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研究概要

遺伝子の塩基配列変化を伴わない、DNAメチル化に代表される塩基配列の化学修飾様式(エピジェネティックス)は、私たち哺乳類の細胞における分化、細胞アイデンティティーの維持に重要な役割を果たしています。エピジェネティックスによる遺伝子発現調節機構(エピゲノム制御)はiPS細胞樹立に代表されるような細胞運命転換や細胞の老化、さらには再生過程にも中心的な役割を果たすことが示されつつあります。我々は、マウス発生工学およびiPS細胞技術を駆使して、一つの受精卵から始まる細胞の分化から、多細胞からなる個体レベルでの恒常性維持、細胞老化にいたるまで、様々な生命現象におけるエピゲノム制御の理解を目指しています。
一方で、がん細胞において、エピゲノム制御の異常が頻繁に観察され、エピゲノム制御の変化が発がん過程にも関与していることが明らかになりつつあります。我々は、遺伝子配列異常を背景とするがん細胞において、遺伝子配列異常とは独立した真の「エピゲノム制御異常」の解明を目指しています。例えば、iPS細胞技術を用いて、がん細胞のエピゲノム制御状態を積極的に変化させることで、遺伝子配列異常とエピゲノム制御状態との解離をもたらすことにより、がん細胞の生物学的特徴がどのように変化するのかを検討し、がん細胞におけるエピジェネティック異常の意義を明らかにしたいと考えています。さらに、「細胞脱分化」に関わるエピゲノム制御と発がんとの関連を明らかにします。真の「エピゲノム制御異常」とその意義を解明することにより、新たな”エピジェネティックがん治療”開発を目指しています。

Project 1

マウス発生工学、iPS細胞技術を駆使したがん研究
発がん過程において、塩基配列の異常を伴わない、エピジェネティック異常が、重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあります。がん細胞にリプログラミング技術を応用し、がん細胞でのエピゲノム制御状態を積極的に変化させることで、がん細胞における真のエピゲノム制御異常を同定し、その意義を明らかにしようとしています(Cell 2014, Stem Cell reports 2016, PNAS 2017)。がん細胞では、しばしば「脱分化」という現象が観察され、細胞初期化過程との類似性が注目されています。しかしながら、「脱分化」がどのように発がん過程に関与しているのかについては、明らかになっていません。我々は「脱分化」、「細胞初期化」に関わるエピゲノム制御と発がんとの関連を明らかにします。また、遺伝子配列変異に依存しない細胞分化の異常による発がん過程の検証を行います。さらに、がん細胞の運命転換に着目した抗がん剤スクリーニングを行います。日本発のiPS細胞技術とマウス発生工学を駆使した独創的ながん研究を展開しています。

Project 2

生体内細胞初期化システム(Reprogrammableマウス)を使った、個体レベルでの細胞老化、組織再生に関する研究
我々はマウス個体内でiPS細胞が誘導可能な生体内細胞初期化システム(Reprogrammableマウス)を開発しました(Cell 2014)。近年、Reprogrammableマウスを応用して、細胞老化や、組織再生、さらには個体の若返りに関する興味深い知見が明らかになりつつあります。Reprogrammableマウスを用いて生体内での初期化過程を解析することで、個体レベルでの老化や組織再生の分子基盤を明らかします(Cell Stem Cell 2017)。さらには、それらの知見を発がん研究へと応用します。

Project 3

糖尿病根治を目指した膵島細胞の増幅技術の開発、運命転換制御機構の解明
我々は成熟膵島細胞を増幅させることに成功しました(Nature Metabol. 2022)。この結果を応用して、試験管内での膵島細胞の増幅による膵島移植治療や、生体内での膵島細胞を標的とした遺伝子治療による成熟膵島細胞の増殖誘導を目指します。また、遺伝子改変技術と網羅的エピゲノム解析を融合させることで、増幅膵島細胞や老化細胞におけるエピゲノム制御機構の理解を深化させます。

 

 

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