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2022年 山梨裕司所長年頭挨拶


皆様、新年、明けましておめでとうございます。昨年のご挨拶の際は、新型コロナウイルス感染のいわゆる第3波の緊急事態宣言が発令された当日でしたが、今回も、残念ながら、第6波に突入したと言わざるをえない状況です。そのような折に、私の年頭のご挨拶に時間をお取り頂き、誠に有難く存じます。

さて、四柳先生、堤先生、古賀先生と感染制御チームの皆様のまとめによりますと、COVID-19による医科研病院での累積入院患者数は、2021年12月時点で累計570人以上となりました。第3波や第5波のピークを含め、一昨年の3月から、医科研病院の皆様が絶え間なくCOVID-19に罹患された皆様を受け入れていることが分かります。

医科研病院による地域医療、ひいては、その治療法・予防法開発を含めた我が国全体への貢献として、四柳病院長、長村検査部長、吉井看護部長、黒田薬剤部長、松井事務部長、堤先生、古賀先生、安達先生、齋藤先生をはじめとするCOVID-19対策チームと病院関係者の皆様に深く感謝申し上げます。また、申すまでもなく、決して広くはないキャンパスにおける受け入れに必要な様々な活動制限にご協力下さった全所員の皆様にも深く御礼申し上げます。

幸いなことに、昨年の10月から12月までは、ほぼ2年ぶりに受け入れがゼロに近い状態で、病院関係者の皆様も、少しだけ、穏やかな年末を過ごされたことと存じます。しかしながら、やはり、第6波の有無によらず、引き続き、感染拡大防止、特にマスク着用、対人距離、所謂ソーシャルディスタンスの確保と換気、手指洗浄、飲食を伴う会合の回避と、万が一の感染に備えての行動記録の管理を継続して下さるよう、お願い申し上げます。

もちろん、医科研は新型コロナウイルスに対して、所内での感染拡大防止と病院での診療に終始する組織ではありません。医科研での新型コロナ対策研究の中でプレスリリースが行われた成果だけを見ても、25件あります。

この点では、藤井総長が発表されたUTokyo Compass、本学が進むべき道を示す羅針盤ですが、そのPerspective 1-3、「卓越した学知の構築」の計画2、「社会課題に取り組む研究拠点の強化・構築」として「感染症対策・ワクチン開発に関する新たな研究拠点の構築」が明示されています。医科研の貢献が大きく期待されていますので、感染症・ワクチンに関する研究を進めておいでの皆様にはさらなるご尽力をお願い申し上げます。

さて、次は新年にふさわしい明るい話題ですが、医科研の未来を支える人事のご紹介です。まず、教授人事につきましては、癌・細胞増殖部門に幹細胞研究の世界的リーダーである西村栄美教授を東京医科歯科大学からお迎えしました。医科研の中核課題である腫瘍性疾患を含む加齢医学研究の推進力として大変心強く存じます。さらに、医科研病院でも、血液腫瘍内科をご担当頂く南谷泰仁教授を京都大学から、また、腫瘍・総合内科をご担当頂く朴成和教授を国立がんセンターから、それぞれお迎え致しました。朴先生は、医科研病院で外科を担当されている志田教授との密接な連携をがんセンターから継続しておられますので、南谷先生、藤堂先生との新たな連携を含め、医科研病院での、内科と外科が一体となったがん診療強化の基盤が形成されたものと考えております。西村先生、南谷先生、朴先生には、基礎・橋渡し・臨床研究を含む広範囲のご活躍をお願い申し上げます。

他方、喫緊の、今そこにある重要課題を担う社会連携研究部門には国際的なゲノム研究のリーダーである鈴木亨特任教授をレスター大学からお迎えし、ヘルスケア領域を含むゲノム研究をご担当頂いております。また、医科研病院での移植医療を含むゲノム研究を高橋聡(さとし)特任教授に昇任の形でご担当頂いております。両先生には、医科研の中核課題であるゲノム研究の新たな推進力としてのご活躍をお願い申し上げます。

さらに、がん診療を含む医科研病院の機能強化の一環として、放射線科に赤井准教授を、また、先端医療研究センターに小沼准教授をお迎えし、RNA、ゲノム、幹細胞研究強化の一環として松尾准教授、片山准教授、谷水准教授、難波准教授をお迎えしております。加えて、短期ではありましたが、医科研病院での免疫・アレルギー疾患の診療をご担当頂く吉川特任准教授をお迎えし、また、細胞・組織医療の開発研究をご担当頂く小林特任准教授をお迎えしておりますので、医科研の基礎・橋渡し・臨床の総合力は着実に強化されているとご理解くださるようお願いいたします。

一方で、医科研としては大きな痛手ではありますが、感染症研究、血液腫瘍研究、免疫・アレルギー疾患研究の第一人者である河岡先生、東條先生、田中先生が昨年の3月に、定年にて退職されました。しかしながら、河岡先生は医科研の特任教授として、現下のパンデミック対策の最前線でご活躍ですし、東條先生は東京医科歯科大学の研究担当副理事・副学長として大学全体の舵取りにご活躍です。また、田中先生は慶應義塾大学の特別招聘教授としてさらなる研究にご活躍です。

感染症研究をはじめ、医科研の多様な研究や臨床、組織運営につきまして、これからも、大所高所からのご指導を頂けるものと、考えております。

また、多くの准教授の先生方や特任教員の先生方も、昇任や新たな研究室の始動のために異動されておいでです。医科研にとっては痛手ですが、我が国の研究力向上に貢献していることの証左でもありますので、皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

次に、研究活動の指標の一つである英文査読付論文数の推移ですが、昨年と同じく、直近の6年間では安定して500報前後となっています。また、インパクトファクター10以上の雑誌に掲載された論文の割合も15%前後で推移していますが、感染拡大防止のための活動制限にも関わらず、2020年度は直近6年間での最高値でしたし、教員一人あたりの発表論文数も上昇傾向を取り戻しています。病院、事務部の皆様を含めた所全体のご尽力の賜物と御礼申し上げます。この勢いを削がぬよう、新たにお迎えした先生方を含めた研究力の向上に引き続き、注力いたします。

また、研究力のもう一つの指標でもある外部資金の推移につきましては、2019年度までの傾向と少し異なり、獲得額の増加と獲得件数の減少、つまり、予算の大型化、特に受託研究費の大型化の推移が見て取れます。全体としては歓迎すべきことと皆様のご活躍に深く感謝申し上げますが、医科研の未来にとって重要な、地道な基礎研究への影響を注視しながら、就任時にお約束した基礎・橋渡し・臨床研究のバランスの良い発展を目指してまいります。

研究成果を讃える公的な受賞実績につきましては、渋谷教授、西村教授、秦専門員が文部科学大臣表彰を、笹川名誉教授が瑞宝中綬章を、川口教授が野口英世記念医学賞をそれぞれに受賞されておいでです。加えて、中村名誉教授が文化功労者をお受けになられ、井元教授が代表を努めておいでのMass Gathering Risk Control and Communicationが日本リスク学会のグッドプラクティス賞を、医科研病院の技師長を努められた鳥内様が瑞宝双光章を受賞されました。ほかにも古川副所長のご尽力の下、今年度から創設された医科学研究所奨励賞を佐藤准教授が受賞され、新型コロナウイルス研究等にご活躍であることは特筆すべきことと存じます。皆様の業績に敬意を表すると共に、心よりお祝い申し上げます。

教員人事と論文発表、研究費、受賞についてお話し致しましたが、昨年も申し上げました通り、医科研は、創立者である北里柴三郎先生の三つの理念、「実学」、「包括的研究」、「予防」の重視、をしっかりと受け継ぎ、医科研が誇る、多様な人材と学際的な研究、そして、独自のスパコンとプロジェクト型病院を擁する強みを生かし、膨大で複雑な情報とAIを活用する自由な基礎・橋渡し・臨床研究をバランス良く進めることで、これからも未来医療を実現する医科学研究を進めていかねばなりません。この点、皆様のご活躍とご協力を引き続き、お願い申し上げます。

さて、これも例年通りですが、我が国と世界の医科学を支える国際共同利用・共同研究拠点としての医科研についてお話し致します。

ご存知の通り、医科研は、2018年11月に「基礎・応用医科学の推進と先端医療の実現を目指した医科学国際共同研究拠点」として、生命科学系では唯一の国際共同利用・共同研究拠点に、文部科学大臣から認定されています。医科研が、3つのコアとなる共同研究領域を通じて、国外の大学・研究機関と国内の大学・研究機関をつなぐことで、多様な国際共同研究を強化し、基礎研究では知の地平の拡張を、応用研究では医療イノベーションの創出を加速するものです。

事実、数多くの海外研究機関と国内研究機関の共同研究を医科研が拠点として支援しております。しかし、残念ながら、新型コロナウイルスでの活動制限などの影響を受け、今年度の国際共同研究の採択件数は少しだけ減少しておりますが、それにも関わらず、医科研以外の国内他機関を含む国際共同研究の割合は昨年度よりも増加しています。また、国際共著論文数も、2020年度では明らかな増加を示しています。さらに、来年度の国際共同研究の応募件数は35件に増加したと聞いておりますので、いわゆるウィズコロナでの国際共同研究の強化が間違いなく実現できると考えております。

なお、医科研の国際共同利用・共同研究拠点事業は今年度が第1期の最終年度でしたが、その期末評価において最高区分のS評価を受けることができました。中間評価でのS評価を維持することができましたことは皆様のご尽力の賜物と、重ねて御礼申し上げます。

また、この評価コメントでは、医科研が提供する施設・資料の共同利用と医科研病院との連携が特筆されていますが、同じく当該拠点事業に必須の機能強化プロジェクトとして、一昨年、昨年に始動した井元先生、石井先生が率いる新次元ゲノム医療研究と新次元ワクチン研究プロジェクトに加え、川口先生が率いる感染症研究教育拠点連合による感染症制御プロジェクトの重要性をお認め頂き、現在財務省への概算要求中であることを嬉しく思います。まだ確定ではありませんが、来年度からは、病院を含めた、これら4局との連携による国際拠点事業の強化に努めたく存じます。引き続き、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

また、その4本柱のひとつである医科研病院につきましては、昨年、東條先生にこれらの強化項目を挙げて頂きましたが、四柳病院長からは、東大本部、医学部附属病院との連携で推進している白金・本郷プロジェクトと連携する取組みとして、先端緩和医療科の設置による、腫瘍・総合内科との緊密な連携の下での「緩和ケア診療」の推進に必要な組織整備、外科の志田先生と泌尿器科の久米先生、高橋先生による手術件数の大幅な増加、さらには、理学療法士の皆様による「入院リハビリの件数の増加」が実現されているとのご報告を受けております。医科研附属病院の機能強化に向け、皆様には、引き続き、ご協力をお願い申し上げます。

さて、次に、国際共同利用・共同研究拠点と共に、我が国全体の生命科学を支える事業として、医科研は学術研究支援基盤形成事業、バイオバンク・ジャパン、そして橋渡し研究戦略的推進プログラムの中核拠点として活動しておりますので、それぞれについてお話しいたします。

まずは、新学術領域研究の「学術研究支援基盤形成」事業ですが、これは最先端の解析技術の研究を進めながら、我が国の「科研費による生命科学研究」を、その「最先端技術」により支援する、重要、かつ特色ある事業です。また、その統括組織である生命科学連携推進協議会の代表を井上先生が、4つの支援プラットホームのうちの二つの代表を村上先生と井上先生が担当され、また、運営事務を担当する学術研究基盤支援室を医科研の所長オフィスに設置しており、井上先生が室長を、武川先生が副室長を努めておいでです。さらに、醍醐先生、山田先生、真下先生をはじめ、医科研の13名の先生方が本支援事業に貢献されておられます。

既に、5,000に迫る研究課題を支援し、3,000報を越える論文として成果をあげていることからも、この事業の重要性がお分かりになると思いますが、それぞれ、この1年で、863課題、783報もの支援数、成果論文数が増加しており、極めて順調に実績を積み上げている状況です。この点、関係各位に篤く御礼申し上げます。

なお、事業は今年度が最終年度であり、生理研、基生研、遺伝研など、各連携中核機関の合意の下で、武川先生を代表とする次期事業の申請中と伺っておりますので、採択された暁には、引き続き、皆様のご協力をお願い申し上げます。

次にバイオバンク・ジャパンですが、これも昨年のご挨拶で申し上げた通り、世界最大規模の疾患バイオバンクとして、日本全体から収集した、良質の、極めて価値のある試料を管理、分譲しています。現在、その価値の源泉、源(みなもと)である臨床情報の追加収集が新たな自動収集システムの導入と共に推進され、また、2015年に実施された18万3,000例のSNP解析の際に残った8万例のSNP解析を完了いたしました。

6,000例のヒト全ゲノム解析や少なくとも20,000検体の血清メタボローム解析が進められています。申すまでもなく、これらの事業は2023年度の始動が期待される第5期事業に向けての新たな挑戦でもあります。

さらに、松田先生、村上先生、鎌谷先生、森崎先生、武藤先生、古川先生をはじめとする皆様のご尽力によって、DNAや血清の分譲実績は増加の一途を辿っており、これらの論文に代表される大きな成果が次々と報告されています。2023年度以降に予想される次期事業を含め、皆様のご協力をお願い申し上げます。

次に橋渡し研究戦略的推進プログラム(東大拠点)ですが、これはアカデミアのシーズを基礎研究から支援する事業で、医学部附属病院と共に長村先生、四柳先生を中心に医科研病院が東京大学拠点における幅広い支援を担当しています。

なお、2022年度より、「橋渡し研究支援機関」として認定された大学等の組織が橋渡し研究を支援する体制に変わる予定ですが、基礎研究のシーズから現実の医療としての実用化に至る全工程を一貫して支援する点には全く変更はありません。シーズとしての発展、企業導出、臨床試験、治験、による保険診療への展開が極めて順調に進んでいることが分かります。

特に、この1年だけでも、黄色背景で強調した進展があり、最先端を走る藤堂先生の腫瘍溶解性ウイルス治療は現実の保険診療が医科研病院で実施されている状況です。

また、重複いたしますが、人類で初めて実施されるFirst in Human試験にまで進んだ開発研究でも、この1年で、黄色背景で示した進捗がありました。この点、もし皆様ご自身の成果の中で、開発できる可能性を少しでもお感じのシーズがありましたら、是非、当該事業への御相談をお願いいたします。それが医科研発の世界的な予防法、治療法になる日を心待ちにいたします。

さらに、医科研の機能強化に重要な共同利用施設の強化につきましては、補正予算に基づく奄美病害動物研究施設の整備と様々な設備の拡充が真下先生を中心として進められています。また、長村先生が中心となって新設された細胞プロセッシング施設は既に稼働中であり、その製品の社会実装に必要な製造所としての許可を申請しております。さらに、岩間副所長が中心となって取り纏めてくださっている多様な財源による共同利用機器の整備では、IVIS、CT、AFM/原子間力顕微鏡、Flow Cytometryの新規導入がなされていますので、皆様には積極的なご利用をお願い申し上げます。

医科研の機能強化に重要な研究環境の整備につきましては、3号館北側改修の実施に加え、南側改修計画を含む補正予算の成立し、東大本部と協力して進めている「白金台キャンパス土地有効利用プロジェクト」が進められておりますし、合同ラボ棟改修等の補正予算も成立いたしました。この点、岩間副所長や、松井部長をはじめとする事務部の皆様、関係各位のご尽力に深く感謝申し上げます。

最後に、医科研の発展に重要な社会連携の強化につきましては、同窓会活動や広報活動の拡充、三菱UFJファイナンシャルグループからの寄附金によるワクチン開発研究支援や病院・共同利用施設支援などが古川副所長、中西副所長をはじめとする皆様のご尽力で実現しております。一例として、ワクチン開発支援の対象となった研究リストをお示しいたしますが、当該支援の第2期の募集を来年に予定しておりますので、皆様におかれましては、ぜひ、積極的なご応募をご検討頂きたく存じます。

こうしてみますと、やはり、医科研にとって最も大切なことは、「個々の研究者や医療者が、それぞれの知的好奇心に突き動かされて行う、独創的な研究や技術開発」にあります。
皆様におかれましては、医科研の素晴らしい環境の中で、冒頭に申し上げました「膨大で複雑な情報とAIを活用する自由な基礎・橋渡し・臨床研究」を力強く、また、バランス良く進めてくださるよう重ねてお願い申し上げます。

皆様の研究活動には、新たに川口先生をお迎えした部門長の皆様、四柳病院長、長村副病院長をお迎えした病院執行部の皆様、末武管理課長をお迎えした事務部の皆様の力強い御協力があり、四柳先生をお迎えした我々執行部も引き続き全力で、皆様の研究を支え続ける所存です。 

ご批判もあろうかと思いますが、本年も、就任時にお約束した通り、皆様が持てる力を余すところなく発揮してくださるよう、全ての力を尽くしますので、ご協力の程、どうか、宜しくお願い申し上げます。
 
ご静聴、有難うございました。 



                                      東京大学医科学研究所 所長
                                              山梨 裕司