研究課題

1 異種動物体内でのヒト細胞・臓器の作製

iPS細胞作成技術の発見は患者自身の幹細胞による再生医療を可能にしました。しかし多能性幹細胞から分化誘導した細胞による細胞治療の実用化は未だ多くの課題が残されています。特に、細胞が未成熟なために機能性が不十分なことと、高額なコストが問題です。また試験管内で臓器を作ることも困難であり、毎日多くの患者さんが移植臓器を待ちながら亡くなられているのが現状です。これらの問題を解決するために、我々は動物生体環境を利用した臓器・細胞の作成を試みています。例えば我々は多能性幹細胞を動物体内でテラトーマとして自律的に発生させることで機能的なヒト造血幹細胞を誘導できることを発見しました。さらに、特定の臓器を形成できないよう遺伝子改変した動物胚に多能性幹細胞を移植することで、移植した多能性幹細胞由来の臓器を形成できることを示しました。本法はマウス-ラットという異種間でも適用できること、ヒト臓器作製のホスト動物として有望なブタ胚にも適用できることを報告しており、世界的な注目を集めています。最先端の発生工学技術、幹細胞制御技術等を導入しながらこの方法を発展させることで、将来的には動物体内で低コストかつ機能的で移植可能なヒト臓器・細胞が作製できると考えています。

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「動物性集合胚とは?」
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1673_01.pdf

2 造血幹細胞の基礎研究と遺伝子細胞治療への応用

造血幹細胞移植は重篤な血液疾患に対する有効な治療法です。しかし組織適合性の一致が必要であることからドナー細胞の不足が問題となっています。また移植の際の前処置として行われる放射線照射の強い副作用は造血幹細胞移植の最大の問題であり、高齢者や重篤な自己免疫疾患等への適応の幅を狭めています。このような状況下において、造血幹細胞を生体内外で増幅する方法の開発や、より安全な造血幹細胞移植法の開発が全世界的に望まれています。
我々はこれまでに多くの独創的な新技術を開発し、造血幹細胞研究に貢献してきました。造血幹細胞の純化方法を確立し、一個の造血幹細胞による移植法を確立することにより骨髄内に存在する造血幹細胞の未分化性維持シグナルや血液系細胞の新規分化経路等を明らかにしてきました。また、造血幹細胞が未分化能を維持しながら自己複製できる環境を提供する骨髄ニッチの同定や、生体内のアミノ酸濃度を人為的にコントロールすることで造血幹細胞の機能制御を可能にすることにより、移植の際の前処置を大幅に軽減できることを示しました。このような基礎研究の積み重ねから世界に先駆けてiPS細胞から移植可能な造血幹細胞の誘導にも成功しています。さらに造血幹細胞を制御する因子を複数同定しており、その中には造血幹細胞を増幅する候補因子も含まれています。今後は造血幹細胞の増殖培養系と、近年急速に進歩しつつある遺伝子技術もとり入れ、様々な血液疾患に対する全く新しい遺伝子細胞治療法の開発を目指しています。

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http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/saisei/

3 iPS細胞技術を利用した新しい免疫療法の開発

我々は2013年に抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)からiPS細胞を樹立し(T-iPS)、そのT-iPSから再び抗原特異的CTLを再分化誘導することに成功しています。誘導されたiPS細胞由来CTLは、もとの末梢血由来CTLに比較し、非常に強い増殖力とテロメア長の伸展を認め、T細胞機能の若返りを認めました。また2015年にはマウスモデルで、iPS細胞由来EBウイルス特異的CTLが実際にEBウイルス感染腫瘍を効率よく縮小させることが確認できたため、現在順天堂大学と共同で医師主導型臨床研究の準備を進めています。更に安全性を確保するために、副作用発現時にはその症状を消失できるよう自殺遺伝子iCaspase9による細胞死誘導システムを導入していることものがすぐれた特徴のひとつです。です。ひとたびT-iPSにしてしまうと、いくらでも増やして若返りCTLを作成することができるので、腫瘍が無くなるまで投与できますし、将来的にいろいろな腫瘍やウイルスに対応するCTLをバンク化することも可能です。このように、これまでのCTL療法やCAR−T細胞療法とは全く異なる、有効でかつ安全な新規免疫療法を実際の治療に用いることができるよう、日々研究開発を進めています。