2. DNA維持メチル化機構

 
 DNAのメチル化はもっともよく知られたエピジェネティックな修飾のひとつであり、その多くはCpG配列のシトシン塩基の5位 の炭素にメチル基が付加されることにより生じる。メチル化されたDNAはメチル化DNA結合タンパク質を集積することにより、 クロマチンの構造変換を誘導し転写の抑制的な制御において重要な役割をはたす。  細胞は分化にともなう固有の遺伝子発現パターンをもつことが知られるが、これにDNAメチル化が必須の役割をはたしている。 いったん確立したDNAメチル化のパターンは、細胞の増殖にともない娘細胞に正確に伝達される必要がある。この伝達は維持DNA メチル化とよばれる分子機構により制御されており、その破綻は異常な発生および分化、またゲノムの不安定化をひき起こす。
メチル化されたDNAはDNA複製にともない片方のDNA鎖のみが一過的にメチル化されたヘミメチル化DNAとなる。これは、 DNA複製装置そのものはDNAのメチル化を読み取り新生DNA鎖にメチル基を付加する活性をもたないためである。維持DNA メチル化酵素であるDnmt1は、ヘミメチル化DNAを基質とし新生DNA鎖にメチル基を付加する。Dnmt1のDNAメチル化部位への 集積はヘミメチル化DNA結合タンパク質であるUhrf1に依存して起こるが、どのような分子機構で制御されているかについては ほとんど分かっていなかった。
 アフリカツメガエルの卵に由来する無細胞系を用いて維持DNAメチル化の過程を試験管内で再現し生化学的な解析を行った。 その結果、Uhrf1はDNA複製に依存してヒストンH3の23番目のリジン残基をユビキチン化すること、またユビキチン化された ヒストンH3はDnmt1と直接に相互作用することにより、DNAメチル化部位へのDnmt1の集積において重要な役割をはたすことを 見い出した。ヒトやマウスの細胞においても同様の結果が得られ、ヒストンH3のユビキチン化を介した維持DNAメチル化の制御が 進化的に保存された分子機構であることが示された(図1)。
今後、さらに詳細にDnmt1が認識するユビキチン化ヒストンH3の構造や、リクルートされたDnmt1がどのようにして フルメチル化を触媒していくのかについて解析を行う。またDnmt3a,3bにより制御されるDNA維持メチル化機構についても 明らかにしていく。