東京大学医科学研究所

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発表論文解説

新しいエボラワクチンの開発に成功~ワクチンの有効性をサルで証明~

Science DOI: 10.1126/science.aaa4919
Andrea Marzi, Peter Halfmann, Lindsay Hill-Batorski, Frederike Feldmann, W. Lesley Shupert, Gabriele Neumann, Heinz Feldmann and Yoshihiro Kawaoka
An Ebola whole-virus vaccine is protective in nonhuman primates

<研究の背景と経緯>
エボラ出血熱は、エボラウイルス感染によって起こる全身感染症です。致死率が非常に高く、効果的な治療薬やワクチンがないため、公衆衛生上非常に深刻な問題を引き起こしています。西アフリカ諸国におけるエボラ出血熱の流行は、2014年3月のギニアでの集団発生が引き金となり、住民の国境を越える移動により隣国へと流行が拡大しています。2015年3月15日現在の世界保健機関(WHO)の報告によると、エボラ出血熱の患者数は24,000人を超えており、そのうち10,194人が死亡しています。欧米諸国でも、流行地から帰国した医療関係者を中心に、数名の感染者が出ています。日本でも、流行地からの帰国者の中に、エボラ出血熱の疑いのある人が出ています。現在までのところ、陽性患者は出ていませんが、日本にもエボラウイルスが入ってくる可能性は大いにあります。そのため、エボラ出血熱の予防・治療方法を確立することは急務です。
現在、三種類のエボラワクチンの臨床試験が行われていますが、その効果や安全性の問題が懸念されています。例えば、エボラDNAワクチンは、単独使用では効果が低いため、他のワクチンと併用する必要性などがあります。またアデノウイルスベクターを用いたエボラワクチンは、十分な効果を発揮するために、大量のウイルスを培養する必要があるため、ワクチン製造の効率化が課題です。さらに、水疱性口炎ウイルスベクターを用いたエボラワクチンは、生ワクチン接種による副反応が問題となっています。そのため、安全性が高く効果的な新規エボラワクチンの開発が望まれています。

<研究の内容>
これまでに本研究グループは、エボラウイルスの増殖に必須の遺伝子VP30を欠損した変異エボラウイルス(以後、“エボラΔVP30ウイルス”と呼ぶ)を、人工的に作製しました。このエボラΔVP30ウイルスは、通常の細胞では増えませんが、VP30蛋白質を発現する人工細胞で効率良く増殖することができます。したがって、エボラΔVP30ウイルスは、特定の人工細胞でしか増えられないためより安全であり、また上記のエボラワクチンと違って、エボラウイルスのほぼ全てのウイルス蛋白質を有するため、より高いワクチン効果が期待できると考えられます。
本研究グループは、エボラΔVP30ウイルスのワクチンとしての効果を調べるために、107個のエボラΔVP30ウイルスをサルに筋肉内接種し、4週間後に、致死量の野生型エボラウイルスを感染させました。免疫をしていないコントロールのサルが全て死亡したのに対して、エボラΔVP30ウイルスで免疫したサルは生残しました。
上述の通り、エボラΔVP30ウイルスは、普通の細胞では増えませんが、特定の人工細胞では増えます。より安全なエボラウイルスワクチンを開発するため、本研究グループは、エボラΔVP30ウイルスの不活化方法の検討を行いました。本研究では、1)ガンマ線を用いた方法と、2)過酸化水素水を用いた方法によって不活化したエボラΔVP30ウイルスのワクチン効果の評価試験を行いました。不活化したエボラΔVP30ウイルスによって2回免疫したサルに、致死量の野生型エボラウイルスを感染させたところ、ガンマ線で不活化したエボラΔVP30ウイルスで免疫したグループのサルは全て死亡しました。それに対して、過酸化水素水で不活化したエボラΔVP30ウイルスで2回免疫したグループのサルは全て生残し、またいずれの臨床症状も示しませんでした。
以上の結果から、過酸化水素水で不活化したエボラΔVP30ウイルスを免疫したサルは、エボラウイルス感染を防御することが分かりました。

<今後の展開>
本研究結果によって、過酸化水素水で不活化したエボラΔVP30ウイルスは、安全性が高く、効果的な新規エボラワクチンとして有望であることが示されました。本ワクチンによって、現在臨床試験が行われている3種類のエボラワクチンの問題点が解決できる可能性が高く、エボラ制圧に向けて大きな一歩となることが期待されます。
今後は、少ない回数の免疫でも十分なワクチン効果を発揮できるよう、不活化したエボラΔVP30ウイルスの免疫原性を高める方法を模索します。また、早期実用化を目指して、人に接種できる安全性基準を満たしたワクチン製造や臨床試験等を進めていく予定です。