センター概要

「革新的な次世代粘膜ワクチン研究開発事業」

センター長・教授 清野 宏

清野 宏

抗生物質の発見、ワクチンの開発及び公衆衛生の進歩は多くの感染症の制御を可能とし、20世紀の人類の福祉と社会の進歩に大きく貢献してきました。しかし、1)薬剤耐性や易感染性宿主、院内感染等の全く新しい問題の出現、2)貧困と感染症の蔓延という悪循環を繰り返す発展途上国の状況、3)エイズ、結核、マラリアをはじめとする新興・再興感染症の出現などにより、免疫・感染症研究は新たな対応を迫られるところとなりました。また、花粉症や食物アレルギーといったアレルギー疾患や癌も先進国を中心に深刻な問題となっています。感染症・アレルギー・癌の主要発症部位となっているのは、呼吸器、消化器、泌尿・生殖器などの粘膜組織であることから、生理的状態から疾病形成に至る粘膜免疫システムの包括的な理解のための基礎研究と人為的な免疫系の操作を可能にする基盤技術の創出が、新規の予防・治療法の開発に必要不可欠と考えられます。

このような状況のもと、免疫研究の推進において世界の先導的役割を担っている我が国が次世代を担う病気の予防・治療戦略として「粘膜ワクチン」の開発を率先して行うことは、国際社会の中で貢献すべき重要な役割の一つと言えます。このような機運の高まりを受け、東京大学医科学研究所は、現在まで培ってきた免疫学、感染症学、癌生物学、ゲノム医科学の知的技術基盤を横断的に融合する国際連携研究を推進するため、平成23年に国際粘膜ワクチン開発研究センターを設置しました。当センターでは粘膜ワクチンに関する基礎研究および医療応用を推進することで、新学術領域としての「粘膜ワクチン学」を創成し、当研究領域において次世代型ワクチン実用化研究を推進し、次世代を担う研究者育成の拠点となることを目指しています。

炎症免疫学分野(清野宏センター長/教授)では、腸管での抗原取り込み細胞であるM細胞の免疫発生学的解析、種々の粘膜関連組織形成メカニズムの解析(鼻咽頭、涙道)、腸内細菌と宿主間における相互作用の解析を行っています。また、医学、農学、工学異分野融合によるコメ型経口ワクチンMucoRiceの研究開発を進めており、コレラ毒素のBサブユニットを抗原としたMucoRice-CTBの臨床試験が最近スタートしました。粘膜バリア学分野(長谷耕二特任教授)では、M細胞に発現する抗原取り込み受容体を網羅的に同定し、その中からワクチン送達標的分子を絞り込みます。さらにはこれら標的分子のリガンドを決定し、リガンド蛋白質とワクチン抗原の融合蛋白質を作成することにより、次世代粘膜ワクチンの開発を目指します。自然免疫制御学(植松智特任教授)では、IgA産生に関わる腸管粘膜樹状細胞を標的としたワクチン開発と、皮下の樹状細胞を粘膜型に変換するアジュバントを探索し、分泌型IgA中和抗体を誘導出来るワクチン開発を目指します。さらに、センター内に製薬、ワクチンななどの民間企業との社会連携講座や共同研究ユニットを誘致し、drug delivery systemの技術提携、ハイスループットの標的分子探索、製剤化のための共同研究などの基盤を整備します。さらに、同センターのミッション達成に向けて、出口戦略として、研究早期に参画企業の創薬・実用化視点による基礎研究と応用研究を識別し、戦略的研究を推進する。これら産学連携により革新的なワクチン基盤技術の創出を行い、得られたシーズ、製剤化されたワクチンに関しては、医科学研究所附属病院において臨床試験、臨床研究、治療の実施を行う。産学連携の実現から実際の臨床試験までを医科学研究所内で有機的に推進し、次世代粘膜ワクチンの開発を行います。