東京大学医科学研究所
遺伝子解析施設


Laboratory of Molecular Genetics
The Institute of Medical Science
The University of Tokyo

遺伝子解析施設で進行中の研究

1.CRISPR/Cas9の新しいシステムの開発およびSRISPRアデノウイルスベクターの作製と供給

Cas9による標的20塩基が指定する切断は必ずしも正確ではなく(off-target)、それを解決するためには片方の鎖だけを切るnickCas9と2個のguide発現ユニットの同時発現が必要です。
また1カ所の切断では一部のDNAは再結合して元に戻ってしまうため、2カ所の同時切断を行えば標的遺伝子は欠失し確実に破壊されます。すなわち理想的には異なる標的guide RNAを4個同時に発現させる必要があります。しかし異なる標的guide RNAを発現するユニットは標的20塩基以外が相同であるため、複数(3個以上)連結したplasmidの作製は大腸菌内の相同組換えによる欠失する欠失のため困難でした。
当研究室では異なるguide発現ユニットを多重(4個および8個)もつplasmidを安定かつ大量に調製できる方法を開発し(「guideユニット多重連結法」;2015年12月特許出願済)、共同研究として供給を行っています。
また多重ユニットを最大6個持つアデノウイルスベクター、およびCas9を高度に発現するアデノウイルスベクターの作製に成功しました。アデノウイルスベクターでの成功はoff-targetの問題が解決されたknock-inによる遺伝子改変や修復がin vivo(動物実験や遺伝子治療)でできる可能性を示しています。
現在、遺伝病遺伝子の修復、効率的knock-inなどの共同研究を進めるとともに、新しいCRISPR/Cas9の技術開発と応用を行っています。

2.B型肝炎ウイルスゲノムの効率的複製系による創薬の研究

B型肝炎ウイルス(HBV)は40才以上の約2%が保因者でありHBVによる肝硬変・肝癌は大きな問題であるにもかかわらず、ウイルスを排除する有効な薬剤が開発されていません。また若い年代でも新たな感染が問題となっています。
当研究室ではS抗原欠失により感染性をなくしたHBVゲノムをアデノウイルスベクターに組み込み、プレゲノムRNAを高度発現させることにより、安全なHBVゲノムを非常に効率よく複製させることに成功し、この系を用いて抗HBV薬剤のスクリーニングを共同研究で行っています。
またこの産生法を用いて、HBVゲノムの複製のメカニズムを研究しています。更にHBVの感染を阻止する薬剤の開発を目的として、アデノウイルスベクターを用いてHBVの感染に関する研究を共同研究ベースで行っております。

またHBVのゲノムはDNAですのでHBVゲノムの切断破壊はCRISPR/Cas9の重要な標的のひとつです。
更にHBVは唯一の逆転写酵素を持つDNAウイルスでそのlife cycleは不明な点が多く、ゲノム長は僅か3kb、全ての配列が蛋白コード領域でオーバーラップしているため、重要なウイルスでありながら研究が非常に遅れており他に例を見ない面白いウイルスです。

3.特徴的アデノウイルスベクターの開発と供給

現在共同研究ベースで供給しているのは:

(1)  大容量(helper-dependent AdV,容量は30kbまで)ベクター
    巨大cDNAのin vivo 発現、30kbまでの特異的プロモーターからCreを
    発現するベクターなど
(2)  AdVの欠点であった強い免疫反応が少ない長期発現型ベクター
   (下記は全てこのタイプ)
    [Nakai et al. Hum Gene Ther, 18:925-936, 2007]
(3)  短期発現型ベクター(switch vector: 分化や再生の方向付けに有用)
(4)  shRNAやguide RNAの多重発現ベクター
    (競合するVA遺伝子を欠失したベクター
    [Maekawa et al. Sci Rep, 3:1136,2013]も供給可です)

共同研究をご希望の方は御連絡下さい。