東京大学医科学研究所

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発表論文解説

ロタウイルス感染症治療及び予防コメ型経口抗体療法の開発

The Journal of Clinical Investigation August 8, 2013, Doi:10.1172/JCI70266
徳原大介1,2、Beatriz Álvarez3、 目島未央1、 廣岩友子1、高橋裕子1、黒河志保1、 黒田昌治4、尾山大明5、秦裕子5、野地智法1、相良 洋5、 Farah Aladin6、Harold Marcotte3、Leon G.J. Frenken7、Miren Iturriza-Gómara8、清野 宏1,9、 Lennart Hammarström3、幸 義和1,9
1東京大学医科学研究所炎症免疫学、2大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学分野、3スエーデンカロリンスカ研究所臨床免疫学、4中央農業総合研究センター北陸研究センター、5東京大学医科学研究所疾患プロテオミックスラボラトリー、6英国健康保険庁、7オランダユニリーバ社、8英国リバプール大学、9東京大学医科学研究所国際粘膜ワクチン開発研究センター
Rice-based oral antibody fragment prophylaxis and therapy against rotavirus infection

ロタウイルスは全世界で年間1億140万人の子供たちに感染し下痢症を誘発しており、早急な予防及び治療法の開発が求められている。現在は2種の経口ロタワクチンが開発され、日本を含む世界数十ヵ国で承認されている。しかし、ロタウイルスに対するワクチン接種は、腸重積(腸管が腸管にはまり込むことでおこる腸閉塞)のリスクを避けるために生後6週~32週の間に限られている。加えて、ロタウイルス感染の流行時、病院での突発的発生時、地震等の災害時、乳幼児が免疫不全である場合には投与できない。そのため、ワクチンが接種できない状況下で使用が可能な安価な第二の戦略が必要である。この第二の戦略として、ロタウイルスに対する抗体を経口投与する受動免疫療法が考えられるが、従来のポリクローナル及びモノクローナル抗体は一般的には大量製造ができず、高価で、かつ不安定であるため経口受動免疫療法には不向きである。これに対して最近、従来の抗体に比べ酸、熱等に安定なラマ由来の1本差抗体分子の抗原結合部位フラグメントが比較的低分子(分子量12kDa)であるため"ナノ抗体"として注目されている。
東京大学医科学研究所 炎症免疫学分野 助教 幸 義和と同分野リサーチレジデント 徳原大介(現 大阪市立大学大学院 医学研究科 発達小児医学分野講師)らの研究グループは、コメ型経口ワクチンMucoRice開発技術で培ったイネ発現系を用いて、ヒトに感染する代表的な5株の異なったロタウイルスを中和できるナノ抗体(コード名:ARP1)を高発現させたコメ(MucoRice-ARP1)を開発した。MucoRice-ARP1のナノ抗体発現は玄米重量の0.9%に達し、そのコメ粉末を生理食塩水で懸濁すると、できたナノ抗体の95%に当たる0.85%が上清(抽出液)に溶けた。そこでロタウイルス(RRV)を感染させた幼弱マウスにこの抽出液を経口投与した結果、予防的経口処理のみならずロタウイルスを感染させた後の治療的経口処理においても下痢を有意に抑制した。MucoRice-ARP1は常温1年以上安定で、MucoRice-ARP1抽出液は30分間煮沸してもなお、煮沸していない抽出液と比べた場合に、幼弱マウスの下痢抑制効果を40%以上保持した。その他にもコメの代わりに酵母に作らせ、部分精製したARP1ではバングラデシュでの臨床研究で下痢抑制効果を確認しており、MucoRice-ARP1は酵母に作らせたARP1と同等の効果とそれ以上の高い安定性と低価格を実現できると見込まれる。無精製MucoRice-ARP1コメ粉末は、開発途上国での使用はもちろん、先進国においても、ロタウイルスの突発的発生や災害時のみならず、ワクチン接種を逃した乳幼児や免疫不全の乳幼児等の感染予防・治療用抗体として、投与時に水に懸濁させて”飲む抗体”として使用することが可能である。本研究で開発された経口抗体療法はロタウイルスのみならず、ノロウイルスのような他の腸管感染症の予防と治療への道を拓くものと期待される。
本研究成果は責任著者 幸 義和(東京大学医科学研究所 炎症免疫学 助教)、第一著者 徳原大介(同レサーチレジデント、現大阪市立大学大学院 医学研究科 発達小児医学分野 講師)、清野 宏(東京大学医科学研究所 炎症免疫学 教授)、Miren Iturriza-Gomara(英国リバプール大学 講師)、Leon G.J. Frenken(オランダユニリーバ社)、Lennart Hammarström(スエーデンカロリンスカ研究所 教授)らによる国際共同研究の成果によるものである。