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2015年 清野宏所長新年挨拶

2015年 清野宏所長新年挨拶

2015年01月06日

皆さん、新年明けましておめでとうございます。

年末年始は皆さんご家族やご友人の方々と過ごされ、充分にリフレッシュされたことと思います。そしてそれぞれが新年の抱負を心に抱き、気持ちも新たに医科学研究所(医科研)に戻って来られたことと思います。これから始まる新しい一年が、皆さんにとって益々ご活躍頂く一年となりますことを心よりお祈り申し上げます。

さて私が所長に就任してから3年9か月が過ぎました。この間、現執行部はIMSUT One to Gogoプロジェクトを提唱し、皆さんのご理解とご協力を賜りながら、ひたすらに努力を重ねて参りました。本年3月末で、我々現執行部の任期が満了し、4月からは村上新所長の下で、医科研の新しい躍動が始まります。また、私が所長として皆さんに直接お話する機会が限られていますので、今日は新年のご挨拶ではありますが、IMSUT One to Gogoプロジェクトを通して、何が実現できて、何が課題として残ったか、振り返る絶好の機会と思います。

まずは、この4年間の執行部メンバーからご紹介いたします。ラテン系所長の下で、ご一緒にご尽力頂き、支えて頂いた副所長をご紹介したいと思います。経理系副所長は三宅健介先生、総務系副所長は村上善則先生です。附属病院長は、2011年度から2013年度までは今井浩三先生、2014年度からは小澤敬也先生です。日々の運営・管理には事務の方々の献身的努力なくしてはあり得ません。事務部長として最初の2年は諸田清氏、そして後半は現在の紺野喜久恵部長にご活躍頂いています。

次に、我々執行部と一緒に所の運営・管理にご協力頂いた部門長会メンバーをご紹介いたします。ヒトゲノム解析センターは2013年度までの代行期間を含め4年間を通して宮野悟先生、基礎医科学部門は2012年度まで齋藤春雄先生で、2013年度から真鍋俊也先生、癌・細胞増殖部門は2013年度まで井上純一郎先生で、2014年度は山梨裕司先生、感染・免疫部門は4年間を通して伊庭英夫先生、先端医療研究センターは2011年度までは森本幾夫先生、2012年度からは東條有伸先生、システム疾患モデル研究センターは2011年度まで岩倉洋一郎先生、2012年度からは吉田進昭先生です。部門長会の先生方には、ご自身の研究、診療、人材育成等でお忙しい中、部門長・センター長として、ご協力・ご尽力頂きました事、この場を借りて感謝申し上げます。

新執行部立ち上げ後、最初に行ったのは、医科研の体制づくりと将来構想を練るための4つの議論の場を立ち上げることでした。一つ目は、研究所と病院のそれぞれの将来構想について、執行部だけでなく所全体から意見を出して話し合う場とするために、基礎系のワーキンググループ(WG)と臨床系のWGをそれぞれ立ち上げました。二つ目として、このWGでの話し合いと同時進行で、教授会リトリートで教授会メンバーの先生方に、膝を交えて将来構想や課題に関する意見交換をして頂きました。このWGや教授会リトリートで頂いた貴重なご意見は、執行部の方針に取り入れながら進めて参りました。3つ目は、外部資金の効率的な導入を図るために、医科研財団(仮称)の設立を目指したWGで、これは現在も継続して活動しています。このWGの成果の一つに、基金の設立があります。この「IMSUT One to Gogo基金」は、医科研が2017年に創立125周年、改組から50周年を迎えるにあたり、世界の頂点に立つ医科学研究機関を目指した諸事業のための基金です。2014年1月に設立し、広く寄附を募集中です。この基金をもとに、グローバルな人材育成、世界の最先端を目指す研究環境の整備、また国際共同研究や人材交流などを目的とした事業を実施する予定です。4つ目は、プラチナウエスト再開発に向けてのWGです。現在、プラチナウエスト再開発構想を可視化した3D模型の作製中で、今年度中に完成し、皆さんにお披露目できればと考えております。

また、研究者のサポート体制を強化するため、事務部のご尽力により、体制を見直しました。2012年4月に、従来は総務課と経理課の二課体制であったものを、管理課、研究支援課、病院課の三課体制とし、所内のワンストップサービスの向上に努めました。これについては、3年間の経過を経て、皆さんのご意見を伺うアンケートを行い、さらなる向上に努めていく予定です。さらに、所長直轄の所長オフィスの中の所長企画室を、プロジェクトコーディネーター室(PC室)に組織替えして設置いたしました。所全体で取り組む大型プロジェクトやイベントの際には、執行部の方針のもと、事務部と協力して業務を実施する体制を構築しました。教員と事務部をつなぎ、執行部の指示に俊敏・柔軟に対応できる組織として機能しています。

これから、現執行部が担当し皆さんと一緒に積み上げた4年間の実績を振り返ってみたいと思います。

まず、皆さんのご努力が反映される発表論文数ですが、今年度のデータはまだ出ておりませんので、2011年度から2013年度までのデータをご紹介いたします。2011年度:発表論文総数633本、内インパクトファクター10.0以上51本、2012年度:発表論文総数576本、内インパクトファクター10.0以上68本、2013年度:発表論文総数482本、内インパクトファクター10.0以上62本となっています。国の方針による大学教職員定員削減による教員数の減少等があり、全体として総発表論文数は減少傾向ではありますが、インパクトファクター10.0以上の論文の比率は逆に上昇しており、2013年度は約13%に達しています。これは非常に質の高い論文が増えているということであり、素晴らしい業績だと思います。是非ともこのまま高いレベルを維持しつつも、国際的に評価の高いジャーナルへの論文発表を増やし、世界の医科学発展に貢献して頂きたいと思います。ここ数年で教授陣の大幅な世代交代があり、教授会、教授総会メンバーに優秀な若手研究者が加わってきましたので、今後着実に論文数が伸びていくことが期待されます。

次に、この4年間の特別経費と外部資金の獲得状況をご紹介いたします。
概算要求では、2011年度に「粘膜ワクチン戦略的開発の推進」が採択され、国際粘膜ワクチン開発研究センターを立ち上げることができました。2013年度に「革新的抗体・ワクチン臨床試験実施のためのFirst in Man専門職連携・人材育成事業」が採択され、医科研病院内に抗体・ワクチンセンターを立ち上げることができました。また、近々に「革新的医療と疾患予防を目指す国際ゲノム医科学研究機構形成」が始動いたします。これは、医科研の所員の皆さんの努力と協力により達成できた事です。そのおかげで、二つの新しいセンターと大学全体の全学機構の立ち上げに繋がりました。

研究所として申請した研究と人材育成に向けた各種事業についても、この3年間は安定した形で外部資金(平均、約5億円)として獲得する事ができています。これもひとえに、担当教員そして事務部とPC室の皆さんの協力体制でなしえた事です。医科研が一丸となって進むことの重要性を反映しています。

外部資金としましては、文科省、JSPS、JSTを始めとする科研費、受託研究費、共同研究費、寄附金等がありますが、2011年度から伸び続け、2013年度実績では総額約70億円に達しています。研究用外部資金獲得が難しい状況の中で、医科研の皆さんの日々の努力と協力による成果です。これも医科研全体がベクトルを合わせて日々努力している姿の表れであり、皆さんに感謝いたします。

2004年の東京大学の法人化に伴い、政府からの運営費交付金額は毎年減少の一途を辿っています。そのため、それ以外での積極的な運営費及び研究費の獲得が非常に重要となっており、我々は引き続きこのような外部資金獲得にも全員の力を注いで行かなければなりません。

また、運営費交付金が削減されるだけでなく、教職員の定員削減も続いています。教育・研究の質を確保し、戦略的に研究を進めるためには、必要な人材確保に努めなければなりません。ここで、2011年度から2014年度の教員再配分の獲得状況についてご紹介いたします。「臨床抗体・ワクチン治療学の研究と診療」で2012年度より教授1を、「医科研病院における非MD系TR人材育成による先端医療の飛躍的展開」で2013年度より准教授1を新規に獲得いたしました。また、2014年度から使用できる枠として、「ビッグデータ統合型疾患予知・予防システム構築のための国際的人材育成」で教授1、助教等1を獲得済みであります。医科研として一致団結している姿勢を学内外に向かって示すことが、外部資金や教員再配分ポストを獲得するためには大切な環境です。その点からも、引き続き皆さんのご協力をよろしくお願いいたします。

研究を展開していく上で新たに生まれた目標やミッションを達成するためには、資金、人材が不可欠ですが、新たな組織を立ち上げることが目標への近道である場合もあります。ミッション達成のための組織として、2011年に国際粘膜ワクチン開発研究センターを設置しました。また、2012年には病院内に抗体・ワクチンセンターを設置し、2014年には、TR・治験センターを組織改変しました。さらに、遺伝子・細胞治療センターも2014年に立ち上げました。これらの新しい組織は、Bench-to-Bedside/Bedside-to-Benchサイエンス(BB2 Science)の強化に大いに貢献すると期待しております。

この4年間は人事面でも数々の昇任や外部からの新規雇用があり、医科研に新風が吹き込みました。2011年度には藤堂具紀先生を先端がん治療分野の教授にお迎えし、川口寧先生がウイルス病態制御分野の教授に、長村文孝先生が先端医療開発推進分野の教授に昇任されました。2012年度には、武川睦寛先生を分子シグナル制御分野の教授に、長谷耕二先生と植松智先生を国際粘膜ワクチン開発研究センターの特任教授にお迎えし、田中廣壽先生が抗体・ワクチンセンターの教授に、武藤香織先生が公共政策研究分野の教授に昇任されました。2013年度には、醍醐弥太郎先生を抗体・ワクチンセンターの特任教授に、山下誠先生をウイルス感染分野の特任教授にお迎えしました。2014年度には、小澤敬也先生を病院長に、柴田龍弘先生をゲノム医科学分野の教授にお迎えしました。今後ますますのご活躍とIMSUT One to Gogoへの貢献を期待しております。

また近年は、革新的な予防・治療法開発に向けての学理形成や具体的な開発に向けて、理念とミッションを共有する企業との連携の形態として、社会連携研究部門を立ち上げることを推進して参りました。この4年間に新規で立ち上がった社会連携研究部門は5つあります。「RNA医科学」社会連携研究部門、「細菌感染生物学」社会連携研究部門、「システム免疫学」社会連携研究部門、「先端的再生医療」社会連携研究部門、「国際先端医療」社会連携研究部門です。2015年4月には、「ALA先端医療学」社会連携研究部門も立ち上がる予定です。つまり、合計6つの社会連携研究部門を皆さんのご協力で立ち上げる事ができました。教員の定数削減が続く中で、研究所・病院における人材育成と研究活性化を考えても、社会連携研究部門は重要な役割を果たしています。学術と社会の発展と医科研における最先端研究と人材育成の進展・充実を図るため、それぞれのミッションに向けての活動を期待いたします。

さらに、この4年間は国際交流基盤・ネットワークの拡大と地域連携の強化という点でも大きな進展がありました。2012年8月8日には、公益財団法人微生物化学研究会との間に連携・協力の推進に係る覚書を交わしました。同年10月3日にキックオフ・シンポジウムを開催した他、この覚書の枠で既に所内で2つの共同研究が進行しています。2013年7月2日には、沖縄科学技術大学院大学(OIST)との学術交流協定を締結しました。2014年8月22日には、この協定に基づいて "OIST-IMSUT Student Exchange Event 2014"が医科研で開催されました。2013年7月30日には、港区との連携協力に関する基本協定を交わしました。港区医師会と連携して市民医療懇談会を開催している他、区内の中学校でわかりやすい医科学の出前授業を行うなど、地域社会への貢献に努めています。国際交流協定は、2011年11月15日に中国の中山大学と、2013年7月14日にバーレーンのアラビア湾岸諸国立大学と、2013年9月26日に韓国の順天郷大学校と、2014年6月4日にシカゴ大学医学部と新規に締結しています。これにより、医科研の国際的な学術・研究交流の範囲や可能性が大幅に拡大したと言えます。また現在、東京大学NYオフィスを生産技術研究所と共同で開設するべく、本格的な準備が進んでいます。医科研のグローバル化に向けて、国際共同研究を視野に入れた国際シンポジウムの開催、教職員および大学院学生のための学術・研究交流プログラムの立ち上げなども計画しています。今後も、米国、ヨーロッパ、アジアのトップクラスの研究機関や企業との連携強化を期待しています。

次に、医科研が人材育成の面でアカデミアに貢献している実績として、この4年間に他機関に教授、部長としてご栄転された10名の先生方をここでご紹介いたします。長崎正朗先生が東北大学東北メディカル・メガバンク機構ゲノム解析部門の教授に、藤井毅先生が東京医科大学八王子医療センターの教授に、後藤明輝先生が秋田大学医学系研究科の教授に、江藤浩之先生が京都大学iPS細胞研究所の教授に、後藤典子先生が金沢大学がん進展制御研究所の教授に、國澤純先生が独立行政法人医薬基盤研究所のプロジェクトリーダーに、長谷耕二先生が慶應義塾大学薬学部の教授に、赤司祥子先生が愛知医科大学医学部感染・免疫学講座の教授に、越川直彦先生が神奈川県立がんセンター臨床研究所がん生物学部の部長に、植松智先生が千葉大学大学院医学研究院・医学部の教授に、それぞれご栄転されました。また、合計数でお示ししますと、PIを含めて医科研から他研究機関の教員等へ転出された研究者の方々は、2011年度に10名、2012年度に5名、2013年度に5名、2014年度の現時点までで2名となっています。この場にいる若手研究者の方々にも、是非、これらの先生方の後に続いて、医科研・医科研病院で得た知識と経験を基に国内の他機関、さらには世界に羽ばたいて活躍していって頂きたいと願っております。

今、この4年間を振り返ってみますと、様々なことがあったと感慨深く思い出されます。教授会リトリートでは、医科研教授会メンバーがいつもの病院8階の会議室を離れ、自然豊かな研修施設で寝食を共にしながら将来構想を語り合いました。病院の患者さんのために開催されたN響室内楽コンサートでは、研究の手を一時休めて、芸術に心が洗わる時間を持つことができました。2011年12月13日と2013年12月17日には、普段は本郷キャンパスで開催されている科所長会議が医科研で開催され、これまでに白金台キャンパスを訪問されたことが無い研究科長・学部長の先生方に医科研を紹介することができました。2014年7月18日には、プレジデンツカウンシルが医科研で開催され、タイのチュラポーン王女をはじめとする国内外の著名な方々が来所されるという名誉な機会もありました。また、東大内で初の試みである敷地内全面禁煙化を2012年10月1日に実施しました。喫煙者の方の禁煙をサポートするため、病院のご協力を得て、禁煙外来を同年5月から開始しています。このような各種医科研イベントの成功は、今日お集まりの所員の皆さんのご理解とご協力の賜物です。特に事務部職員とPC室メンバーの皆さんのご尽力にはこの場を借りて感謝申し上げます。

私は、来る3月末で所長職を離れる身でありますが、皆さんに最後のお願いがあります。
ご存知の様に昨年の4月にIMSUT One to Gogo基金が立ち上がりました。2017年には伝染病研究所として創立されてから125周年、そして現在の医科研に改組されてから50周年の節目の年を迎えます。その事業の一環として非常に重要ですので、医科研が世界のナンバーワン研究所になるためにも、皆さんのIMSUT One to Gogo基金へのご協力をお願い申し上げます。

最初にご紹介したように、4月からは村上先生が所長に就任され新執行部が躍動します。村上先生のリーダーシップの下、医科研が新たなフェーズへとIMSUT One to Gogoが展開し飛躍していくことを期待しております。そのためには、引き続きTEAM IMSUT そしてIMSUT Family Member としての皆さんのご理解とご協力が必要です。どうぞよろしくお願いいたします。

IMSUT One to Gogoの中で、白金台キャンパスを先端医療開発国際特区にする計画も進んでいます。その中核をなす病院では、今後10年を見据えた次世代型のプロジェクト病院、TR病院としてあるべき姿を描き、それに沿った機能強化を図るべく、病院の教職員が一丸となって準備を始めています。現在の先進的医療は多職種間連携が必須ですが、医科研病院には職位・職域を超えたフラットな意見交換と交流ができる環境があります。それを使った病院全体での機能強化案作成とその実施に向けて、引き続き努力をお願いします。もちろん、所としても積極的にその過程に関与し、病院を盛り上げ、世界のプロジェクト病院・TR病院として輝く事を目指して参ります。

現執行部での活動は残すところあと3ヶ月を切りました。今日お集まりの教員と病院の先生方、ポスドク、大学院学生、技術職員、病院スタッフ、事務職員の皆さん、Team IMSUT/IMSUT Familyとして、当研究所と病院の進化・発展に向けて、4年間ご協力頂き誠にありがとうございました。IMSUT One to Gogoの旗印の下、皆さんのこれまでのご尽力・ご貢献に改めて心より感謝申し上げます。

2015年が皆さんにとって健康で実り多き1年でありますよう祈念いたしまして、新年のご挨拶にかえさせて頂きます。


東京大学医科学研究所 所長
清野 宏