研究室の紹介
 (2012年3月まで)

・背景
・研究目標

・大学院生の教育
・卒業後の進路




背景

私達の社会は新興・再興感染症あるいは高齢化・高度医療にともなう日和見感染症の増加等、感染症に関連する多くの問題を抱えています。感染症は、人々の社会活動や医療の現場においても、大きな損失をもたらす原因となります。また、開発途上国では今なお昔からの伝染性疾患に多くの人々が苦しめられています。病原微生物により引き起こされる感染症は、21世紀に持ち越された人類の課題の一つであるといわれています。このような背景で、私達の研究室では、病原細菌の感染成立と宿主応答の分子機構の解明を行い、その知見を細菌感染症の予防・治療へ積極的に応用することを目指しています。

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研究目標

私達の研究室では粘膜病原細菌(赤痢菌、ヘリコバクターピロリ、腸管出血性大腸菌、腸管病原性大腸菌)の感染分子機構と感染に対する宿主応答機構を解明し、その研究基盤を感染、発症制御へ転化することを目指しています。

病原細菌と疾患との関係は比較的明瞭ですが、感染の成立と発症の分子メカニズムはまだよく理解されていません。病原細菌の多くは粘膜上皮に付着し病原性を発揮します。そのなかの多くの菌は、宿主細胞へ密着し(例えばヘリコバクターピロリ、腸管出血性大腸菌、腸管病原性大腸菌)、さらにあるものは(例えば赤痢菌)上皮細胞へ侵入します。また侵入した一部の細菌は、粘膜上皮細胞間を拡散し、あるいは食細胞内で生存し、粘膜を通 過して他の組織や全身に感染を拡大して重篤な病気を引き起こすこともあります。近年、多くのグラム陰性病原細菌が、感染の成立過程で様々な機能性分泌蛋白質(エフェクター)を宿主細胞に分泌し、それに伴い宿主細胞や組織に過剰炎症応答や恒常性維持機能の障害が生じ、その結果 として様々な疾患が引き起こされることが次第に明らかになってきました。

私達の研究室では、粘膜原細菌が感染の各過程で分泌するエフェクターを数多く同定し、それらと宿主因子の相互作用およびそれにより生ずる細胞機能障害、免疫過剰応答を解明する研究を行い、多くの成果 をあげてきました。また細菌から宿主細胞内へ分泌されるエフェクターのデリバリーシステムとして脚光をあびている、タイプIIIおよびタイプIV分泌機構についての研究を行い、それらの超微細構造を次々と明らかにしてきました。またその分泌機構、エフェクターによる宿主細胞骨格蛋白質のリモデリング、RhoGTPase活性化機構、核内免疫関連遺伝子応答等でも、現在興味ある知見が得られつつあります。さらにまた、病原細菌は感染にともない宿主細胞から誘導される炎症反応を一時的に抑制する能力を持つことが強く示唆されています。即ち、病原細菌が宿主内に定着するために、急激な宿主炎症応答を抑制することが、細菌にとって重要であると考えられます。この機能の解明も、細菌の粘膜感染の成立過程を知るうえで大切です。

私達の研究グループは、このような感染の各過程における細菌と宿主の相互関係を時間的・空間的に明らかにし、最終的にそれらを統合して細菌の粘膜感染システムを解明することを目指しています。いうまでもなくこのような研究は、細菌の感染を予防あるいは制御する手段(診断法、ワクチンや薬剤等)を開発するために欠かせないばかりでなく、また同時に、生物の普遍原理・現象を発見する手掛かりとしても、極めてチャレンジングな領域として知られています。私達は、このような目標に向かって、ゲノムサイエンス、分子細胞生物学、細胞微生物学、生化学、免疫学、実験病理学的手法を駆使して、「感染」という「自己」と「非自己」の相互作用の生物現象を多面 的に解明する努力を行っています。

さらに応用的研究として、赤痢菌の新規なワクチン開発の基礎的研究を行っています。感染初期の免疫応答を詳しく調べ、病原因子の一部を改変して炎症誘導を人為的に抑制した弱毒化ワクチンを作る努力を続けています。また、病原性大腸菌やヘリコバクターピロリ菌の付着を阻害する糖鎖を中心とした物質の探索を行うとともに、動物感染モデルを利用してその物質が菌の定着を阻害するかどうかを明らかにする研究を開始しています。一方、強毒な病原細菌のビルレンス遺伝子を破壊し、微生物の実習や企業の研究室でも安全に取り扱いのできるセーファーストレインを作り、それらを分与することも行っています。

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大学院生の教育

東京大学医科学研究所では、研究を進めるとともに、伝統的に大学院教育にも心血を注いできました。私達は東京大学大学院医学研究科 病因病理学専攻、および新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻の教官として、研究という実践教育を通じて将来独立した研究者(principal investigator)や教育者を目指す優秀な大学院生を育てることを、大きな使命としています。私の研究室では、博士課程の大学院生に対して一流の国際誌に筆頭著者として研究成果 を発表することを学位取得の前提条件としています。そのために必要なマンツーマン方式の研究教育を実践しています。
4月に入学した新入生は、必要に応じて研究室内のいくつかのプロジェクトチームのところで短期間の研修を行います。基礎的実験技術を修得するとともに、早く研究室のメンバーとして活躍するためです。またこの機会に、バイオハザード対策に必要な基礎知識と技術(例えば病原細菌の安全な取り扱いと管理等)も学びます。
研究室では教授と実験について個人的なデイスカッションを随時行っています。また講師や助手のスタッフと机を並べ、日頃から実験技術やその他研究に必要な相談をしやすい環境を整えています。研究室では、2ケ月に一回程度、全員参加のデータ発表会を行っています。また必要に応じて、不定期ですが、研究に関連する分野のトピックスのレビューも土曜日の昼食を利用して行われています。
私達の研究室では、大学院生の博士論文を目指した研究に対して職員は最も多くの精力を傾けています。その結果 として、私達の研究室から発表される優れた論文の多くが大学院生によるものです。4年間の博士課程の中間点以降では、大学院生は学会発表の機会に恵まれることが多くあります。また、この時期に最初の論文が完成することも少なくありません。そのような場合には、国内で開催される国際集会にも積極的に参加し、研究発表を行います。一方、教授は医学部のM1を対象とした微生物学講義(細菌感染症、細菌性毒素と疾患)や大学院生を対象とした共通 講義を担当しており、必要に応じて自由に参加できます。さらに大学院生は研究所で毎週月曜に開催される、大学院特別 セミナーを通年受講することにより、医学から生物学まで最先端の知識を広く学ぶことができます。

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卒業後の進路

博士号を取得することは研究者としての第一歩を踏み出すことを意味します。大学院を修了して、引き続き特別 研究員(ポスドク)として研究を発展させ、さらなるレベルの論文の完成を目指す人もいます。あるいは、技官や助手のポジションが運良く空いた場合には(研究室では回転が比較的早い)、それを特別 研究員に提示することもあります。あるいは、他の大学や研究所の助手や研究員に採用される場合もあります。しかし、研究室では博士取得後あまり月日が経たない内に、海外の一流のラボへ2〜3年、武者修行(留学)に行くことを推奨しています。

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