老化・癌化研究の未来

老化・癌化研究に興味を持つ皆さんへ

 東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門 癌防御シグナル分野は平成28年4月1日に開設された、新しい分野です。 これまでは、名古屋市立大学大学院医学 研究科で活動してきました。我々の研究室のテーマは、“なぜ人は老いるのか?”、 “なぜ人はがんになるのか?”といった非常にシンプルかつ重要な生物学的 命題を明らかにすることです。

現在日本は超高齢化社会を迎え、平均寿命も年々延び続けています。100年前の平均寿命と比較して1.5倍以上の伸び率です。 しかしながら、最大寿命は今 も昔も100歳を少し超える程度で、大きく変わってはいません。これは、人の最大寿命は環境により伸びることはなく、何か別の要因によって規定されている ことを意味しています。他の生物種を見ても、マウスなどの齧歯類の最大寿命は数年程度ですが、カメは人より長寿で200年以上生きることがわかっていま す。人、マウス、カメの間での遺伝子の平均相同性は平均80%程度ですから、遺伝子情報の相違だけでこれだけの最大寿命の違いを説明するのは困難です。“老化学”はまさにこれから様々な疑問に科学のメスが入れられようとしています。

一方、がんは日本人の死因の第一位であり、がん克服は国民全員の願いです。がんについては発がんから進展、転移に至るまで、その原因についての解明が進め られ、徐々にですが全体像がわかりつつあります。しかしながら、がんの治療法や予防法の開発については、病態の理解に比較してその進みが遅遅としているこ とは否めません。私たちの研究室では、正常細胞に備わったがん化を防ぐ分子機構を解明し、発がん過程でなぜ防御システムが異常を来すのか?を明らかにした いと考えています。また 異常を来した防御システムを回復することで、全く新しいがん治療法・予防法が開発できるのではないかと考えています。

老化とがん化は細胞増殖の面から見ると相反する現象であることは明白です。最近の私たちの研究成果から、老化とがん化は密接に関連した分子機構により制御 されていることがわかってきました。俯瞰的に老化、がん化を理解することで、健康寿命を伸ばすという人類の夢に貢献できればと思っています。