東京大学医科学研究所

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発表論文解説

培養細胞での増殖能を大きく上昇させたインフルエンザウイルスの作製に成功 ~季節性ワクチン及びパンデミックワクチンの有効性上昇と迅速製造の道筋をつけた~

Nature Communications DOI: 10.1038/ncomms9148
Jihui Ping1, Tiago J.S. Lopes1,2, Chairul A. Nidom3, Elodie Ghedin4,5, Catherine A. Macken6, Adam Fitch5, Masaki Imai1, Eileen A. Maher1, Gabriele Neumann1 & Yoshihiro Kawaoka1,2
1. ウイスコンシン大学、2. 東京大学医科学研究所、3. エアランガ大学、4. ニューヨーク大学、5. ピッツバーグ大学、6. オークランド大学
Development of high-yield influenza A virus vaccine viruses

インフルエンザワクチンは受精卵を用いインフルエンザウイルスを増殖させて製造していますが、それは受精卵でのウイルスの増殖性が勝れているからです。しかしながら受精卵でインフルエンザウイルスを増殖させると主要な抗原であるヘマグルチニン(HA)に変異が入り、そのため実際の流行株と抗原性が異なることとなり、ワクチンの有効性が低下することが知られています。そのために製造中に抗原に変異の入らない方法として培養細胞でウイルスを増殖させワクチンを製造することが行われており、既に実用化されています。しかしながら、培養細胞ではウイルスの増殖性が満足いくものではなく、迅速で十分な量のワクチン供給には制約が生じることになります。河岡教授らの成果はこの増殖性の低さを大きく改善するもので、培養細胞ワクチンの迅速な供給を可能にするものです。
 河岡教授らはリバースジェネティクス法(注1、図2)を世界に先駆けて開発し、インフルエンザウイルスに自由に変異を入れる手法を持っています。インフルエンザウイルスは8本の遺伝子を持っていますが(図1)、インフルエンザの研究で多用されるA/PuertoRico/8/34(H1N1型)の8本の遺伝子のうち、主要抗原であるHAとノイラミニダーゼ(NA)以外の6本の遺伝子(以下、PR8のバックボーンと称します)ごとにランダムに変異をあるいは高増殖性を与えることが示唆されている変異を導入した遺伝子を作成し、リバースジェネティクス法を用いて多様なウイルスを人工的に作出しました(図2、3)。そのウイルスを培養細胞ワクチン製造の際に繁用されるMDCK細胞(注2)及びVero細胞(注3)に感染させてウイルスを回収する操作を繰り返すことにより高い増殖性を示すウイルスを単離しました(図3)。最終的に3つの遺伝子のプロモーター領域(注4)に変異を持ち、7カ所のタンパク質に変異の入った高増殖性を与える変異を同定しました(図4)。これらの変異を有するPR8のバックボーンを基に、新型ウイルスであるH5N1型やH7N9型、季節性ウイルスであるH1N1型やH3N2型のHAとNAを入れたウイルスを作成し、Vero細胞、MDCK細胞、受精卵で高い増殖性を示すことを確認しました(図5)。
 以上の成果は今回同定した特定の変異を持つPR8バックボーンを使用することにより、多くの型のインフルエンザウイルスのHA、NAを持つ高増殖性ウイルスを短期間で作成可能となったことを意味しています。このことは季節性インフルエンザワクチンとパンデミックインフルエンザワクチンの製造に大きなインパクトを与えます。
 季節性インフルエンザワクチンは受精卵を用いて製造されていますが、その製造過程で抗原性に変異が入るため、ワクチン接種により抗インフルエンザ抗体ができたとしても、実際の流行株との反応性が減弱するためワクチンの有効性が低下します。変異の導入が最小限となる培養細胞で増殖したウイルスを用いてワクチンを製造することで、従来のワクチンより有効性の上昇が期待できることになります。
 新型インフルエンザウイルスによるパンデミック対応は製造の迅速化や受精卵入手の制限回避を目的に、国が主導して培養細胞ワクチン製造が行われています。しかしながら、原状ではウイルスの増殖性の低さが原因で十分な供給量を確保できずワクチン製造会社では苦慮しております。今回の成果は迅速に十分量のワクチン供給を可能とする手段を与えるものです。
注、図まとめ(PDF)