課題と附属病院の多様な臨床プロジェクトが、この国際共・共拠点事業を力強く強化、推進してきました。
 
この点では、皆様ご案内の通り、本国際共・共拠点事業は昨年度の期末評価で最高位のS評価を受け、今年度から、新たな更新認定を受けました。なお、概算要求の形式が、大学全体の組織改革事業の位置付けに変わりましたが、引き続き、附属病院の臨床プロジェクトとゲノム医療、ワクチン研究、感染症制御に関する重点強化課題の実践による当該拠点事業の強化、推進がなされています。
 
さらに、皆様のご尽力と、パンデミック対応の活動制限における段階的な緩和策を受けて、今年度採択の国際共同研究課題には、多くの国外研究機関が新たにご参加下さりました。
 
事実、国際共同研究課題の採択件数は、昨年度の25件から32件に増加し、その9割超が所外の国内機関と国際機関を医科研が結ぶ、当該国際拠点のミッションそのものの実現であり、その枠組みでの国際共同研究論文もしっかりと増加しています。この素晴らしい成果を誇りに思うと共に、岩間副所長を中心とする教職員の皆様のご尽力に、改めて、御礼申し上げます。
 
次に、この国際共同利用・共同研究拠点の推進力であり、医科研における臨床の担い手である医科研附属病院の強化について、この1年の進捗をご報告いたします。
 
まず、本年度は、先ほど申し上げました藤堂先生、田中先生の腫瘍溶解性ウイルス治療を基盤とする保険診療の開始と手術件数の増加や、国外からの健診・診療受け入れ事業の進捗がありました。そして、学内プロジェクトである白金本郷プロジェクトの全体収支が黒字化した点は有難い進捗と、関係各位に篤く、御礼申し上げます。また、先端緩和医療科への受入増も、コロナ禍の減弱後を見据えた病院強化にとって重要な進捗と、これも関係各位に深く、御礼申し上げます。皆様には、医科研が重視する実学の最前線を支える附属病院の研究力と経営力の強化について、医科研全体としてのご支援を引き続き、お願い申し上げます。
 
さて、本日はこれまで、パンデミックの話題に敢えて触れずにおりました。しかしながら、医科研病院は2020年の3月から、中等症以下の皆様を受け入れ、地域医療への多大な貢献を継続しておりますので、やはり、新型コロナウイルス感染症に対する医科研病院のご貢献に敬意を表し、最前線での対応にご尽力下さっている教職員の皆様に篤く御礼申し上げます。申すまでもなく、そのような皆様のご苦労に報いるためにも、医科研の皆様には、矜持をもって、基本的な感染拡大防止を履行すると共に、慎重に、失われた人的交流を取り戻すようお願い致します。
 
以上、国際共同利用・共同研究拠点と、それを支える病院と概算要求による重点強化課題について、概要をご紹介致しました。そこで、これも例年通りですが、国際共同利用・共同研究拠点と共に、我が国全体の生命科学を支える事業として医科研が進めている学術研究支援基盤形成事業、バイオバンク・ジャパン、そして橋渡し研究プログラム(東大拠点)についてお話し致します。
 
まずは、学術変革領域研究の「学術研究支援基盤形成」事業ですが、これは最先端の解析技術の研究を進めながら、我が国の「科研費による生命科学研究」を、その「最先端技術」によって支援する、重要、かつ特色ある事業です。また、その統括組織である生命科学連携推進協議会の代表を武川先生が、4つの支援プラットホームのうちの二つの代表を村上先生と武川先生が担当され、さらに、運営事務を担当する学術研究基盤支援室を所長オフィスに設置しており、武川先生が室長を、また、前代表の井上先生がアドバイザーを努めておいでです。加えて、醍醐先生、山田先生、真下先生をはじめ、医科研の教員・研究者11名の皆様が本支援事業に貢献されておいでです。
 
なお、既に、12,000件を超える研究を支援し、3,600報を越える論文として成果をあげていることからも、この事業の重要性がお分かりになると思います。それぞれ、この1年で、1,129件、227報もの支援件数、成果論文数が増加しており、極めて順調に実績を積み上げている状況です。この点、関係各位に篤く御礼申し上げます。
 
次にバイオバンク・ジャパンですが、これも昨年のご挨拶で申し上げた通り、世界最大規模の疾患バイオバンクとして、日本全体から収集した、良質の、極めて価値のあるDNA・血清試料を管理、分譲しています。本年度も、その価値の源泉である臨床情報の追加収集が、新たな自動収集システムの導入と共に推進され、昨年度完成したSNP情報に加えて、1万例のヒト全ゲノム解析や4万検体を超える血清メタボローム解析が進められています。これらの実績を基礎に、来年度開始予定の次期バイオバンク事業に対する申請手続きが進められています。
 
また、バイオバンク・ジャパン事業の実務につきましては、これまでと同様に、松田先生、村上先生、鎌谷先生、森崎先生、武藤先生、古川先生をはじめとする皆様が担当され、DNAや血清の分譲実績は増加の一途を辿っており、この1年でも、高いインパクトの学術雑誌に多くの成果論文が掲載され、重要な発見が次々と報告されています。この点、2023年度以降に予想される次期事業につきましても、皆様のご協力を引き続き、お願い申し上げます。
 
次に橋渡し研究プログラム(東大拠点)ですが、これはアカデミアのシーズを基礎研究から支援する事業であり、医学部附属病院と共に四柳先生、長村先生を中心に医科研病院が東京大学拠点における幅広い支援を担当しています。なお、令和4年度より、「橋渡し研究支援機関」として認定された当該拠点等の組織が橋渡し研究を支援する体制に移行致しましたが、もちろん、基礎研究のシーズから現実の医療としての実用化に至る全工程を一貫して支援する点に変更はありません。また、本プログラムについて、この1年間でシーズとしての発展、企業導出、臨床試験、治験、や保険診療への展開が極めて順調に進んでいます。つきましては、もし皆様ご自身の成果の中で、開発できる可能性を少しでもお感じのシーズがありましたら、是非、本プログラムへの御相談をお願いいたします。それが医科研発の世界的な予防法、治療法になる日を心待ちにいたします。
 
以上、国際共同利用・共同研究拠点事業と、それを支える重点強化課題、病院機能強化、並びに我国全体の生命科学研究に対する三つの支援事業についてご説明いたしました。
 
次に、医科研全体の機能強化に重要な共同利用施設の強化につきましては、施設長の真下先生や上原部長をはじめとする事務部の皆様のご尽力の下、奄美病害動物研究施設の改築とP3施設の整備が本年6月の完成を目指して進められています。また、岩間副所長が中心となって取り纏めてくださっている共同利用機器の整備では、落射型蛍光顕微鏡、原子間力顕微鏡や、様々なイメージングシステムなどの先端機器の導入が進められていますので、皆様には積極的なご利用をお願い申し上げます。
 
なお、これも医科研の機能強化に重要な研究環境の整備につきましては、3号館北側改修に続き、南側の耐震改修が進められ、東大本部と協力して進めている「白金台キャンパス土地有効利用プロジェクト」の実施も詰めの段階が迫っています。もちろん、4号館、動物センターの改修についても、喫緊の課題として、粘り強く要求して参ります。また、DXを支えるWeb環境の積極的な活用に資するUTokyo Wi-Fiの全所的な整備も進められています。この点、岩間副所長や、上原部長をはじめとする事務部の皆様、関係各位のご尽力に深く感謝申し上げます。
 
最後に、医科研の発展に重要な社会連携の強化につきましては、古川先生や上原部長をはじめとする事務部の皆様のご尽力の下で設置された「未来医療開発基金」の各研究課題に対する資金配分や更なる募集に向けたパンフレットの作成が実現し、また、三菱UFJファイナンシャルグループからの寄附金によるワクチン開発研究支援や病院・共同利用施設の支援も継続して行われています。この点、2023年度にワクチン開発研究支援の第2期の募集が予定されていることを申し添えます。皆様におかれましては、ぜひ、積極的な応募をご検討頂きたく存じます。
 
なお、既にご案内の通り、我が国の、ワクチン開発研究のフラッグシップ拠点が河岡先生を中心に既に始動しておりますが、これは、2年以上前に、河岡先生が中心となって医科研から本学本部に提出した未来構想である「パンデミックセンター」構想に根ざすものであり、医科研からプレスリリースが行われた数多くの新型コロナ研究成果等を基盤とするオール東大の全学拠点であることを大変誇らしく存じます。この点、医科研、特に感染・免疫グループの皆様のご尽力に深く、敬意を表します。
 
さらに、このようなパンデミック研究に限らず、医科研の人文社会学を含む多様な研究活動には、新たに長村先生をお迎えした部門長・グループ長の皆様、朴副病院長をお迎えした病院執行部の皆様、上原部長、高山研究支援課長、神病院課長をお迎えした事務部の皆様の力強い御協力があり、同じく、上原部長をお迎えした我々執行部も引き続き全力で、皆様の研究を支え続けます。
 
その上で、4年前の所長就任時に申し上げました通り、皆様それぞれが、知的好奇心に突き動かされて行う独創的な研究や技術開発こそが医科研にとって最も重要な使命ですので、この立場を共にし、これまで幾多の困難を共に乗り越えて下さった次期所長の中西先生が、この4月から、トップスピードで、中西先生ならではの施策を進めて頂けますよう、ラストスパートをかけながら、しっかりとバトンを渡します。中西先生が私心なく医科研の未来のために尽くされている姿を間近で見続けてきた者として、中西先生のリーダーシップの下での発展にご協力できる幸せを今から楽しみにしております。
 
以上、ご批判もあろうかと思いますが、残りの任期も、就任時にお約束した通り、皆様が持てる力を余すところなく発揮してくださるよう、全ての力を尽くしますので、ご協力の程、どうか、宜しくお願い申し上げます。
 
ご清聴、有難うございました。
 
東京大学医科学研究所 所長                                              山梨 裕司