ウイルスと言ってもさまざまな種類が存在しますが、人に病気を引き起こすウイルスはそう多くはありません。ところが近年、感染すると人が死んでしまうほどの高病原性ウイルスが頻繁に出現しています。

  • このようなウイルスはどこからやってくるのでしょうか?
  • どのように人の体で増殖して、命を脅かすほどの病気を引き起こすのでしょうか?
  • 人を殺すウイルスと殺さないウイルスの違いはどこにあるのでしょうか?

ウイルスにはまだまだ多くの謎が隠されていて、このような単純な疑問に対してさえも明確な答えは得られていません。私たちは高病原性ウイルスのモデルとして、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ラッサウイルスの研究を行っています。高病原性ウイルスの研究は、医学的・社会的に有用なだけでなく、未知の世界を探索するサイエンスとしても魅力的なものだと考えています。

  1. インフルエンザウイルスのゲノムパッケージング機構の解析
     インフルエンザウイルスのゲノムRNAは8本の分節に分かれている。感染細胞から放出される子孫ウイルス粒子が感染能を持つためには、8本に分かれたゲノムRNAすべてを1つのウイルス粒子内に取り込まなければならない。しかしそのメカニズムは、ウイルス学の古典的命題として残されたままだった。
     わたしたちはリバースジェネティクス法を用いて、各ゲノムRNA分節がウイルス粒子内に取り込まれるために必要な遺伝子配列を決定した。それらの塩基配列はRNA分節ごとに異なっていたことから、8種類のRNA分節がそれぞれ区別され、選択的にウイルス粒子内に取り込まれることが示唆された。さらに、細胞から出芽するウイルス粒子の電子顕微鏡解析から、8本のRNP(RNA‐核タンパク質複合体)が規則的な配置に集合し、8本1セットとして取り込まれることが明らかになった。
     これらの成績から、インフルエンザウイルスは8種類のRNA分節を区別して選択的に取り込むことが明らかになった。現在、どのように8種類のRNA分節を選択しているのか、そのメカニズムを解析中である。

  2. エボラウイルスの粒子形成機構の解析
     フィロウイルス科に属するエボラウイルスの特徴は、フィロ(filo=糸状)の名前の由来通り、フィラメント状の粒子構造を形成することである。フィラメント状のウイルス粒子はエンベロープに包まれており、7種類の構造タンパク質から構成される。この特徴的なフィラメント状ウイルス粒子がどのように形成されるのかを明らかにするため、タンパク質発現系を用いて、各構造タンパク質の機能を解析した。
     NPはヌクレオカプシドの核となるらせん構造を形成し、VP24とVP35とともにヌクレオカプシドを形成した。VP40は単独でフィラメント状粒子を形成し、GPとの共発現により、エボラウイルス様粒子を形成した。また、VP40はヌクレオカプシドの細胞内輸送とウイルス粒子内への取り込みに必要であることがわかった。細胞表面から出芽するとき、エボラウイルスは細胞膜から水平に浮上するようにウイルス粒子を形成し、細胞外へと放出されることがわかった。
     現在、ウイルスタンパク質と相互作用する宿主因子の同定と、同定された宿主因子がウイルス増殖環ではたす役割について解析中である。

  3. 動物モデルを用いたエボラウイルスの病原性発現機構の解析
     作成中