緩和ケア医療の臨床研究について

「緩和ケア」と「研究」は結びつけてイメージするのが難しいかもしれません。
ただ近年、「緩和ケア」に関する臨床研究は、治療導入の時期をはじめ新たな知見が多数報告され大いに注目を集めています。


○ 1.臨床研究とは?

 医学研究は、「基礎研究」と「臨床研究」および「疫学研究」に大別されます。基礎研究は、病気の原因や治療効果を調べるために、主に細胞やマウスなどを用いて実験室で行われる研究です。臨床研究は、実際の患者さんを対象とした研究です。疫学研究は、大規模な人口・集団を対象とし、病気の発生率や、検診やワクチンの予防効果などを統計学的に調査する研究です。

 さて、患者さんを対象とする臨床研究は「治験」と「医師主導試験」にさらに大きく分けられます。治験は製薬会社が主導し、新規薬剤の有効性を調べる研究です。医師主導試験は文字通り医師が主導し、自身の診療経験の中で持った疑問(クリニカルクエスチョン)を調べて解決するために行われるものです。

 戦時中など過去に行われた人体実験などの反省から、実際の患者さんを対象とした臨床研究は研究者の暴走を防ぐために厳しい制限が設けられています。患者さんに対して研究の目的や内容をきちんと説明をして同意を得るのはもちろんのこと、研究の安全性と質を担保するために所属施設で慎重な審査が行われ、さらに研究内容を登録して一般公開する、重篤な副作用が発生した場合に規制当局へ届け出る、など臨床研究には患者さんを保護するために様々なルールが定められています。このようなルールをきちんと守って行われた研究は質が高く信頼性が高い結果が得られます。一方でそれにはかなりのコストがかかります。ですから研究は思い付きで安易に行えるものではなく、多くの人が関わり、慎重に計画されて行われます。得られた結果は多くが学会発表や医学論文という形で公表されます。


○ 2.緩和医療の臨床研究について

 「緩和ケア」と「研究」は結びつけてイメージするのが難しいかもしれません。しかしながら近年、欧米から適切な時期に適切な緩和ケアのサポートが入ると、症状の軽減やQOLの改善が得られるだけではなく、寿命が延びることさえあるということが相次いで報告され、大きな注目を集めています。

 新しい薬の有効性を調べるだけが研究なのではなく、様々なつらさの「予測方法」「予防効果」「緩和方法と効果」を研究していくのが緩和医療の臨床研究です。緩和医療で行われているケアや治療薬には実際その有効性が明らかではなく、経験的に使用されているものが少なくありません。新規治療の開発と並行して、既存の治療の有用性についても検証していくことが求められています。このような努力を積み重ねていく結果として、より患者さんがすこやかに過ごすことができるようになっていくのではないかと考えています。