
当研究室では、生体の遺伝情報を司るゲノム(ヒト、マウス、細菌、ウイルス)から個体における病気までを包括的に研究しています。対象としているのは、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、胆道、膵臓などの消化器疾患で、罹患患者数が多い疾患です。胃炎、肝炎、大腸炎など病原体や自己免疫、遺伝子異常などによってひきおこされる炎症性疾患と、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵癌などの悪性腫瘍が主な研究の対象です。とくに臨床的な知見に立脚し、遺伝子・分子レベルでの病態発生機序の解明とマウスモデルなどを用いた新規治療方法の開発を目標とした研究(トランスレーショナルリサーチ)を推進し、医科学研究所のミッションである先端医療の実現を目指しています。
消化器の炎症性疾患の研究として、二つの大きな研究のテーマを設定しています。一つは微生物による炎症です。慢性胃炎ではヘリコバクターピロリ菌、慢性肝炎ではB型、C型肝炎ウイルスが炎症を引き起こしています。これらの病原体と宿主の相互作用について、介在分子を同定し、炎症発生機序を検討しています。また腸内細菌叢のバランス異常が発生する機序やその臓器への影響について、糞便やマウスモデルを用いた解析を行っています。炎症における二つ目のテーマは自己免疫の異常です。ゲノム医学の進歩により自己免疫性疾患に関連する遺伝子が多数見つかってきていますが、そのほとんどの遺伝子についてどのように免疫異常や炎症を引き起こすのか、さらに治療標的になるのかなどは分かっていません。我々はこれらの遺伝子異常を臓器特異的に導入したマウスを用いて、遺伝子異常が免疫異常を引き起こす機序を検討しています。これらの研究によっていろいろな臓器の炎症で中心となる細胞、サイトカイン、遺伝子異常などを発見し、自己免疫性胃炎、潰瘍性大腸炎、原発性硬化性胆管炎などの炎症性疾患の新規治療法を探索しています。
消化器癌の研究では、胃癌や胆道癌などの発生機序とその治療法を研究しています。臨床的には、慢性炎症がそれぞれの臓器の発癌に関与していることがわかっているので、炎症から癌化にいたるメカニズムを遺伝子レベル、細胞レベル、個体レベルで検討しています。おもに遺伝子改変マウスを用いた実験によって、炎症の制御による胃癌や胆管癌などの予防法の基礎的な検討、発癌に関わる遺伝子異常の役割の解明などを行っています。組織幹細胞についてもとくに発癌との関係に着目しており、系譜追跡、オルガノイド培養、遺伝子編集などを用いてその発癌における特徴や役割を検討し、新規の診断法や治療法につなげるための基礎的研究を推進しています。
研究室ではこれらの基礎研究を行いながら、東京大学新領域創成科学研究科メディカル情報専攻の協力講座、「医科研病院における非MD系TR人材育成による先端医療の飛躍的展開事業」、東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「活力ある超高齢社会を共創するグローバルリーダー養成プログラム」も担当しています。これらの教育プログラムを通じ、これからの先端医療を支える人材を育成にも注力しています。充実した研究設備とアットホームな研究環境を整え、個性を尊重しつつ、日々研究に取り組んでいます。
