川口 寧

1967年 東京生まれ
趣味:酒を飲むこと
   スポーツ全般(特にスキー、野球)

  私が医科学研究所に赴任し、独立した研究室を主催するようになってから、はやいもので3年半がたちました。この3年半の間、研究室員、特に、大学院生の精力的な研究遂行と努力によって、多くの研究成果を挙げることができました(研究業績参照)。その中でも、「生きた感染細胞でのリアルタイムイメージング系の確立とそれを利用したウイルス最終構築の場の特定」、「ウイルスの2つの侵入経路を決定しているウイルス受容体」に関する2つの論文が、ウイルス学で最も評価の高い専門学術誌である’Journal of Virology’のエディターによって特に重要な知見として評価され、SpotLightとして巻頭で紹介されました(J. Virol. SpotLight 82: 5117, 2008) (J. Virol. SpotLight 83: 3999, 2009)。さらに、「ウイルスがコードするリン酸化酵素の新規基質の同定およびその生物学的意義の解明」に関しては、各分野のエキスパートが選ぶ重要な論文としてFaculty of 1000 Biologyにおいて’Must Read’の評価を受けました。私達のウイルス研究が世界レベルで認知されていることを実感することはウイルス研究者として嬉しい限りです。これらの業績を残した大学院生は、「東京大学大学院新領域創成科学研究科・研究科長賞」、「日本獣医学会・獣医学奨励賞」をそれぞれ受賞しました。私達の研究室の研究者の卵達の活躍も頼もしい限りです。

  様々な感染症を引き起こすウイルスは、DNAまたはRNAのいずれかを遺伝子として持ち、そのまわりをタンパク質の外殻が囲んでいる極めて小さく、かつ、単純な構造をもつ粒子です。おもしろいことに、この小さく・単純なウイルスがヒトや動物に感染すると複雑な病気を引き起こします。そして、これらの病気の制圧は困難な場合が多いのが現状です。さらに、これらの病原性ウイルスを人工的に調教することによって、癌や難治性神経疾患の治療に利用するといった試みも盛んに行われています。このように、‘ウイルス’は非常に魅力的な研究対象なのです。

  私達の研究室では、DNAを遺伝子として持つウイルスである‘ヘルペスウイルス’をモデルとし、「ウイルスがどの様に増殖するか?」「どの様に宿主に病気を引き起こすか?」といった基礎研究を推進しています。また、基礎研究で得られた知見を基に、ウイルスの制圧に直結する新しいワクチンの開発や抗ウイルス剤の開発、さらには、基礎研究によって明らかになったウイルスの性質を巧みに利用することによってウイルスを調教し、ヒト疾患に対する遺伝子治療ベクターの開発やウイルス療法に利用する研究を行っています。

  私達が主に研究対象としている単純ヘルペスウイルスは、全世界で数千万人が罹り、治療費も数千億円を超えるといった医学上極めて重要なウイルスです。また、古くから研究が精力的に行われ、数あるウイルスの中でも最も研究が進んでいるウイルスの1つです。一方、弱毒化した(調教した)単純ヘルペスウイルスは癌や難治性神経疾患の新たな治療に利用が試みられています。私達の研究室では、独自に開発したウイルス遺伝子操作系、ウイルス特異酵素の解析系、生きた感染細胞でのリアルタイムイメージング系を駆使し、試験管内での生化学的および分子生物学的解析から、培養細胞レベルでの細胞生物学的およびウイルス学的解析、さらには、病態モデル動物を用いた実験動物学的解析等、多岐に渡る研究を行っております。そして、医学上極めて重要なウイルスの病原性発現機構の全体像を明らかにし、それを基に、新しいウイルス制御法の確立、さらには調教ウイルスによるヒト疾患治療への応用という命題に、私を含めた若い研究員や学生達がチャレンジしています。最先端のウイルス研究に私達と共に参加してみませんか?私達の研究に興味がある方は、研究室を訪れてみてください。(2009年4月15日)