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ご挨拶

ご覧いただきありがとうございます。
2018年4月より臓器細胞工学分野からがん生体分子治療社会連携研究部門へと移行し、新しくスタートを切りました。
特任教授 田原秀晃より新しい研究室についてご紹介させていただきます。

  基礎研究において素晴らしい成果が出ても、がん患者の実際の治療に生かされるまでには、長い年月がかかります。しかし、現状では、この期間が必要以上に長くなっていると指摘されています。この原因はいろいろ考えられます。基礎研究の成果ががん患者さんの治療にどういうインパクトを持つのかを考える機会の無い基礎研究者が多いこと、共通の「言語」や「思考法」を持って情報や意見の交換が出来る基礎研究者と臨床家の少ないこと、そして、短兵急に臨床応用を狙うあまり専門性の低い稚拙な研究に終わってしまう「兼業研究者」の多いこと、などが挙げられるでしょう。

当研究室は、がんに対する免疫療法と遺伝子治療を開発する最先端医療の現状を常に意識して基礎研究を進めることにより、これらのような問題点を打ち破ろうとしています。つまり、臨床試験(トランスレーショナル・リサーチ)に関する理解と経験を持った指導者が、「画期的な新規がん治療の開発」という目標を共有している基礎研究者を育てることにより、問題を解決しようとしているのです。
 常に臨床現場への貢献を意識した基礎研究を進めることは、単に研究の方向性を限定するものと誤解されがちです。しかし、臨床現場であるがゆえに出てくる具体的問題を解決しようとする努力は、その問題の解決のみに留まらず、その背後に存在する根本的原理の発見につながることが少なくありません。なぜこの研究を進める価値があるのか、その理由を堂々と主張できるものこそ、我々の進めたい研究テーマです。
 

短期間での臨床応用を目指します。

私は、卒業後まもなくがん専門病院で研修し、外科手術を中心とした標準治療だけでは救うことの出来なかった数多くの事例を経験しました。この悔しい経験から、がん患者さんを救う新しい方法を何とか探したいとの思いを抱くようになり、それには従来とは根本的に異なる物の見方をする必要があると考えるに至りました。その方法の糸口を探すためにアメリカへ渡り、基礎研究を本格的に始めました。当時のボスと協力して研究を進めるうちに、日本にいるときには想像もしていなかった、自分の行う基礎研究が臨床応用へと進展して行く一部始終を実際に経験することとなりました。さらには、私の研究していたIL-12という分子が発見されてから臨床に生かされるまでの期間は、わずか4年という短いものであったことは、自分にとってもインパクトの強いものでした。このように短期間で研究成果を出せる研究方式を日本でも進めたい、という強い思いを持って、1999年に当研究室の源流となる臓器細胞工学分野をスタートさせ、2018年に発足した現在の研究部門へと展開してきました。臨床応用を進める基盤が弱い日本でも、分子の発見から臨床応用開始までの期間を4〜5年以内に短縮するにとどまらず、最短の期間で多くの患者さんが利用できる標準的治療法とすべく努力してきました。
 

「がん患者さんを一刻も早く救いたい」そんな強い使命感をもつ研究者を求めています。

スピード感ある研究を進めるにあたり、次のような資質を持った人材が望ましいと考えています。
従来の治療法では救えないがん患者さんがここにいると想像してください。我々の研究が早く進まなければ、刻一刻と、がん患者さんの命は失われていきます。ですから日々の研究の中では、自分の研究がどのように臨床に結びつくか、頭の中でイメージできること。そして研究が半年遅れればどれだけのがん患者さんが亡くなるのかを考えられることが重要なのです。”Sense of urgency(何かに追い立てられている感じ)”を大切にして、切迫感をもって仕事に臨むことが求められます。我々の基礎研究によって、これまで救う手立てのなかった患者さんに新しい治療法を提供できる可能性は、拓かれつつあります。臨床に役立つというゴールが定められているため、厳しい研究になるとは思いますが、短期間で成果を出せれば、その分やりがいのある仕事であると確信しています。がんの新しい治療法を見つけ、一刻も早く患者さんを救いたい!そんな強い使命感を持ってともに進めていける人材を求めています。